24 / 129
箱と触手
夜の空の下・4
しおりを挟む
「そのスピードでよく私にケンカを売ったな、このノロマ!」
がおん!
右の指が落ちる。
「自分が脱走すればどうなるかも思い至らない、考えなしのまぬけめ!」
がおん!
手首から先が飛ばされる。
振るうごとに、刃は光源が夜間用の淡いライトだけとは思えぬ輝きで怪しく光った。
話し合いでの交渉決裂と判断したマッピーが攻勢に出たことで、状況は一転する。
ミミックも残った腕で攻撃するのだが、ただでさえのろい身体を変形させることで更に時間がかかる。
マッピーからの罵倒に言い返す余裕もないようだ。
浮かび上がるミミックの白い両目が、どんどんと焦りを帯びていく。
だというのに、
「あきらめて部屋に施設にもどってください!」
「いやだ!」
この要求だけは間髪入れずに拒否してくるものだから、マッピーの額には血管が浮いた。
ダダをこねる幼子のようなたった一言は、ミミックの意志の強さだけを伝えてくる。
闇夜に紛れて襲いかかる武器を切り落とす斬撃の合間に、舌打ちが紛れた。
このまま四肢を切って物理的に部屋へ叩き戻してやる、と物騒極まりない方針をマッピーが定めたのは、影に近い物質でできているミミックの身体は、分離しても接合が可能だからだ。
文化は知らずとも、多少の生体知識は会館に就職する時に教えられた。
ライトの光を反射し、煌めく剣の一太刀は風さえ斬る。
夜に紛れて、暗い色の華が飛沫をあげる。
振るうたびに冴えていく剣筋に集中しながら、マッピーははたと思い至った。
分離したミミックの身体が生きていることは知っている。
これまで剣で切り離した分は大人しくじっとしているものだろうか?
考えたことは立派だったが、残念ながら疑問に辿り着くまでが遅かったため、マッピーはその答えを身をもって知ることになる。
びき! ばき!
硬いものが割れる音が、背中からつんざいた。
突然の不調と言わんばかりに点滅し始めるライトの琥珀色が、嫌な予感を増長させる。
そろり、マッピーは正面のミミックに意識を集中させたまま、視線だけで振り返る。
白一色であったはずの壁に、真っ黒なひび割れができていた。
水が染み込むように潜り込んだミミックの一部が変形して、壁の構造そのものを破壊しようとしているのだ。
がさり!
草を蹴り飛ばし、ミミックが走る。
気配を察知していたマッピーは剣を構えるが、予想に反してミミックは攻撃せずに剣のすぐ脇を走り抜けた。
「ん……ぐぅ……うぐぅううう!」
突き出したのは先ほどまで手のあった腕で、すっぱりと切り落とされた手首を向けたのは、黒いひび割れ。
染み込んだ一部と手首がインク同士が混ざるようにじわりと合体し、ミミックは片足を壁に掛け、まるで投網を引く漁師のように踏ん張りはじめる。
それに呼応して、ひび割れは更に広がっていく。
3-A区画の地図を頭で再現し、壁の先にあるものをようやく思い至って、マッピーは叫んだ。
「テンタクルを収容違反させる気ですか?!」
がおん!
右の指が落ちる。
「自分が脱走すればどうなるかも思い至らない、考えなしのまぬけめ!」
がおん!
手首から先が飛ばされる。
振るうごとに、刃は光源が夜間用の淡いライトだけとは思えぬ輝きで怪しく光った。
話し合いでの交渉決裂と判断したマッピーが攻勢に出たことで、状況は一転する。
ミミックも残った腕で攻撃するのだが、ただでさえのろい身体を変形させることで更に時間がかかる。
マッピーからの罵倒に言い返す余裕もないようだ。
浮かび上がるミミックの白い両目が、どんどんと焦りを帯びていく。
だというのに、
「あきらめて部屋に施設にもどってください!」
「いやだ!」
この要求だけは間髪入れずに拒否してくるものだから、マッピーの額には血管が浮いた。
ダダをこねる幼子のようなたった一言は、ミミックの意志の強さだけを伝えてくる。
闇夜に紛れて襲いかかる武器を切り落とす斬撃の合間に、舌打ちが紛れた。
このまま四肢を切って物理的に部屋へ叩き戻してやる、と物騒極まりない方針をマッピーが定めたのは、影に近い物質でできているミミックの身体は、分離しても接合が可能だからだ。
文化は知らずとも、多少の生体知識は会館に就職する時に教えられた。
ライトの光を反射し、煌めく剣の一太刀は風さえ斬る。
夜に紛れて、暗い色の華が飛沫をあげる。
振るうたびに冴えていく剣筋に集中しながら、マッピーははたと思い至った。
分離したミミックの身体が生きていることは知っている。
これまで剣で切り離した分は大人しくじっとしているものだろうか?
