37 / 53
第30話「待ち人の気配」
しおりを挟む
カランカラーン♪
入店を告げるカウベルが鳴る。
今まではなかったものだが、どうやら急造したらしい。
ほんの数日前まで、ギルドマスターの不正だとかの調査のため、王都からきた監察が入ったせいでドタバタしていたが、だいぶ落ち着いたようだ。
やむを得ず、外に引っ張り出されていた依頼用掲示板や、臨時受付も今は片付けられている。
閑散とした雰囲気の、シンと静まり返ったギルド内。
奥に併設されている酒場では数人の冒険者が管をまいており、安酒をチビリチビリと飲んでいた。
一瞬だけ鋭い視線をアルガスに飛ばすも、話題の人物だと気付いたのか、そそくさを視線を逸らす。
そんな視線はガン無視しつつ、
アルガスがカウンターに向かうと、数人のギルド員がデスクに突っ伏してぐったりとしていた。
「おい、……おい!!」
コンコンとカウンターをノックしても反応がないものだから、ついつい声を荒げてしまった。
すると、ようやく一人の職員が起き出しノロノロとカウンターまでやってきた。
「ようこそ当ギルドへ」
「よぉ」
最近、馴染みになってきたギルド職員。
聞けば、コイツ───実は副ギルドマスターだとか。
名は、
「───リーグです。いい加減覚えてください」
疲れた顔のリーグ。
結局ギルドマスターは名前を覚えるまでにくたばっちまった。
「すまんすまん。ところでどうした? 随分疲れてないか?」
「あ、す、すみません……色々ありまして、その───」
あーうん。
まぁ、だいたいわかる。
「ようやく本格的に再開ってことでいいんだよな? そういえば、セリーナ嬢は逮捕されたんだって?」
「え、えぇ、まぁ、はい……。他にも、王都の監察が早馬で来まして」
ありゃまぁ?!
「おいおい、話には聞いてたが、マジかよ───どれだけ離れてると思ってるんだ?」
「たはは……驚きました。すでに色々内偵が進んでいたみたいです───こんなチャンスを窺っていたんでしょうね」
そう言って、あのマスターのせいですよ。と疲れた口調で言う。
先日の騒動があってすぐに、ギルドの監察が乗り込んできたという。
目的はギルドマスターの不正と代官との癒着。その他諸々だ。
まぁ叩けば埃の出る人物だったらしく、出るわ出るわのテンヤワンヤ。
「大丈夫なのか? そんな調子でこのギルド……」
「さぁ? なんとも……。取りあえず、出来ることをやるだけですよ、私どもは」
そう言って、力なく笑うギルド員に同情する。
どうせなら、こうした真面目な職員が報われて欲しいものだ。
「それで、本日のご用向きは?」
「あぁ、スマン。クエスト達成報告と──」
「はい……「光の戦士たち」の動向ですね?───残念ですが、まだ……」
そうか……。
もし情報があるならば、あの市長を頼らなくて済むのだが……クソッ!
「───申し訳ありません。当ギルドがご迷惑をおかけしたことも含めて、最重要案件として照会しております。今しばらく……!」
本当に申し訳なさそうにリーグが頭を下げる。
このやり取りも随分と続いている。
仕方がないこととはいえ、いら立ちは募る一方だ。
「ですが───その、アルガスさんに会いたいという人物が来ておりまして……」
クエスト達成の証明として、採取した薬草と、近隣で退治したコボルトの耳とゴブリンの耳をカウンターに置きながら、アルガスは不機嫌な顔で言う。
「市長ならお断りだぞ……しつけーんだよ、アイツ」
一日に、何度も顔を見たい人物ではない。
リーグは受け取った証明を、奥の職員に渡しつつ、
「いえ。市長ではなく……その、若い女性でした」
「何?!」
リーグの言葉にアルガスは食い気味に体を乗り出す。
その様子にリーグは仰け反りつつも、
「落ち着いてください。リズさんではありません───もちろんメイベル女史でもありまんよ」
メイベルはどうでもいい。
……しかし、リズでもないなら誰だ?
俺に知り合いの若い女性なんていたっけ?
居なくはないけど……。
チラッとミィナを見る。
「ほぇ?」
これは若い女性というか、若すぎる女性だしな……。
「今そいつは? というか、何の要件だ?」
「───さて、そこまでは……。今朝方来られて、また顔を出すと言っておりましたね、クエストを受注していきましたので今日にでも戻るとは思いますが」
話ながらも、アルガスとリーグは慣れた様子でクエスト達成の報告を整えていく。
数枚の銀貨と銅貨をコインケースに入れ、恭しく差し出されると、それを無造作に受け取り、ミィナが首から下げているガマグチ財布に放り込む。
「菓子でも買ってこい。───いつものやつ覚えてるな?」
「は~い♪ えっと、『知らない奴から物を貰わない。知らない奴に着いていかない。ジェイスは殺す』♪ だお!」
うん、最後のは……ちゃうねん。
いつも口癖みたいにいってたから、ミィナちゃんが勝手に覚えただけやねん。
り、リーグさんや? そ、そんな目で見るない!
「──子供に、なに教えてるんですか……」
そんな呆れた風に言うない。
………………事実だけどな。
「よく言えたな、行ってこい」
「ありがとー。アルガスさん!」
ジト目のリーグ。
職員の前で言う事じゃねーな。
「み、」
あっ、ミィナのやつ止める間もなく言っちまった。
ギルドの向かいにある露店街に行ったのだろう。ちょっと心配だが、この距離なら目が届く。
ガマグチ財布をブンブン振り回しながら、あっちこっちの露店に顔を出しているミィナの姿が見えた。
「…………子供は元気が一番だ」
「いや、誤魔化せてませんから───どうします? 彼女に何か言付けます?」
ふむ……。
もう昼過ぎだし、待ってりゃそのうち帰ってくるらしいしな。
実際、ギルドからの連絡待ちをしている以外にこの街でやることはない。
宿に戻ってゴロゴロするのもミィナの教育上よろしくない。
「……いや、奥で待つ」
そう言って、併設されている酒場を指した。
入店を告げるカウベルが鳴る。
今まではなかったものだが、どうやら急造したらしい。
ほんの数日前まで、ギルドマスターの不正だとかの調査のため、王都からきた監察が入ったせいでドタバタしていたが、だいぶ落ち着いたようだ。
やむを得ず、外に引っ張り出されていた依頼用掲示板や、臨時受付も今は片付けられている。
閑散とした雰囲気の、シンと静まり返ったギルド内。
奥に併設されている酒場では数人の冒険者が管をまいており、安酒をチビリチビリと飲んでいた。
一瞬だけ鋭い視線をアルガスに飛ばすも、話題の人物だと気付いたのか、そそくさを視線を逸らす。
そんな視線はガン無視しつつ、
アルガスがカウンターに向かうと、数人のギルド員がデスクに突っ伏してぐったりとしていた。
「おい、……おい!!」
コンコンとカウンターをノックしても反応がないものだから、ついつい声を荒げてしまった。
すると、ようやく一人の職員が起き出しノロノロとカウンターまでやってきた。
「ようこそ当ギルドへ」
「よぉ」
最近、馴染みになってきたギルド職員。
聞けば、コイツ───実は副ギルドマスターだとか。
名は、
「───リーグです。いい加減覚えてください」
疲れた顔のリーグ。
結局ギルドマスターは名前を覚えるまでにくたばっちまった。
「すまんすまん。ところでどうした? 随分疲れてないか?」
「あ、す、すみません……色々ありまして、その───」
あーうん。
まぁ、だいたいわかる。
「ようやく本格的に再開ってことでいいんだよな? そういえば、セリーナ嬢は逮捕されたんだって?」
「え、えぇ、まぁ、はい……。他にも、王都の監察が早馬で来まして」
ありゃまぁ?!
「おいおい、話には聞いてたが、マジかよ───どれだけ離れてると思ってるんだ?」
「たはは……驚きました。すでに色々内偵が進んでいたみたいです───こんなチャンスを窺っていたんでしょうね」
そう言って、あのマスターのせいですよ。と疲れた口調で言う。
先日の騒動があってすぐに、ギルドの監察が乗り込んできたという。
目的はギルドマスターの不正と代官との癒着。その他諸々だ。
まぁ叩けば埃の出る人物だったらしく、出るわ出るわのテンヤワンヤ。
「大丈夫なのか? そんな調子でこのギルド……」
「さぁ? なんとも……。取りあえず、出来ることをやるだけですよ、私どもは」
そう言って、力なく笑うギルド員に同情する。
どうせなら、こうした真面目な職員が報われて欲しいものだ。
「それで、本日のご用向きは?」
「あぁ、スマン。クエスト達成報告と──」
「はい……「光の戦士たち」の動向ですね?───残念ですが、まだ……」
そうか……。
もし情報があるならば、あの市長を頼らなくて済むのだが……クソッ!
「───申し訳ありません。当ギルドがご迷惑をおかけしたことも含めて、最重要案件として照会しております。今しばらく……!」
本当に申し訳なさそうにリーグが頭を下げる。
このやり取りも随分と続いている。
仕方がないこととはいえ、いら立ちは募る一方だ。
「ですが───その、アルガスさんに会いたいという人物が来ておりまして……」
クエスト達成の証明として、採取した薬草と、近隣で退治したコボルトの耳とゴブリンの耳をカウンターに置きながら、アルガスは不機嫌な顔で言う。
「市長ならお断りだぞ……しつけーんだよ、アイツ」
一日に、何度も顔を見たい人物ではない。
リーグは受け取った証明を、奥の職員に渡しつつ、
「いえ。市長ではなく……その、若い女性でした」
「何?!」
リーグの言葉にアルガスは食い気味に体を乗り出す。
その様子にリーグは仰け反りつつも、
「落ち着いてください。リズさんではありません───もちろんメイベル女史でもありまんよ」
メイベルはどうでもいい。
……しかし、リズでもないなら誰だ?
俺に知り合いの若い女性なんていたっけ?
居なくはないけど……。
チラッとミィナを見る。
「ほぇ?」
これは若い女性というか、若すぎる女性だしな……。
「今そいつは? というか、何の要件だ?」
「───さて、そこまでは……。今朝方来られて、また顔を出すと言っておりましたね、クエストを受注していきましたので今日にでも戻るとは思いますが」
話ながらも、アルガスとリーグは慣れた様子でクエスト達成の報告を整えていく。
数枚の銀貨と銅貨をコインケースに入れ、恭しく差し出されると、それを無造作に受け取り、ミィナが首から下げているガマグチ財布に放り込む。
「菓子でも買ってこい。───いつものやつ覚えてるな?」
「は~い♪ えっと、『知らない奴から物を貰わない。知らない奴に着いていかない。ジェイスは殺す』♪ だお!」
うん、最後のは……ちゃうねん。
いつも口癖みたいにいってたから、ミィナちゃんが勝手に覚えただけやねん。
り、リーグさんや? そ、そんな目で見るない!
「──子供に、なに教えてるんですか……」
そんな呆れた風に言うない。
………………事実だけどな。
「よく言えたな、行ってこい」
「ありがとー。アルガスさん!」
ジト目のリーグ。
職員の前で言う事じゃねーな。
「み、」
あっ、ミィナのやつ止める間もなく言っちまった。
ギルドの向かいにある露店街に行ったのだろう。ちょっと心配だが、この距離なら目が届く。
ガマグチ財布をブンブン振り回しながら、あっちこっちの露店に顔を出しているミィナの姿が見えた。
「…………子供は元気が一番だ」
「いや、誤魔化せてませんから───どうします? 彼女に何か言付けます?」
ふむ……。
もう昼過ぎだし、待ってりゃそのうち帰ってくるらしいしな。
実際、ギルドからの連絡待ちをしている以外にこの街でやることはない。
宿に戻ってゴロゴロするのもミィナの教育上よろしくない。
「……いや、奥で待つ」
そう言って、併設されている酒場を指した。
1
お気に入りに追加
1,570
あなたにおすすめの小説
札束艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
生まれついての勝負師。
あるいは、根っからのギャンブラー。
札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。
時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。
そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。
亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。
戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。
マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。
マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。
高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。
科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!
蒼海の碧血録
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。
そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。
熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。
戦艦大和。
日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。
だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。
ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。
(本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。)
※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる