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2話 ひつじはお昼寝する

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 煙の中から姿を現したモンスターは全身真っ白なもこもこした毛に覆われている。
 頭に黒の博士帽をちょこんとのせて、黒のアカデミックローブを着ている。
 短くて丸い腕でその体格からは大きく見える赤色の本を抱えている。
 そして、短くて丸い足で立っている。
 人形のような可愛い二足歩行のひつじはそのまん丸な目でノアを見つめていた。
 まるで人形のようなひつじのモンスター。

「なにこれーーーーーーめちゃくちゃ可愛いんですけど。なんなの、なんなの、こんなの知らないんでけど」
「すっ、すっごくもふもふしてそうだね」
 二人の熱に怯えたのか、ひつじはテクテクと歩いてきてノアの足にしがみついて二人から身を隠した。
 その二足歩行のひつじは二人からすればどストライクの可愛らしい見た目をしていた。
 アマンダの好みである人型でコスプレを楽しめる。
 ほのかの好みのふわふわもこもこモンスター。

「あぁ、脅かしちゃってごめんね。でもどうして最初からそんなコスプレしてるのか気になってさ。ちょっとお姉さんに触ら……じゃない、検証させてもらえないかな」
 アマンダの指が変な動きをしている。
「だっ、ダメだよアマンダ。この子怯えてるよ」
 ほのかはアマンダを止めているように見せて徐々に距離を詰めてきている。

 ひつじの服を掴む力が強くなる。
「二人とも本当にそれ以上はダメだよ」
「はーい、ごめんごめん冗談だからね」
「ごめんなさい」
「でも俺も初めて見た従魔だな」

-インフォメーション-
 従魔を仲間にしました。名前をつけてください。

「名前か……」
「いくつか候補を出してこの子に決めて貰えばいいんじゃない」
「じゃあ、『ぽむ』とかどうかな」
「『ウィズダム』なんてどう?」
 真っ先にほのかが答えて、アマンダが続く。

「どういう意味なんだ?」
「なんとなく可愛いから」
「ウィズダムの花言葉が賢いだから、見るからに賢そうじゃないか」
「まぁ、悪くはないけど断然こっちの方が気にいるはずだぞ、『バフォメット』だ」
 ノアの厨二病が爆発した壊滅的なネーミングセンスに二人と一匹は心の距離を話す。

「ノア……バフォメットは山羊の悪魔だよ」
 アマンダは冷静にツッコミを入れる。
「ノア君、それはひどいよ……」
 ほのかは残念そうな目でノアを見ている。
「メェ……」
(えっ、二人だけではなくひつじにまでそんな目をされるとは)
 ノアは本気でかっこいいと思っているがあまりにも反応が悪かった。

「メェメェ」
 ひつじはほのかを指差した。
「ぽむがいいのか?」
 ノアが尋ねると大きく頷く。

「じゃあ、ぽむに決定だな」
「よろしくぽむちゃん」
「よろしくねぽむちゃん」
「メェ」
 二人はかがんでぽむと握手をする。
 ノアは画面のパーティ一覧にぽむが表示されているのを確認して能力チェックをする。

 種族はファンシービースト、職業は魔法使い。
 装備品はアカデミックキャップ、アカデミックローブ、魔導書(赤)を装備している。
 ノアは狙っていた狼やカラスではなかったがその愛らしさとDランクの上に珍しいと思われる種族で大満足の結果だった。
 本来、モンスターに職業はないがファンシービーストの種族特性が職業持ちである。

「じゃあ、私たちは従魔専門店に行くから」
「じゃあね、ノア君、ぽむちゃん」
 二人は時間をかけてじっくりとパートナーを決めるらしくここでお別れとなった。
 足元で可愛く二人に手を振るぽむを見て、ノアの心は癒される。

「じゃあ行こうか」
「メェ」
 ノアは冒険者ギルドに行って登録し、ゴブリン狩りのクエストを受注する。
 帝都の門を出ると、既に至る所でゴブリンが狩られている。

 いい具合に一匹でウロウロしてるゴブリンを見つけた。
「ぽむ、いけるか?」
 ゴブリンもノア達に気づいた。
「メェェェ」
 力強く頷くと魔導書を適当なところで開き、左手で抱え込むように持って右手をゴブリンの方へ向ける。
「メェ(プチファイヤ)」

 ぽむの手から人の頭サイズの炎の玉が放たれてゴブリンの顔に直撃したが、ゴブリンは前に歩いてくる。
「ぽむ逃げろ!!」
(まずいっ、間に合うか!?)
 迫りくるゴブリンにぽむは魔導書を落として手で目を覆ってビビっている。
 そんな姿も可愛いと思いつつもゴブリンとぽむの間に体を入れて攻撃からぽむを守るように抱き抱える。
「メェェ」
「……」
(攻撃が来ない?)
 背を向けていたが攻撃はなく、ゴブリンは前のめりになりながらそのまま倒れて動かなかった。

「ぽむ、よかった。それにしても一撃で倒せるのは凄いじゃないか」
「メェェ」
 涙目に鳴りながらも右手を高く上げて勝利のポーズを取っている。

「ぽむどうする? 行けるか?」
「メェェ」
 頭を下げて項垂れている。
 ノアが画面を見るとぽむのMPはすっからかんになっていた。
 これでは戦いようがない。

「少し休憩にしよう」
 ノアは所持アイテムにある青色のポーションを見つめる。
 チュートリアルクエストのクリア報酬で貰ったMPポーションだがこれは美味しくない。
 効率がという意味ではなく単純に味が良くない。
 ノアはそんな不味いポーションをぽむに飲ませるのも気が引けるし、そんなに焦っても仕方がないと休憩を選択した。

 安全地帯の木を見つけ背を預ける。
 初期スタート地点付近にだけある安全地帯にいればモンスターは手出ししてこない。
 ぽむもノアの後をテクテクとついてきて木にもたれかかる。
 そして目を閉じて瞑想を始めた。
 瞑想は精神を集中することによってMPの自然回復が早くなるスキルで魔法使いなどのMPを多く消費する職業には有用なスキルであり、ぽむが最初から覚えていたスキルだ。

 ノアはぽむの瞑想が終わるのを待つ間に先程の戦闘の反省をする。
(プチファイヤの射程は2メートル程で一撃で倒せなかったら反撃をされる。ぽむは動きが遅いから攻撃されそうになったら俺が担いで逃げるしかないな)

 少し待てば全快するはずだが、ぽむが中々目を開けないのを不思議に思い、画面を確認するがMPは既に満タンになっている。
 耳をかざすと「ぷすぅー」という鼻息を立てて眠っている様子で頭をノアの体に寄せてきた。

 なんとも愛らしい寝姿にノアは起こす気などさらさらなれずにぽむを眺める。
「カッコいいモンスターを従魔として狙っていたけど、これはこれでありだな」
(なんだか見てるこっちまで眠くなってしま……う……)

 ノアが目を開けると空がオレンジ色に輝いていて、夕日が沈み始めていた。
 起きたときの体の揺れでぽむも目を覚まし、目をこすっている。
「見てみろ、夕日が綺麗だな」
(こんな美しい景色を前にほのぼのとした時間を過ごせるのもルキファナス・オンラインのいいところだよな)
「メェメェ」
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