考えたことは立派だったが、残念ながら疑問に辿り着くまでが遅かったため、マッピーはその答えを身をもって知ることになる。
びき! ばき!
硬いものが割れる音が、背中からつんざいた。
突然の不調と言わんばかりに点滅し始めるライトの琥珀色が、嫌な予感を増長させる。
そろり、マッピーは正面のミミックに意識を集中させたまま、視線だけで振り返る。
白一色であったはずの壁に、真っ黒なひび割れができていた。
水が染み込むように潜り込んだミミックの一部が変形して、壁の構造そのものを破壊しようとしているのだ。
がさり!
草を蹴り飛ばし、ミミックが走る。
気配を察知していたマッピーは剣を構えるが、予想に反してミミックは攻撃せずに剣のすぐ脇を走り抜けた。
「ん……ぐぅ……うぐぅううう!」
突き出したのは先ほどまで手のあった腕で、すっぱりと切り落とされた手首を向けたのは、黒いひび割れ。
染み込んだ一部と手首がインク同士が混ざるようにじわりと合体し、ミミックは片足を壁に掛け、まるで投網を引く漁師のように踏ん張りはじめる。
それに呼応して、ひび割れは更に広がっていく。
3-A区画の地図を頭で再現し、壁の先にあるものをようやく思い至って、マッピーは叫んだ。
「テンタクルを収容違反させる気ですか?!」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【書籍化進行中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!
菊月ランララン
恋愛
異世界に転生して美少年になれたと思ったら、どこもかしこも美形ばかりだった… あの令嬢が美しい、あの令息がかっこいい、うん、美しいのはわかるけど…どこで格差が付いてるのかな?!!?皆綺麗だよ!!!!!
地球の感覚だと全員美しい世界に来てしまった元日本人・アマデウスはなかなか美的感覚を掴めない。化物令嬢と呼ばれる令嬢も、アマデウスの目から見ると―――…
美醜逆転ならぬ美形インフレ世界で化物令嬢と呼ばれる娘が、前世の知識で荒稼ぎすることにした少年と出会って恋をする話―――…
の予定です。
追記:(小説家になろう公式さんの方でアイリス異世界ファンタジー大賞銀賞を頂きまして、書籍化進行中です。新情報があればこちらでも近況ボードなどでお知らせしたいと思っています。よろしくお願いします…!)
王妃となったアンゼリカ
わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。
そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。
彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。
「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」
※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。
これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
とびきりのクズに一目惚れし人生が変わった俺のこと
未瑠
BL
端正な容姿と圧倒的なオーラをもつタクトに一目惚れしたミコト。ただタクトは金にも女にも男にもだらしがないクズだった。それでも惹かれてしまうタクトに唐突に「付き合おう」と言われたミコト。付き合い出してもタクトはクズのまま。そして付き合って初めての誕生日にミコトは冷たい言葉で振られてしまう。
それなのにどうして連絡してくるの……?
ある平凡な女、転生する
眼鏡から鱗
ファンタジー
平々凡々な暮らしをしていた私。
しかし、会社帰りに事故ってお陀仏。
次に、気がついたらとっても良い部屋でした。
えっ、なんで?
※ゆる〜く、頭空っぽにして読んで下さい(笑)
※大変更新が遅いので申し訳ないですが、気長にお待ちください。
★作品の中にある画像は、全てAI生成にて貼り付けたものとなります。イメージですので顔や服装については、皆様のご想像で脳内変換を宜しくお願いします。★
さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~
遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」
戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。
周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。
「……わかりました、旦那様」
反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。
その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。
聖女の魅了攻撃は無効です
まきお
恋愛
ある日突然現れた、異世界から召喚された聖女モモカ。彼女を前にするとどんな異性も途端に心を奪われてしまう。公爵令嬢であるアルスリーアの婚約者もまた、彼女に心奪われた内のひとりであった。
婚約破棄を求められたアルスリーアだが、すぐに承諾するのはなんだか癪である。それに、彼女にはあるひとつの疑念があった。
もしかして、あの聖女様、怪しい魔法とか使ってるんじゃない?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる