黒騎士爆走物語

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目覚めた部屋1

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我が事ながら実に迂闊。
殿を務めていた時でさえ失わなかった意識を手放し、どれほどの時間がたったのか。

ぼんやりと感知し始めた外界は馬車の中とは様変わりしており、私は半ばむりやり覚醒した。

(これは……!?)

そこは部屋の中だった。
壁は全て金属製で、凹凸のない材質は登ることもできないだろう。
自分は診察台のような脚の長い机に乗せられており、その上部にはなにをするものなのか予想もできない複雑な作りの機械が据え付けられていた。
コードや何か長い紐のような物がたくさんついている、ということしかわからない。

部屋の中は電灯が点いていて明るいが、太陽の自然な光はない。
と、私はここで重大なことに二つ気づいた。

四面、天井と同じ色の壁で囲まれている部屋だが、唯一設置されている窓があった。
曇りガラスの向こう側がどうなっているかは分からないが、ぼんやりとした輪郭が一つ、動いている。
誰かがいる。
こちらの様子を伺っている。

そしてもう一つ。
こちらは火急を要する。
黒鎧がない。
おそらく窓の向こうにいる何者かに剥がされたであろう鎧は私が感知できる限りの空間には存在していなかった。
もはや身体の一部ともいえる外殻はなく、そして意識を手放し、先程覚醒したばかりの今。
私は生まれたままの姿であった。

しばらく眠っていたようなものなので体力は大分戻ってきている。
慌てて人間体に変身するが、私の正体は向こう側の何者かにはバレてしまっていることだろう。
それはすなわち、こちらの手の内がある程度予想されているということ。

(せめて私の正体を見て侮ってくれていればよいのだが)

がが……ざ……

と、突然砂利が擦れあうような音が聞こえた。
発生源は窓のやや上側に設置されている黒い箱のような物体からだ。
技術開発部が実験しているのを見たことがある。
確か、魔法を使わずとも離れたところで音声を伝えられる道具、だったような。
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