捻くれ者

藤堂Máquina

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ひねくれもの14

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家の戸を開けると部屋は真っ暗だった。
誰もいなかった訳ではない。
リビングには人影があった。
その人物は窓から外を見ていたようだった。
私が入ってきたことに気がつくとこちらを見つめた。
それは社長だった。
社長は恐ろしい顔をしていた。
そして静かに「こんなことになったのは二十五年の歴史の中ではじめてだ」と言った。
そんなことはどうでもよかった。
ただ私の元を訪れるにはあまりにも早いようには感じる。
社長という立場はそこまで暇なのだろうか。
目的は概ね分かっていた。
とりあえず私は笑顔で応対した。
実は朝から昼にかけて一つの文章を作った。
簡単に言えば私の不満を書き連ねたものだ。
この文章の内で開示しなければ今後一生開示することはないと思われるため、ここに面汚しを許されたい。
『意見書』と題したそのファイルは文書作成ソフトで書き上げた後、PDFに変換された。
内容はできるだけトゲの無いように「意見」と言う形ではなく「質問」と言う形をとった。
もっとも、休みの連絡を間接的にしかせず、ぶっきらぼうにファイルを送信した態度と言うのは褒められたものではない。
勿体ぶらずに具体的に書かれていることを述べよう。
本当のところはそのまま貼り付けてしまいたいところだが、流石に私自身、この文章をこれ以上汚すつもりはない。
それ故ご容赦願いたい。
内容は八つの小題と、まとめ的にその他を綴った題とで構成されている。
一つに、一つのクラスを複数人の先生で掛け持つ必要性について疑問を提示した。
殆どのクラスは担任制であるのだが、いくつかのクラスだけがその限りではないのだ。
正直何をするにも時間が無かった。
入社して1ヶ月以上も経つのに殆ど何も教わらなかった。
それ故自分で解決するしかなかった。
この項目に関しては次の項目で重ねて述べる。
二つには、どうして法律における労働時間を守らないのかと言う質問だ。
日本よりも法的労働時間が長い国だ。
それなのに労働時間を守らないことについての疑問を述べた。
もし残業代が払われていればまだマシだった。
しかし授業時間や会議などを除いた時間で授業準備の時間を導き出そうと授業数で割ると一クラスに三十分も時間をとることができない。
もしメジャーな教科書を使用しているならば、多少の知識があったのだが、ここでは完全にオリジナルの教科書を使っているため赴任前に用意しておくこともできなかった。
一つ目の疑問はこれだけ時間がない中、授業の引き継ぎに時間を割かないといけない理由を問い質したのだ。
三つに、クラスの割り振りをするのが完全に社長一人で決めている点である。
私はこのせいで朝8時に出勤してから夜8時まで仕事のある日があった。
これは普通にあることなのかもしれないが、私の家が近かったからという理由だけで私だけそれを強いられた。
もちろん他の先生方が何も言わなかった訳ではなかったが、それを決定する権限は先生側には無かった。
四つに、二つ目の内クラスの準備を仕事として扱っているのかを疑問として改めて提示した。
五つに、この学校で行われているオンラインでの授業についての疑問を挙げた。
特にゼロ初級と呼ばれる殆ど何もわからない人のクラスについてだ。
私はスペイン語を殆ど話せない。
そのような条件の下、雇われている。
それは何度も確認した。
その上でそのようなクラスを任されもした。
当然コミュニケーションを取れる訳もない。
教室での活動であればイラストやニュアンスでどうにかなることでも、オンラインではポインターで教科書のどこの読んでいるかも説明するのに一苦労なのである。
六つに、面接で話した以上のことを強いられるのかということを尋ねた。
私のスペイン語の技能、面接時に聞いていた労働時間、日本語教師としてできる範囲のことなどである。
もちろん私自身が融通を効かせる必要がある部分もあるのだが、それを遥かに超えることを強要されていた。
どうしてそれに耐えられるかということを尋ねた。
七つに、コロンビア人講師の必要性、八つに、それらの責任、クラスの任命責任などは社長にあるのではないかと尋ねた。
そして最後にその他として、学校の教育方針がとても古いのではないかと言った。
日本では既に無くなった教育方法で、学生主導ではないその教育方針は良いものだとは思えなかった。
学生のことを考えるように学校に言ったのだ。
またこの一ヶ月、就労ビザがないのに仕事をしていたことに疑問を持っていたのでそのことも尋ねた。
全ての結果を話すと私の質問は全て取り下げられた。
そして仕事を休んだ私が全て悪いのだと言われた。
社長は怒っており、私をクビにしても良いのだと言った。
正直クビにされてもよかったのだが、このままでは私があまりにも不利で、この後何をされるかわかったものではなかった。
そのためとりあえず謝罪した。
とりあえずこの場はこうする他無い。
立場がある以上権力に屈する他無い。
今私には味方がいない。
私は謝罪し、後日もう一度会社で謝罪した。
他の先生方やスタッフにも謝罪するように言われ、半ば晒し者のような扱いを受けた。
どうやら私の実家にまで国際電話がかかって来ており、私の親にまで行動が知らされたようだ。
わざわざそんなことをする理由は分からなかったがかなり面倒くさいことをする人だと言うことはわかった。
今回の件で私が得たものは驚くほどに少なく、具体的には一日間の休日だけであり、私のその月の給料が予告なく三分の一引かれたのが失ったものであった。

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