上 下
25 / 39

第24話「クソのような提案」

しおりを挟む
「はぃぃ??」

 いま、このクソハゲギルドマスターの奴なんて言いやがりました?

「あ~っと……。今なんて言いました? パードゥンもっかい言って??」
 あまりにも衝撃的な言葉に、耳をかっぽじるレイル。

「何度でも言ってやる。お前のやったのは報酬の横領だ。レイル、貴様……そのグリフォンを倒したとか、いっているそうだが──」

 言っているのも何も事実だ。

「──そもそもグリフォン退治は『放浪者シュトライフェン』のクエストだったはずだぞ?」
「それがどうした???」

 レイルのまっすぐな視線を、ギルドマスターもまっすぐに見返す。

「それがどうしたぉ?──だと?…………本気で言っているのか?」
「おいおい、冗談に見えるのか? 冗談は頭頂部だけにしろ、ハゲ」

 ビキス!!

「ハ────……ぐむむ。い、今はお前の態度は置いておこう。それよりもだ」

 ギルドマスターは怒気で真っ赤になった顔を何とか平静に保つと、レイルに向かってズイっと一枚の紙を指し示す。

「…………クエストの受注控えだな。これが?」
「そうだ。受注の控えだ────『放浪者シュトライフェン』の、な」

「…………??? 何が言いたいんだ」

 レイルがそこまで言ったとき、

「は!! 何が言いたいだって? おめでたい奴だな、この疫病神は」
「本当だぜ。所詮はDランクってか?」
「きゃはははははは。これだから使えないやつって嫌いなのよねー」

 ゲラゲラと笑うロード達。
 レイルは眉をひそめているが、ギルドマスターは手を上げてロード達を制止する。

「つまり、だ。グリフォンを倒したのは────ロードたち『放浪者』の手柄だと言っているんだ」



「はぁ?!」



 コイツは何を言っているんだ?

「なんだ? まだわからんのか? お前は、Dランクとはいえ、一応『放浪者』のメンバーだろうが?…………新人だろうと、Dランクだろうと関係ない。ギルドに登録されたパーティメンバーの一員なのは事実だろうが」

「なん、だと……」

 ビキス! とレイルの額に青筋が経つ。

 ……俺が『放浪者』の一員だと?
 ただ、囮のためだけに勧誘したくせに、…………仲間だと?

 一体、どの面下げて言いやがる!!

「そのパーティから、手柄だけを持っていこうとしているんだ。それを横領と言わずになんという?」
「ふっざけるなよ……」

 レイルは俯き、体をブルブルと震わせる。
 恐怖でも、喜びでもなく、もちろん純粋な怒りで、だ。

 パーティだの、仲間だのと言われるたびに、囮にされ──疫病神と呼ばれた瞬間が脳裏に蘇り、怒りで心が塗りつぶされそうになる。

「グリフォンを倒したのは俺だ! 俺が一人で倒した!」

 そう。このスキル『一昨日に行く』の力で!!

「ざっけんな!! 疫病神! 俺たちが手負いにしたグリフォンを横からかっさらっただけだろうが!」
「そうだそうだ! Dランクにグリフォンが倒せるかっつーーーの!」
「そうよ。下手したてに出てればいい気になっちゃって──こっちが領主府に訴えてもいいくらいよ!」

 ピーピーとロード達が騒ぎ出す。
 しかし、さすがに騒ぎが大きくなり過ぎたと思ったのか、ギルドマスターがロード達を制していさめる。

「まぁ、皆落ち着け。報酬についてのトラブルは昔からよくある話だ。それに、」

 それに?

「──ギルド内でのもめ事の大半はギルド内で納めるのが暗黙の了解だ。ロード、お前も知ってるだろう?」
「あ、あぁ……」

 即座に頷くロード。
 売り言葉に買い言葉で裁判沙汰を取りざたしたものの、分が悪いのはロード達だ。それを素早く計算したのか、ギルドマスターに素直に従う。

「それにレイルの言い分も聞かにゃならん。しかも、パーティに入ったばかりのDランクの冒険者だ。色々流儀について齟齬があったのかもしれん」

 そうだな? と、目力でロード達に問うギルドマスター。

「お、おう。そ、そうだ。裁判の前にまずはギルドの裁定を受けるべきだ。……どうだい、レイル?」

 そういって、隠しきれていない黒い笑顔を見せるロード。
 もちろん、レイルはギルドとロード達の癒着を疑っているので素直に頷けるはずもない──。

 ないのだが……。

「ロード達は正当な報酬の分け前を要求している。それに対して、レイルは倒したのは俺だから全部いただくと言っている──これでは話がつかないな」

 勝手にもめ事の上澄みだけ掬いあげるギルドマスターの言に、レイルは顔をしかめた。
 まるで、レイルの我儘わがままのような話にロード達が辟易へきえきしている図になっている。

 つまり、前提がずっぱしと切り取られているのだ。

「おい! なんだその悪意のある言い方は! アンタだって薄々わかってるんだろう! こいつ等の所業をよぉぉ!!」

 いや、むしろ、積極的に支援した可能性すらあるのだ。

「れ、レイルさん落ち着いてください」
 メリッサはオロオロとしながら激昂するレイルを宥める。

 ……これが落ち着いていられるか!

「お前が何を言っているが知らん。興味もない────だが、報酬で揉めているというなら、冒険者らしく決着をつけろ」
「な、なにぃ?!」

 レイルが苦々しい顔をしているというのに、

「ほう。そう来たか────俺は構いませんよ、マスター」

 ロードはニヤリとほくそ笑む。

「ど、どういう意味ですか? 冒険者らしくって…………」

 要領を得ていないのはメリッサのみ。ただなんとなく、嫌な予感がするのか身を震わせていた。

「──決まっているだろう。冒険者のもめ事は…………」


 腕を組んでロード達とレイルの間に立ったギルドマスターがひと際大声で叫ぶ。




「────模擬戦ガチンコで白黒を決める!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

俺の職業は『観光客』だが魔王くらいなら余裕で討伐できると思ってる〜やり込んだゲームの世界にクラス転移したが、目覚めたジョブが最弱職だった件~

おさない
ファンタジー
ごく普通の高校生である俺こと観音崎真城は、突如としてクラス丸ごと異世界に召喚されてしまう。   異世界の王いわく、俺達のような転移者は神から特別な能力――職業(ジョブ)を授かることができるらしく、その力を使って魔王を討伐して欲しいのだそうだ。 他の奴らが『勇者』やら『聖騎士』やらの強ジョブに目覚めていることが判明していく中、俺に与えられていたのは『観光客』という見るからに弱そうなジョブだった。 無能の烙印を押された俺は、クラスメイトはおろか王や兵士達からも嘲笑され、お城から追放されてしまう。 やれやれ……ここが死ぬほどやり込んだ『エルニカクエスト』の世界でなければ、野垂れ死んでいた所だったぞ。 実を言うと、観光客はそれなりに強ジョブなんだが……それを知らずに追放してしまうとは、早とちりな奴らだ。 まあ、俺は自由に異世界を観光させてもらうことにしよう。 ※カクヨムにも掲載しています

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

男女比1/100の世界で《悪男》は大海を知る

イコ
ファンタジー
男女貞操逆転世界を舞台にして。 《悪男》としてのレッテルを貼られたマクシム・ブラックウッド。 彼は己が運命を嘆きながら、処刑されてしまう。 だが、彼が次に目覚めた時。 そこは十三歳の自分だった。 処刑されたことで、自分の行いを悔い改めて、人生をやり直す。 これは、本物の《悪男》として生きる決意をして女性が多い世界で生きる男の話である。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

処理中です...