上 下
39 / 39

第36話「嫌われ者の凱歌」

しおりを挟む
 しーーーーーーーーーーーーーん……。


 静まり返った闘技場。


 そして……。


 天井にぶっ刺さる奇妙なオブジェクト。
 それぞれ二本の棒が伸びる悪臭漂う汚いもの。これは死体でしょうか?────いいえ、『放浪者シュトライフェン』です。


「って、うっそーーーーーーーーーん?!」


 オーマイガと、頭を押さえるギルドマスター。
 勝敗は下せるのは審判である彼だけなのだが、今や茫然自失。

 ガックーンと膝をつき「OTL」の姿勢のまま硬直している。

 それもそのはず。100%勝てるはずの相手に、さらに完全を期すため100%勝率を上げる工夫を凝らしたのだ。

 しかも違法すれすれ────というか、ほぼ真っ黒な、色々グレーな方法を使ってでもだ。
 つまり200%勝てるはずが────……結果完全敗北!!

「おい、俺の勝ちだろ? いい加減、ジャッジを下せよ」

 ロード達は天井に突き刺さったまま身動きもしない。
 ピクピクと足が痙攣しているところを見るに、一応生きているみたいだが────どうだろう?

「い、いやまて────だって、そんな」
 
 あわあわとパニックを起こしているギルドマスターに、さすがに観客もざわつき始める。
 さっきまで金返せと連呼していた連中だが、その声が徐々に怒驚きに変わり始めるのはそう遠くなかった。

 くそ試合だと思っていたのが、ロード達の猛反撃。
 そして、大番狂わせの勝利!!

 D級 VS S級
 そして、1対4の多勢に無勢!!

 勝てるわけがない。
 勝てたらおかしい。
 絶対あり得ない──────!!

   なのに!!

   レイルが勝利したのだ!!


 どよ……。

 どよどよ……。

「お、おい。ど、どうなったんだ?」
「わ、わかんねぇけど───なんかトラップの誤作動?」
「いや、トラップなんてありの試合だったっけ?」
「し、知らねぇけど───……ロード達が負けた?」

 ざわっ!

「ば、ばかな! ロード達だぞ?」
「そうだ! S級だぞ! しかも4人!!」
「相手はD級で一人……! ありえねぇ!」

 ざわざわっ!!

「ありえねぇけど……」
「ありえねぇけど───……」
「ありえないんだけどッッ!!」

 ざわざわざわっ!!

「「「レイルの完全勝利じゃないか?!」」」

 ドワッァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 突如沸き返る会場。
 困惑、期待、そして困惑───……。
 だが、徐々にその色が変わり始める。

 最初は掛け金のこともあり、否定的に見ていた冒険者や観客たち。
 しかし、彼らの目の前で繰り広げられたのはレイルの完全試合!!

「「嘘だろ。レイルの奴勝ちやがった……」」
「「【盗賊シーフ】ってあんなに強いのか? 一瞬でトラップを設置しやがったぞ?!」」
「「おいおい、DランクがSランクを圧倒しちまったぜ────こ、こりゃすげぇ」」

 彼らとて冒険者。
 そして、到達点としてS級を夢見る者たちだ。

 だが、届かない。
 D、C、Bで甘んじるものが大半で、届いてもA級……。

 S級なんて夢のまた夢──────。

 なのに!!

 その夢の階級にD級の冒険者が単独で勝利した!!

 それはまさに冒険者ドリーム!!
 そう。一瞬にして会場の空気はレイルの鮮やかな勝利に飲まれてしまったのだ。

 あの疫病神と言われたレイルの完ぺきな勝利に……!

 ざわ。

「「すげぇ……」」

 ざわざわ。

「「レイル……。レイル・アドバンス!」」

 ざわざわざわ!!

「「あの野郎一人で『放浪者シュトライフェン』を倒しやがった!! 凄い男だ!!」」

 ざわざわざわ!!
 ざわざわざわ!!

「「レイル」」

 ざわざわざわざわざわ!!
 ざわざわざわざわざわ!!

「「「レイル!!」」」

 レイル!!!
 レイル・アドバンス!!

