荒くれ者

藤堂Máquina

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ウサケン

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外出したのは友人に誘われたからである。
彼女には以前スペイン語の授業をしてもらったこともあり、私の先生でもあった。
スペイン語、英語、日本が堪能なため、大学で日本語の先生をすることにもなったと言う。
彼女と待ち合わせたのはボゴタの東の地域、「ウサケン」と言う新興開発地区である。
古くから栄える南の地区とは違い、外国企業の多く、比較的安全であるというのがこの辺りの特徴だろうか。
綺麗でお洒落な建物も多く、小さいながら市場も開かれることから週末には人が賑わう。
その日も金曜日であったためにそれなりに人が出ていた。
私は車を呼んで目的地へと向かったが、到着場所を間違えたらしく全然知らない場所に下されてしまった。
私はこちらで使える携帯電話を持っていない。
故に地図アプリ等も開けない。
ウサケンの街自体は以前訪れたこともあったため、近くまで行けばそれなりにはわかるのだが、生憎少し離れた場所らしく、見覚えのある建物は見当たらなかった。
仕方なく勘で歩く。
偏に「勘」と言っても全く目星がないわけではない。
ボゴタの街は常に北と東に山が見える。
タクシーも複雑な道を通らなかったために今いる位置も何となくわかる。
あとは目的地の緯度がどこかさえ分かれば良かったのだが情報がそれだけが分からなかった。
私が行こうとしている目的地も南北に続く大きめの道路に面している。
とりあえずそこへ出てから考えればいい。
そうして私は東へと歩いた。
その内に想定した通りの道に出会す。
ここは以前にも訪れたことがあるのだ。
去年の5月頃だった。
私は足に怪我をして、ワクチンを打ちに行かなければならずこの近くの病院へと足を運んだのだ。
怪我をしてから数日経ってしまっていたが何事も無く済んだのは幸いであった。
そのような経験はあまりいいものとは思えなかった。
しかし私の頭の地図を広げるという意味で今役に立っているのかもしれない。
私は記憶を頼りに南へ南へと再び歩き出した。
道中すれ違う人々は、珍しいアジア人の顔をまじまじと見るものもあったがそれはもう慣れたことで、特に気にするようなことでもなかった。
そしてそれからまもなく目的の地区へと到着した。
待ち合わせの場所は「ウサケン」と言っただけで具体的な場所を指定した訳ではなかった。
私はとりあえず商業ビルに入って無料のWi-Fiがないかを探した。
連絡が取れなければ会うのは難しいのだ。
歩き回って数分、一つ繋がるものを見つけた。
おそらくカフェか何かのものだろう。
特別何も入力せずとも繋がったのは大きい。
歩いている間に約束の時間を数分過ぎてしまっていたので相手も心配しているだろう。
私は急いでSNSを開くと既にメッセージが入っていた。
予想通り心配もされていたが、コロンビアでは日本ほど時間に細かい訳ではないため、それほど問題ではないだろうと気にしないことにした。
それから私たちは、近くにある大きな教会で待ち合わせることにした。

友人とは約半年ぶりに会ったが特別何も変わっている点はなかった。
合流した後に私たちがしたことといえばまずコーヒーを飲むことだった。
カフェは待ち合わせた場所のすぐそばにあった。
私は知らない店だったが、どうやらこの辺りでは有名な店のようだ。
私は温かいコーヒーを頼むと席につく。
一杯6000ペソほどの値段で、物価から考えるとそれなりに高い。
日本円にして200円くらいだ。
味はと言うと不味くはなかったが好みとは言えなかった。
私は酸味の少なく、苦味の強いものが好きだ。
その点においてこれは逆で、かなりフルーティな味であった。
コーヒー自体は好きなため、気にするほどのことではないのだが、コロンビアの味とは少し違っていたためにあえて述べておく。
席に着くとお互いの近況を報告した。
私は今住んでいるところや目的などを話し、相手の仕事についての話を聞いた。
友人は来月から大学の日本語講座の先生をするそうでそれのサポートをしてもらいとも言われた。
どうせ私はこの先も暇ろう思ったために二つ返事で了承した。
それから外へ出るとどこか行きたいところが無いか聞かれた。
特別行きたいところもなかったため、とりあえずスーパーで足りないものを買いたいと伝えた。
実際前回の買い物だと足りない物もあり、現地の人の意見も欲しかった。
そう言う理由でスーパーにいる。
見慣れない野菜や果物が多いため買い物は好きなのだが、食べ方や調理の仕方がわからないのでいつも買うのを躊躇う。
その点において今日は気にする必要がない。
果物の名前や味を聞きながら生鮮食品コーナーを回る。
とりあえずその中でも比較的食べやすいグラナディージャを買って外へ出た。
それは黄色い柑橘のような見た目の実なのだが、中は粒々で、他の人の言葉を借りれば「カエルの卵」のような見た目をしている。
味は甘くて美味しいので外見さえ気にしなければ何も問題ない。
次に向かったのは市場であった。
風が強くなってきてしまったのでお店を片付けているところも多かったが見ているだけでもかなり楽しめた。
個人的に民族衣装が好きであったため、写真を撮ったり手触りを確かめたりした。
そこで何も買わなかったのはここでの生活に必要な物がなかったからに他ならない。
その後は特に行くこともなかったため、歩いて帰ることにした。
時刻は4時前、徒歩で帰るならちょうどいい時間帯であった。
距離感はよく分からなかったが友人に案内してもらい西へ西へと向かった。
歩きながら起こったことはと言えば、危ないから迂回して行こうと言われた道が先程迷いながら通った道であったり、アパートの6階くらいから裏声で「アリガトウ」と叫ばれたりと愉快な道中であった。
なぜ私が日本人であるかは分からなかったが、私も裏声で「アリガトウ」と叫んだ後、向こうから笑い声が聞こえて来たため何も問題は無かったということにした。
家に着く頃には空腹であった。
そう言えば今日は昼前に起きてスープを飲んだだけだ。
外でもコーヒーを飲んだだけだ。
何かを作るのは面倒くさかったものの、買ったもやしを早く使ってしまいたかったので適当に卵とじにして食べた。
ご飯も炊いたが日本の米とは違い、硬かったために、日本から持ってきたお茶漬けの素をかけてふやかして食べた。
それでもまともに食事したのは久しぶりな気がして、そうして胃腸は満足気に働き始めた。
昼過ぎに起きてからかなりの距離を歩いたので時差ボケが治る程度に眠くなるかと期待したが、結局私が眠りについたのは朝の4時頃であった。
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