320 / 338
Episode⑤ 女の勝ち組/女の負け組
第35章|トモコ失恋中 <1>トモコのアドバイス その1(足立里菜の視点)
しおりを挟む
<1>
「うわぁぁぁぁん!!!!!! 」
私たちは今、小さくて静かなレトロカフェにいるというのに、友人のトモコがまた大きな声を出して机に顔を突っ伏した。
「ちょ、ちょっとトモコっ、声、声の音量、押さえて・・・・・・他のお客さんが見てるよっ」
両眼いっぱいに涙を溜めて、悔しげにへの字口を作ったトモコが、ガバッと勢いよく顔を上げて私を見る。
「うぇ~ん。わかったぁ。でもさぁ~・・・・・・里菜ァ・・・・・・失恋したら・・・・・・ッ、な、泣くっしょ? 」
「うん、それはわかる・・・・・・ショックだよね」
トモコは結婚を考えていた真剣交際の彼氏と、残念なことに先日、お別れしてしまったらしい。
元気を出して欲しいから、今日は小洒落た雑貨屋さんや隠れカフェが点在していると話題の蔵前エリアに遊びに来た。
なのにトモコはキュートな雑貨も、さっき運ばれてきた名物のシュークリームもそっちのけで、悲壮な顔で失恋の話を繰り返している。
もしかしたら雑貨屋巡りやカフェ散歩よりも、今日は居酒屋に誘ってあげたほうがよかったのかもしれない。
「うぐっ・・・・・・ひどいよ・・・・・・、もう私に、興味なくなっちゃっだなんで、うぐぐぐぐ・・・・・・・・・じがも、もう、新しいオンナがいるっぽいのぉ! 早すぎる。だぶん、二股の時期、あったと思う、乗り換えられたぁ・・・・・・ぐ・や・じ・ぃ。む、むがづぐゥ・・・・・・」
「二股は疑惑で、確定じゃないんでしょう? まぁ、とりあえずせっかくだから、甘いもの食べようよ、ね」
このお店のシュークリームは、普通のと違ってシューのてっぺんの部分が切り取られていて、本体にたっぷりとうず高く盛られた乳白色のクリームの上に、帽子のように載せられている形だ。
淡いベージュの木製テーブルの上に、金色の縁取りがされたクラシックなお皿。その真ん中に居る帽子を被ったシュークリーム。添えられた銀のフォークとナイフ、隣にコーヒーカップ。なんとも絵になる佇まいだ。
店内の壁紙は白、シンプルな薄いレースのカーテンも無地の白。控えめな照明器具がところどころに配置されている。飾りすぎず、地味すぎず。シンプルなかわいさが心地良い。
「うん・・・・・・あ、これ、食べる前に写真撮っとこ・・・・・・」
シュークリームを撮影しようとして、チャッとスマホを取り出したとたん、泣き腫らしていたトモコの目の色が変わった。
「おっ、釣れてる、釣れてるゥ♪」
「釣れてる・・・・・・? どしたの? 魚? 」
「ううん、オ・ト・コ♥ 見てこれ。新しいマチアプ、今朝から始めたの」
「マッチングアプリ・・・・・・うわ。すごい、トモコ、メッセージがたくさん来てるね」
トモコのスマホ画面は、スクロールしてもスクロールしても、男性からの「会いたい」のメッセージで埋め尽くされていた。
「うっひょ~。あたしモテモテじゃん。まだまだイケるってことか! でも本当の狩りはココから! 見た目、職業、推定年収、趣味モロモロで、厳しくセレクトセレクトぉ♪ 」
気づくとさっきまでの涙はどこへやら、すっかりトモコの顔は、獲物を狙うハンターのそれに切り替わっている。
「それだけ候補がいたら、選びたい放題だねぇ。すぐ次の彼氏ができそう」
「んー。それが、そうでもないのよねぇ。女の子にはたくさんメッセ来るけど、こっちが付き合いたいようなスペックの良いオトコも、大量にアプローチ来て選びたい放題なんだもん。だから意外と、ぴったりの人探すには根気が必要ってカンジ。でもあたし、頑張る。だって失恋の傷は、新しい恋でしか癒やせないもんっ! ところで、里菜はマチアプ、やんないの? 」
「うーん・・・・・・。私あんまり器用なほうじゃないから」
苦笑いで答えた。私は、人並みより集中力がない。仕事のメールでさえ、見落としをして鈴木先生に注意されることがあるから、トモコの半分の数でも同時に色んな人からメッセージが来たらと思うと、気が重くて、いまいちアプリをやりたいと思えない。
「ふーん。で、里菜、最近、ラブのほうはどう? いい人できた? 」
「えっ・・・・・・な、ないよ、全然ない」
「えー。進展なしか。好きな人もいないの? 」
「うっ。好き・・・・・・ってほどじゃないけど、気になる人は、い、いなくも、ないかも」
自分のことを訊かれると、とたんに恥ずかしくなってシュークリームを口に運んだ。
キツすぎない甘さが口の中にふわんと広がった。
「うわぁぁぁぁん!!!!!! 」
私たちは今、小さくて静かなレトロカフェにいるというのに、友人のトモコがまた大きな声を出して机に顔を突っ伏した。
「ちょ、ちょっとトモコっ、声、声の音量、押さえて・・・・・・他のお客さんが見てるよっ」
両眼いっぱいに涙を溜めて、悔しげにへの字口を作ったトモコが、ガバッと勢いよく顔を上げて私を見る。
「うぇ~ん。わかったぁ。でもさぁ~・・・・・・里菜ァ・・・・・・失恋したら・・・・・・ッ、な、泣くっしょ? 」
「うん、それはわかる・・・・・・ショックだよね」
トモコは結婚を考えていた真剣交際の彼氏と、残念なことに先日、お別れしてしまったらしい。
元気を出して欲しいから、今日は小洒落た雑貨屋さんや隠れカフェが点在していると話題の蔵前エリアに遊びに来た。
なのにトモコはキュートな雑貨も、さっき運ばれてきた名物のシュークリームもそっちのけで、悲壮な顔で失恋の話を繰り返している。
もしかしたら雑貨屋巡りやカフェ散歩よりも、今日は居酒屋に誘ってあげたほうがよかったのかもしれない。
「うぐっ・・・・・・ひどいよ・・・・・・、もう私に、興味なくなっちゃっだなんで、うぐぐぐぐ・・・・・・・・・じがも、もう、新しいオンナがいるっぽいのぉ! 早すぎる。だぶん、二股の時期、あったと思う、乗り換えられたぁ・・・・・・ぐ・や・じ・ぃ。む、むがづぐゥ・・・・・・」
「二股は疑惑で、確定じゃないんでしょう? まぁ、とりあえずせっかくだから、甘いもの食べようよ、ね」
このお店のシュークリームは、普通のと違ってシューのてっぺんの部分が切り取られていて、本体にたっぷりとうず高く盛られた乳白色のクリームの上に、帽子のように載せられている形だ。
淡いベージュの木製テーブルの上に、金色の縁取りがされたクラシックなお皿。その真ん中に居る帽子を被ったシュークリーム。添えられた銀のフォークとナイフ、隣にコーヒーカップ。なんとも絵になる佇まいだ。
店内の壁紙は白、シンプルな薄いレースのカーテンも無地の白。控えめな照明器具がところどころに配置されている。飾りすぎず、地味すぎず。シンプルなかわいさが心地良い。
「うん・・・・・・あ、これ、食べる前に写真撮っとこ・・・・・・」
シュークリームを撮影しようとして、チャッとスマホを取り出したとたん、泣き腫らしていたトモコの目の色が変わった。
「おっ、釣れてる、釣れてるゥ♪」
「釣れてる・・・・・・? どしたの? 魚? 」
「ううん、オ・ト・コ♥ 見てこれ。新しいマチアプ、今朝から始めたの」
「マッチングアプリ・・・・・・うわ。すごい、トモコ、メッセージがたくさん来てるね」
トモコのスマホ画面は、スクロールしてもスクロールしても、男性からの「会いたい」のメッセージで埋め尽くされていた。
「うっひょ~。あたしモテモテじゃん。まだまだイケるってことか! でも本当の狩りはココから! 見た目、職業、推定年収、趣味モロモロで、厳しくセレクトセレクトぉ♪ 」
気づくとさっきまでの涙はどこへやら、すっかりトモコの顔は、獲物を狙うハンターのそれに切り替わっている。
「それだけ候補がいたら、選びたい放題だねぇ。すぐ次の彼氏ができそう」