「……あ? なんだこれ? なんだこいつら?」
 敵意しか向けられていなかったはずの会場において、さざ波のようにレイルの名前が叫ばれはじめる。
 その声にはあざけりが一切含まれていない。
 もちろん、レイルには初めての経験だ。

「「レイル!! レイル!!」」

「お、おい?」

 疫病神でもなく。

「「レイル!! レイル!!」」

「俺の名前……?」
 万年Dランクでもなく。

「「レイル!! レイル!! レイル!!」」

「俺を…………讃えているのか?」

 一人の冒険者として名前を呼ばれるレイル。

「───俺を…………?」

 その名を呼ばれる会場を不思議そうに見渡した後──。
(あぁ、そうか。あの村での歓喜と同じ───……これは、)
 軽く目をつぶったレイルは、少しだけ歓声に身を任せた。

(これが──────!)

 ───これが勝利するということか!!

「は、ははは……」

 レイル、レイル、レイル!
 名前を呼ばれるたびに熱に浮かされたようなフワフワとした感じを味わった。

 それはあの開拓村で受けた歓喜と同じもの。
 レイル・アドバンスが求められ、この場に────この世界にいていいと認められた証……。


 ──だから、レイルは答えた。


 生まれて初めて、熱狂する声援に自ら答えた。

「「「レイル!! レイル!!」」」

 ギルドマスターが勝利を宣言できぬ中、グッとこぶしを握り締め────!

 空に向かって突き上げる!!





 勝った──────と!!





「「「「「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」

 レイル!! レイル!! レイル!!


 この瞬間、レイルは勝利者となった。


 もはや、ジャッジは必要ない────。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(12件)

A・l・m
2021.05.20 A・l・m

『コイツラの言い分は皆聞いてるな?』
『疫病神レイルはクソ雑魚の役立たず、ヤラれて死んだ』だ。
んなこたーハナっから知っててパーティ誘ったはずだ。

何故だか解るか?!
コイツラはあちこちのギルドから嫌われ者誘い出して。
狩りの生餌に使ってやがったンだよぉ!!


は! 疑うヤツは村に行きな! 村人が全部見てたからよ!

的なの大希望。

解除
はるか
2021.05.18 はるか

レイル勝利おめでとー!!

解除
A・l・m
2021.05.13 A・l・m

34
こりゃ収拾すかねー→つかねー?

 ん? ろくな武器も無く? 流石に腹痛程度じゃ無理?
デバフ済とはいえ、そんな装備で大丈夫か?

解除

あなたにおすすめの小説

俺の職業は『観光客』だが魔王くらいなら余裕で討伐できると思ってる〜やり込んだゲームの世界にクラス転移したが、目覚めたジョブが最弱職だった件~

おさない
ファンタジー
ごく普通の高校生である俺こと観音崎真城は、突如としてクラス丸ごと異世界に召喚されてしまう。   異世界の王いわく、俺達のような転移者は神から特別な能力――職業(ジョブ)を授かることができるらしく、その力を使って魔王を討伐して欲しいのだそうだ。 他の奴らが『勇者』やら『聖騎士』やらの強ジョブに目覚めていることが判明していく中、俺に与えられていたのは『観光客』という見るからに弱そうなジョブだった。 無能の烙印を押された俺は、クラスメイトはおろか王や兵士達からも嘲笑され、お城から追放されてしまう。 やれやれ……ここが死ぬほどやり込んだ『エルニカクエスト』の世界でなければ、野垂れ死んでいた所だったぞ。 実を言うと、観光客はそれなりに強ジョブなんだが……それを知らずに追放してしまうとは、早とちりな奴らだ。 まあ、俺は自由に異世界を観光させてもらうことにしよう。 ※カクヨムにも掲載しています

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

創造眼〜異世界転移で神の目を授かり無双する。勇者は神眼、魔王は魔眼だと?強くなる為に努力は必須のようだ〜

ファンタジー
【HOTランキング入り!】【ファンタジーランキング入り!】 【次世代ファンタジーカップ参加】応援よろしくお願いします。 異世界転移し創造神様から【創造眼】の力を授かる主人公あさひ! そして、あさひの精神世界には女神のような謎の美女ユヅキが現れる! 転移した先には絶世の美女ステラ! ステラとの共同生活が始まり、ステラに惹かれながらも、強くなる為に努力するあさひ! 勇者は神眼、魔王は魔眼を持っているだと? いずれあさひが無双するお話です。 二章後半からちょっとエッチな展開が増えます。 あさひはこれから少しずつ強くなっていきます!お楽しみください。 ざまぁはかなり後半になります。 小説家になろう様、カクヨム様にも投稿しています。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。