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12語り

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ようやく登場したかとわずかながら目を輝かせるロッテに対し、ケンシローは微妙な表情だ。

「有名な戦いですね」
「言っとくけど多分ロッテちゃんが思ってるような戦いはこれのもっと後だよ」

効国の竜野 幻水、至国の鬼松 千熊。
ライバルとも言える二人が直接一騎討ちまでしたと言われる野春島の戦いは、陽翔国乱世での有名な戦いと言われて三本の指に入るほどの大勝負である。

「もっと後?」
「野春島関連の戦いは何回かあったんだよ。
そのほとんどは長期間のにらみ合いで終わってて、なんか有名になってるらしい一騎討ちは私が死んだ後の話だね」

冷静な補足情報に、ロッテは浮かせかけていた腰をすとんと下ろす。

「そもそも野春島は二つの川に挟まれて流れてくる栄養分で土地が肥沃だったことや、有名な寺があったおかげで経済が回りに回ってたもんだから、武将としては是非とも手に入れたい土地だったんだよ。
ただ下手こいて野春島の民衆を殺したりすればその武将の評価は地に下がって一揆を起こされかねないし、自分の土地にした後は立派な働き手になってくれる人達を無下にもできなかった。
だから熊様も竜野の彼もろくに動けなかった、ってわけ」
「では竜野 幻水さんとはケンシローさんはお会いしたことはなかったのですね」

ぴた、とケンシローの動きが止まる。

「会ったことは……ある」

どうにも歯にものの詰まったような言いぐさに、ロッテは何事かと首を傾げる。
疑問を含んだ目線を避けるように、ケンシローは湯呑みを大仰に煽った。
飲み終わった後の顔は、茶が化学変化でも起こしたのかと錯覚するほどには渋いものだったという。
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