「んー。それが、そうでもないのよねぇ。女の子にはたくさんメッセ来るけど、こっちが付き合いたいようなスペックの良いオトコも、大量にアプローチ来て選びたい放題なんだもん。だから意外と、ぴったりの人探すには根気が必要ってカンジ。でもあたし、頑張る。だって失恋の傷は、新しい恋でしか癒やせないもんっ! ところで、里菜はマチアプ、やんないの? 」
「うーん・・・・・・。私あんまり器用なほうじゃないから」
苦笑いで答えた。私は、人並みより集中力がない。仕事のメールでさえ、見落としをして鈴木先生に注意されることがあるから、トモコの半分の数でも同時に色んな人からメッセージが来たらと思うと、気が重くて、いまいちアプリをやりたいと思えない。
「ふーん。で、里菜、最近、ラブのほうはどう? いい人できた? 」
「えっ・・・・・・な、ないよ、全然ない」
「えー。進展なしか。好きな人もいないの? 」
「うっ。好き・・・・・・ってほどじゃないけど、気になる人は、い、いなくも、ないかも」
自分のことを訊かれると、とたんに恥ずかしくなってシュークリームを口に運んだ。
キツすぎない甘さが口の中にふわんと広がった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。
広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ!
待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの?
「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」
国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
親戚のおじさんに犯された!嫌がる私の姿を見ながら胸を揉み・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
親戚のおじさんの家に住み、大学に通うことになった。
「おじさん、卒業するまで、どうぞよろしくお願いします」
「ああ、たっぷりとかわいがってあげるよ・・・」
「・・・?は、はい」
いやらしく私の目を見ながらニヤつく・・・
その夜。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
会社員だった俺が試しに選挙に出てみたら当選して総理大臣になってしまった件
もっちもっち
経済・企業
(第2巻 新革党の選挙戦)の内容紹介です。
会社員古味良一は、討論番組や政治のニュースをはしごするのが好きなだけの、30歳独身のしがない男・・・だったが、試しに立候補した衆議院選挙で当選してしまう。今期限りで政治家はやめて、再就職を目指す予定が、紆余曲折を得て、渦川俊郎が結党した「新革党」から再選を目指すことになった。
--- 登場人物 ---
古味良一・・・この物語の主人公。新革党の候補者。あだ名は風雲児。選挙区:茨城県。
-新革党-
渦川俊郎・・・新革党の党首。選挙区:滋賀県。
緒川順子・・・渦川俊郎の政策秘書。
会田敬一・・・新革党の現職。渦川俊郎の盟友。選挙区:滋賀県。
前澤卓・・・新革党の現職。選挙区:埼玉県。
田辺正勝・・・新革党の現職。選挙区:大阪府。
高野清一・・・新革党の新人。選挙区:和歌山県。
-民自党-
阿相元春・・・現内閣総理大臣。選挙区:京都府。
秋屋誠二・・・現国土交通大臣。選挙区:福井県。
水園寺幸房・・・民自党の現職。選挙区:茨城県。
水園寺義光・・・民自党の現職。選挙区:茨城県。
-地方の風-
水本上親・・・地方の風代表。新人。選挙区:長崎県。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる