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11語り

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「千景様がいた城でしたっけ、椿山城とは」
「鬼松家当主の代々の居城とも言える。
山のいりくんだ地形を利用して建てられているから、攻めにくく守りやすい構造なんだ」

子供の頃の熊様はこの椿山城の模型を作っては、自分が敵側だったらどう攻めるかを考えることに余念がなかったよ、とケンシローは再び昔を懐かしむおじいちゃんモードである。

「で、専属の薬師でもあったケンシローさんも移り住んだと」
「屋敷の方は管理してくれる人が見つかったからそっちは任せて、ね。
ただまぁー、専属の薬師ってことは主の不調がないと仕事がないってことでもあるから……」

もぞり、と言いにくそうに唇を動かすケンシローの様子に、ロッテはずばりと切り込む。

「暇だったのですね」
「そう!
別になにもしなかったわけじゃないよ、城で働いてくれてる人達に薬の処方したりその薬の原料の取り寄せをお願いしたりしてたから。
でも診察の一環で女衆と話をしてると全然関係ない話で盛り上がったり、ついでに食ってけっておやつ貰ったりしたからやっぱり忙しかったって印象はないなあ」

こんな風に、と代弁してくれた喜びの人差し指を、今度は菓子と茶の装備されたちゃぶ台に向ける。
年の離れた男性にしてはえらく話しやすい謎が解けた気がしたロッテであった。

「では診察以外は熊様とお話しする機会もなかったのでしょうね」
「そう、あの頃の熊様は私とうってかわってとにかく忙しそうだった。
至国でとれる青苧が都だと高値で売れるって聞いて名産品にしたり、壊れた橋の修繕を地元の人にやってもらって通行料の管理を任せることで報酬の代わりにしたり」

とかく国の運営はこれが大事だからね、と今度は人差し指を親指と一緒に丸めて少々下品なジェスチャー。

「だから、しょうがないといえばしょうがないんだけど、さ……
なんでだろうね。
啓導院や三元先生についていってた頃より近い位置にいるはずなのに、あの時が一番熊様との距離を感じていたよ」

そう呟くケンシローの視線は、ロッテの頭上、やや上あたりをさ迷っている。
視線を返してくれる人を探すような、迷子の眼差しに見えた。
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