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クマのぬいぐるみ

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私の家には、代々クマのぬいぐるみを受け継いでいる。

そのぬいぐるみの世話は、歴代当主しか許されず先日、当主の父が病気で亡くなったため、長男である私が、当主になった。

クマのぬいぐるみの世話って一体何をするのだろうか?

父から何も知らされてないけど‥‥‥

クマのぬいぐるみは、私の部屋に置いてあるのだが、朝になると一週間に一回ぐらいだろうか口元に赤い液体がついている時がある。

毎回その赤い液体がついている口元を綺麗にしている。

これが、世話をしていると言うのだろうか?

その後、口元に赤い液体がつく回数が増えて、一週間に2回くらいになってきた。

口元を拭くたびに、まさか血ではないよなと思い怖くなってきた。

最近になってこのぬいぐるみが夜な夜な動きだし外に出かけていき、朝になると帰ってくることがわかった。

ある日、一体何をしに外に行くのかが気になって、ぬいぐるみの後をついていった。

すると、父の経営していた会社の経理担当をしていた近所の松下さんの家へ入っていった。

こんな夜に、他人の家に入るのはダメだなと思い、家の外で様子を伺っていると、家の中から

「ギャーーーー!!!助けてくれー!誰かーー!」

松下さんの悲鳴と同時に

【バキッ、バキッ、ボリボリボリ、バリッ】

何やら噛み砕く音がしている。

なんだろう?この嫌な音は‥‥‥

程なくしたら、クマのぬいぐるみが人より大きなった姿で玄関から出てきた。

私は思わず

「うわぁぁぁーーーーー!」

叫んでいた。

クマの口元には、赤い液体‥‥‥いや血がついていたからだ。

「これは、これは、新しく当主になられた、ご主人!この姿で会うのは初めてになりますな!ハハハッ!」

渋い声でクマが私に話しかけてきた。


「しっ‥‥‥しゃべった!!」


「はい!人の言語はだいたい把握しています」


「そうなんだ、すごっ!」


いや、そんなこと聞きたいわけじゃないんだった。

クマに向かって直球に疑問をぶつけてみた。

「こんなところで何をしていたの?」


「それは、私の役目であるご主人の家の繁栄と栄光を助けることです」

それって、どういうことだろう?

今はそれより松下さんが気になる。

「松下さんの悲鳴が聞こえたような気がするけど大丈夫なの?」


「あの者は、ご主人の家に災いをもたらす者、だから私が処分しました」

そういって、左手に持っていた引きちぎられた人間の右腕を私に見せてきた。

「うぇぇーーーー」

思わず吐いてしまった。

「そっ、そんなもの見せないで!」

吐きそうになる口元を手で覆いながら、クマに向かって言った。

「これは、失礼した、人族はこういうのは苦手でしたな!ハハハッ!」

「こんなことを夜な夜な家から出て行って毎回しているの?」

「何をおっしゃいます!父上殿も平気で黙認していましたぞ」

「父さんが‥‥そんな!」

温厚な父さんが黙認していたとはにわかに信じられない。

「でも松下さんは、一体何をしたって言うんだよ!」

「かの者は、会社の金を横領していたのです」

「それなら、警察に任せればいいじゃないか!」

「それがですな、証拠が一切無いため警察に突き出しても無罪になるのがわかっています、逆にこちらが名誉毀損《めいよきそん》で訴えてくるのが目に見えています」

「そうだとしても、こんな方法間違っているよ」

「私は使命を果たしているだけですから、なんとも私からは言えないですな」

「では、次の場所に向かわないと行けないので、ご主人は、もう夜も遅いですし、家に帰られるのがよろしかろう」

クマは四足歩行で道路を急いで走っていった。


私はどうしたら良いかわからなくなっていた。

家に帰ると、母が玄関に立っていた。

どうやら、母は私が外へ出て行ったのがわかっていたみたいだ。

「母さん、あんなことどうして教えてくれなかったのさ!」

「私もこの家に嫁いで来た時、初めて聞かされて最初は驚いたけど、仕方がないことよ」

「仕方がないって‥‥」

「この家の昔からのしきたりですから諦めなさい」

母が私に諭すように言ってきた。

「やっぱり納得できないよ!もう寝る!」

私は怒ってそう母にいい残して、自分の部屋に向かった。

自分でもわかっている、納得はできないが家族のためを考えたら理解はできる。

しかし、倫理や道徳的にどうなんだと毎日、自問自答していた。

        ◇

数週間後

私は、ある結論に至った。

あれから考えたが、このクマのぬいぐるみがやっていることを黙認することにした。

だって、家族のためだからさ。


なにせ、私には妻がいるし、娘と息子が生まれたばかりだから。

3人をこの家の当主として、これから守っていかなくてはいけない。

最終的に家族が幸せなら他人がどうなろうと知ったことではないのではないか、そう思い始めた。

これが、人間のエゴという怖さなんだろうか?

倫理観や道徳観が次第になくなってしまった。

私は、やはりこの世で1番怖いのは人間なんだと認識したのだった。

        
         終

 
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