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花と触手

部屋の中、ふたり・2

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「ほぎゃあ?!」

ぐちり。
触手が動き出す。
宙吊りにされているために視界は向けられないが、触られている側のミミックにはどこで動いているかが明確にわかってしまう。
濡れた感触と、生暖かい体温が這っている事実にぞわぞわとないはずの産毛を逆立てた。

「あの、テンタクル? なんで、そんなとこ、」
「花にはね、それぞれ意味があるのよ。人間たちがつけた勝手な妄想のようなものだけどね」

花言葉、っていうのよ。

1本、テンタクルが束から花を取り出す。

根本が白く、小ぶりな花を枝にいくつもつける薄桃。
名をハナミズキ。

「意味は『私の想いを受け止めてください』」
「ひ、」

1本、触手の先が宙吊りになったミミックのふくらはぎを舐めるように這った。

緑と白の特徴的な葉の間に咲く、白く小さな花。
名をオリヅルラン。

「意味は『子孫繁栄』」
「へっ、」

1本、テンタクルの指が逆さまのミミックの頬をなぞる。
寄りそい、睫毛の生え際まで見えそうな距離まで近づいた唇が、淫靡に形を変える。

すっと高く伸びた茎に、縦に連なった白い花。
名をチューベローズ。

「『危険な快楽』」
「…………!!!」
「ちなみにあなたがおまけでくれたこれは、『子宝に恵まれる』よ。
……ねえミミック、もう一度聞くわ」

もう片方の手でいじるのは、ドロップ型の内側に肉色の実を覗かせる瑞々しい果実。
名をイチジク。

ほう、と悩ましげに魔族は息を吐く。
それは貴様が叩きつけた挑戦状を言い値で買ってやる、という意趣返しでもあった。

「わたしに、この花たちを送る、その意味を理解したかしら?」

どざあ、とミミックの血の気が引いていく。
真っ赤になったり真っ青になったり、そもそも元から真っ黒なので変化はほとんど見てとれなかったが、彼はようやく悟った。
自分がよく考えずともセクハラぶっちぎりの意味を秘めたものを渡し、なおかつその相手はちょっと公共の場では言えない方法で他生物を自分達の繁殖に利用する(エロ同人御用達のモンスター代表格)テンタクル。
今の彼は大きく開いた口に放り込まれんとする、据え膳状態である、ということを。
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