26 / 44
12語り
しおりを挟む
ようやく登場したかとわずかながら目を輝かせるロッテに対し、ケンシローは微妙な表情だ。
「有名な戦いですね」
「言っとくけど多分ロッテちゃんが思ってるような戦いはこれのもっと後だよ」
効国の竜野 幻水、至国の鬼松 千熊。
ライバルとも言える二人が直接一騎討ちまでしたと言われる野春島の戦いは、陽翔国乱世での有名な戦いと言われて三本の指に入るほどの大勝負である。
「もっと後?」
「野春島関連の戦いは何回かあったんだよ。
そのほとんどは長期間のにらみ合いで終わってて、なんか有名になってるらしい一騎討ちは私が死んだ後の話だね」
冷静な補足情報に、ロッテは浮かせかけていた腰をすとんと下ろす。
「そもそも野春島は二つの川に挟まれて流れてくる栄養分で土地が肥沃だったことや、有名な寺があったおかげで経済が回りに回ってたもんだから、武将としては是非とも手に入れたい土地だったんだよ。
ただ下手こいて野春島の民衆を殺したりすればその武将の評価は地に下がって一揆を起こされかねないし、自分の土地にした後は立派な働き手になってくれる人達を無下にもできなかった。
だから熊様も竜野の彼もろくに動けなかった、ってわけ」
「では竜野 幻水さんとはケンシローさんはお会いしたことはなかったのですね」
ぴた、とケンシローの動きが止まる。
「会ったことは……ある」
どうにも歯にものの詰まったような言いぐさに、ロッテは何事かと首を傾げる。
疑問を含んだ目線を避けるように、ケンシローは湯呑みを大仰に煽った。
飲み終わった後の顔は、茶が化学変化でも起こしたのかと錯覚するほどには渋いものだったという。
「有名な戦いですね」
「言っとくけど多分ロッテちゃんが思ってるような戦いはこれのもっと後だよ」
効国の竜野 幻水、至国の鬼松 千熊。
ライバルとも言える二人が直接一騎討ちまでしたと言われる野春島の戦いは、陽翔国乱世での有名な戦いと言われて三本の指に入るほどの大勝負である。
「もっと後?」
「野春島関連の戦いは何回かあったんだよ。
そのほとんどは長期間のにらみ合いで終わってて、なんか有名になってるらしい一騎討ちは私が死んだ後の話だね」
冷静な補足情報に、ロッテは浮かせかけていた腰をすとんと下ろす。
「そもそも野春島は二つの川に挟まれて流れてくる栄養分で土地が肥沃だったことや、有名な寺があったおかげで経済が回りに回ってたもんだから、武将としては是非とも手に入れたい土地だったんだよ。
ただ下手こいて野春島の民衆を殺したりすればその武将の評価は地に下がって一揆を起こされかねないし、自分の土地にした後は立派な働き手になってくれる人達を無下にもできなかった。
だから熊様も竜野の彼もろくに動けなかった、ってわけ」
「では竜野 幻水さんとはケンシローさんはお会いしたことはなかったのですね」
ぴた、とケンシローの動きが止まる。
「会ったことは……ある」
どうにも歯にものの詰まったような言いぐさに、ロッテは何事かと首を傾げる。
疑問を含んだ目線を避けるように、ケンシローは湯呑みを大仰に煽った。
飲み終わった後の顔は、茶が化学変化でも起こしたのかと錯覚するほどには渋いものだったという。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
Take On Me 2
マン太
BL
大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。
そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。
岳は仕方なく会うことにするが…。
※絡みの表現は控え目です。
※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
ライバル視していた隣国の魔術師に、いつの間にか番認定されていた
地底湖 いずみ
BL
魔法ありの異世界に転生をした主人公、ライ・フォールは、魔法学園の成績トップに君臨していた。
だが、努力をして得た一位の座を、急に現れた転校生である隣国の男、ノアディア・サディーヌによって奪われてしまった。
主人公は彼をライバルと見なし、嫌がらせをしようとするが、前世の知識が邪魔をして上手くいかず、いつの間にか彼の番に認定され────
────気づかぬうちに、俺はどうやら乙女ゲームの世界に巻き込まれていたみたいだ。
スパダリヤンデレ超人×好きを認めたくない主人公の物語。
※更新速度 : 中
キスから始まる主従契約
毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。
ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。
しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。
◯
それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。
(全48話・毎日12時に更新)
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる