草稿集

藤堂Máquina

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視覚

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 都会のある一角、一人の青年が信号待ちをしていた。

 正面上にある歩行者用の信号機には一切の目もくれず、しきりに周囲を見回している。

 周りの視線は必要以上に気になるのだ。
 青年は二〇年余り周りの人々に嘘をつき続けていた。

彼の嘘とは彼の目がしっかりとは見えていないということを偽るものであった。

 色の一部が周囲の人々の見ているものとは違っていたのである。

 要するにこの状況では信号の色もわからないのだった。

 それでも他の色がわかるだけに光だけははっきりと見ることができた。

 信号だって光の配置で見分けることができることもわかっていた。

 それでも動きを周囲に合わせるのは見えていようと無かろうと、それ一般的な人々が当然のようにしていることだと判断したからであった。

 青年はこれまでの人生の中、誰にも言えずに色のないものの色を必死に覚え続けてきた。

 概ねは形でその色を予想し話を合わせたが、基本的に色の話題は避けた。

 青年は努力の甲斐もあって、色に関しては殆ど不自由なく暮らすことができていた。

 その代わりに色を判断する必要のないものは覚えられなかった。

 例としては人の顔だった。

 しかしそれは色弱に比べ隠す必要のあるものではないと思った。

 自分の抱えている最も大きな障害に比べてなんとも小さな欠点のように見えた。
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