黒騎士爆走物語

mrr

文字の大きさ
上 下
25 / 91

穴の部屋4

しおりを挟む
陶器のようなつるりとした質感のそれは、左の壁にかけられているものと酷似していた。
一点違うところを上げるとするならば、破損はしているものの向こうの部屋に掛けられたプレートの文字は読めそうだ、というところだ。

初めて手がかりになりえそうな物を発見し、喜びいさんで目をこらす。
が、問題が発生した。

「……っ、ギリギリのところで、見えん……」

プレートの配置が絶妙なのだ。
穴を覗くだけでは赤い図形の端がちらりと見えるだけで、おそらく文字ではないか、ということしかわからない。
完全に読み取るためには、頭部を穴の中に突っ込まないといけない、と理解するのに時間はいらなかった。

となるとやるかどうか、を選択せねばならないわけだが。
この世界に存在する知的生命体は、ニ通りに分類できるというのが私の持論だ。
すなわち、得体のしれない穴に指を突っ込めるか否か。

私は突っ込める派である。
子供の頃からわくわくして突っ込み、そこに巣を作っていた毒虫に刺されて泣きを見たことは数知れず。

しかし後悔はしていない。
知的好奇心を満たすためには仕方のない犠牲であったし、そもそも我々の祖先は穴を覗き込むことで必要な物を得てきたからこういう習性が備わったのだ。
つまり穴に突っ込む行為は自然の摂理である。

「罠は、ないと思う。たぶんないんじゃないかな、うん」

ヘリのクッションや周りの様子を探ってみるが、特に警戒に足る要素はない。
『そんな曖昧な偵察結果でいいわけないでしょうが』と心の副官が吐き捨てた気がするが、正直なところこの部屋全体の技術レベルが高すぎて私の知識では危険なものか判別がつかないのだ。
向こうの壁に見える直線の溝がデザインによるものなのかただの傷なのかもわからない。

唯一わかっているのは、このまま立ち尽くしていたとしても事態は進まないということだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

キミの次に愛してる

Motoki
BL
社会人×高校生。 たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。 裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。 姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はのんびり投稿を続けられれば、と思っています。

処理中です...