草稿集

藤堂Máquina

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 よく磨かれた鏡の前に立つ。

 心臓を右に持つ私が冴えない顔をして立っている。

 その姿は今の私そのものではなくそれ以前の私だ。

 彼の過去は全て知っている。

 だからと言ってかける言葉が見つかるわけではない。

 なんでも知っているからとなんでも声をかけることが間違えだと身を持って思い知る。

 どうしようもない心情が渦巻いている彼にはどんな言葉をかけたとしてもそれは彼に対する罵声となんら変わらないのだ。

 独り善がりで声をかけることがどれほど非道なことかを知るには十分だ。

 だからといって何もできることはない。

 そんな彼を見続けていると私もまた一層痛みが増すだけだ。

 今の私にできることは酷い顔をした彼の顔を見ずにおくだけだ。

 気の済むまでおとなしくしておこう。

 彼が私を必要とするなら彼の方から私を呼ぶだろう。

 そう考えると私と彼は同時に歩き出し、お互いの姿が見えないところまで来たところでため息をついた。
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