上 下
2 / 6

2話 超レアスキル

しおりを挟む
 室内演習場に集められた生徒たちの心は打ち砕かれていた。
 寒い親父ギャグを混ぜた校長の長い長い挨拶は学校創設の歴史から始まり、昨今のスキルの重要性を経て、勉学と青春に打ち込んだ昔話を語るとようやく終わったようだ。

 クライは睡眠不足が重なり頭を上下に揺らして、失神寸前で耐えていた。
 校長の挨拶が終わったと思えば別の教員から追い打ちをかけるようにスケジュールの説明があったがこちらは淡々と進んでいく。
  教員も校長の長話には嫌気がさしていたらしい。

 そして、少しの休憩を挟めばこの日一番のイベントが始まる。いや、人生で一番のイベントが始まる。
 教員に連れられて神殿のような建物に入ると、祭壇の上に真っ白で巨大な球体が浮いていた。
 球体は『真理の球体』 と呼ばれ国内に数個しかない国宝でもある。
 横に立つのは女性の聖職者とその後ろに控える二人の聖職者。

「これより、皆様のお名前を1人づつ呼んでいきますので、呼ばれたものは前に出てください。 この真理の球体に触れれば神のご加護により、スキルが授けられます」
 女性聖職者によって名前が呼ばれていく。

「クライ、震えてるけど大丈夫」
「これは感激して震えてんの!! あれが真理の球体だぞ、神々しすぎるだろ。それにエレナだって青ざめて緊張してるじゃん」
「まっ、まぁね、ちょっとだけよ」

「何のスキルになるかな? レアスキルになった日には英雄の仲間入りだよな、すべてを平伏させる『重力操作グラビキネシス』やどこにでも自由自在に移動できる『空間転移テレポーテーション』に『召喚サモン』で強力なドラゴンや百匹以上のモンスターを使役するってのもいいよな」
 クライは手に持っていたスキル大全を見ながら熱く語る。

「レアスキルなんてそうそうでないからレアなのよ」
「確かに、ありきたりなスキルでも英雄になってる人はいるもんな。すべてを然やし尽くす『火炎操作パイロキネシス』、地形を変動させる『大地操作アースキネシス』、竜巻を起こす『烈風操作ウィンドキネシス』なんかいいな」

 クライのスキルマニアに火がついて止まらなくなっている一方で続々と名前が呼ばれスキルが授けられていく。
 そしてスキルが授けられたものは横へはけて待機しているが、喜びを表すもの、顔を下に向けて悲しむものと様々な様相を見せている。

 有能なスキルを得ることができれば将来は安泰したといっても過言ではないため、一喜一憂するのは当然だろう。
「……エレナ・ブライゼ、 前へ」
「じゃあ行ってくるわね」
 名前を呼ばれたエレナは少しの緊張を胸に真理の球体の前に立つ。

 球体に両手をつけ、目を閉じて心を落ち着かせると、一つの言葉が頭にスッと入ってきた。
 それは『重力操作グラビキネシス』だった。 
 それと同時に球体にもその単語が表れ、周りの人間たちは
 驚嘆の声を漏らす。
「まじかよ、超レアスキルじゃん」
「一生安泰だろうな、今から仲良くなっといた方がいいんじゃないか」

 エレナの番が終わり、次のものが名前を呼ばれスキル判定に入るが、そんなもの誰も気にせず、エレナの周りに人が溢れる。
 少しでも目をかけてもらおうという人間でごった返していた。
 さすがに見かねた教員がエレナを少し距離の置いたところへ移動させる。
 その頃、クライは後ろのほうにいたのでエレナのスキルを人づてに聞きつけ心の中で驚嘆の声とともに賛辞を送る。

 スキル判定は続き、最後に名前を呼ばれたのがクライだった。
「クライ・バートナー、前へ」
「よしよしよし、やっと俺の番がやってきたぞ」
 真理の球体に手をつけるが心の中では様々なスキルを想像してしまう。邪念だらけでなかなかスキルが入ってこない。

「クライ君、心を無にしなさい」
「そんなこと言われても………」
 クライはなんとか想像しているスキルを消して頭の中を無にしていく。そしてスキルが入ってきた感覚を感じる。
「えっ!?」

 クライは困惑していた。
 愛読書のスキル大全は穴が空くほど読んできた。
 スキル大全には現存する全てのスキルが載っていて、その全てを暗記しているはずだ。
 しかし今、頭に入ってきたスキルは初めて目にするものだった。
 同様に聖職者や教師も困惑する。
 生徒たちはスキルを全て知っていて暗記しているものなど少なく、エレナの時のようなパニック状態にはなっていない。
 それでも聖職者や教師の反応を見て普通ではないことは何となく察知していた。

「もしかして新スキルじゃないか?」
 生徒の一人がそう咳くと一斉に広まり少し遅れて部屋の中はパニック状態に陥る。
 どういうことか分からず頭がパンクして呆然と立ち尽くすクライは別室へ教師に連れられていった。

 クライの頭の中では『触手操作テンタクルキネシス』という得体のしれないスキル名がくるくると回っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...