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Episode⑤ 女の勝ち組/女の負け組

第35章|トモコ失恋中 <1>トモコのアドバイス その1(足立里菜の視点)

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「うわぁぁぁぁん!!!!!! 」


 私たちは今、小さくて静かなレトロカフェにいるというのに、友人のトモコがまた大きな声を出して机に顔を突っ伏した。

「ちょ、ちょっとトモコっ、声、声の音量、押さえて・・・・・・他のお客さんが見てるよっ」

両眼いっぱいに涙を溜めて、悔しげにへの字ぐちを作ったトモコが、ガバッと勢いよく顔を上げて私を見る。

「うぇ~ん。わかったぁ。でもさぁ~・・・・・・里菜ァ・・・・・・失恋したら・・・・・・ッ、な、泣くっしょ? 」

「うん、それはわかる・・・・・・ショックだよね」


トモコは結婚を考えていた真剣交際の彼氏と、残念なことに先日、お別れしてしまったらしい。

元気を出して欲しいから、今日は小洒落た雑貨屋さんや隠れカフェが点在していると話題の蔵前エリアに遊びに来た。
なのにトモコはキュートな雑貨も、さっき運ばれてきた名物のシュークリームもそっちのけで、悲壮な顔で失恋の話を繰り返している。
もしかしたら雑貨屋巡りやカフェ散歩よりも、今日は居酒屋に誘ってあげたほうがよかったのかもしれない。


「うぐっ・・・・・・ひどいよ・・・・・・、もう私に、興味なくなっちゃっだなんで、うぐぐぐぐ・・・・・・・・・、もう、新しいオンナがいるっぽいのぉ! 早すぎる。だぶん、二股の時期、あったと思う、乗り換えられたぁ・・・・・・ぐ・や・じ・ぃ。む、むがづぐゥ・・・・・・」

「二股は疑惑で、確定じゃないんでしょう? まぁ、とりあえずせっかくだから、甘いもの食べようよ、ね」

このお店のシュークリームは、普通のと違ってシューのてっぺんの部分が切り取られていて、本体にたっぷりとうず高く盛られた乳白色のクリームの上に、帽子のように載せられている形だ。

淡いベージュの木製テーブルの上に、金色の縁取りがされたクラシックなお皿。その真ん中に居る帽子を被ったシュークリーム。添えられた銀のフォークとナイフ、隣にコーヒーカップ。なんとも絵になる佇まいだ。
店内の壁紙は白、シンプルな薄いレースのカーテンも無地の白。控えめな照明器具がところどころに配置されている。飾りすぎず、地味すぎず。シンプルなかわいさが心地良い。

「うん・・・・・・あ、これ、食べる前に写真撮っとこ・・・・・・」
シュークリームを撮影しようとして、チャッとスマホを取り出したとたん、泣き腫らしていたトモコの目の色が変わった。

「おっ、釣れてる、釣れてるゥ♪」

「釣れてる・・・・・・? どしたの? 魚? 」

「ううん、オ・ト・コ♥ 見てこれ。新しいマチアプ、今朝から始めたの」

「マッチングアプリ・・・・・・うわ。すごい、トモコ、メッセージがたくさん来てるね」

トモコのスマホ画面は、スクロールしてもスクロールしても、男性からの「会いたい」のメッセージで埋め尽くされていた。

「うっひょ~。あたしモテモテじゃん。まだまだイケるってことか! でも本当の狩りはココから! 見た目、職業、推定年収、趣味モロモロで、厳しくセレクトセレクトぉ♪ 」

気づくとさっきまでの涙はどこへやら、すっかりトモコの顔は、獲物を狙うハンターのそれに切り替わっている。

「それだけ候補がいたら、選びたい放題だねぇ。すぐ次の彼氏ができそう」

「んー。それが、そうでもないのよねぇ。女の子にはたくさんメッセ来るけど、こっちが付き合いたいようなスペックの良いオトコも、大量にアプローチ来て選びたい放題なんだもん。だから意外と、ぴったりの人探すには根気が必要ってカンジ。でもあたし、頑張る。だって失恋の傷は、新しい恋でしか癒やせないもんっ! ところで、里菜はマチアプ、やんないの? 」

「うーん・・・・・・。私あんまり器用なほうじゃないから」

苦笑いで答えた。私は、人並みより集中力がない。仕事のメールでさえ、見落としをして鈴木先生に注意されることがあるから、トモコの半分の数でも同時に色んな人からメッセージが来たらと思うと、気が重くて、いまいちアプリをやりたいと思えない。

「ふーん。で、里菜、最近、ラブのほうはどう? いい人できた? 」

「えっ・・・・・・な、ないよ、全然ない」

「えー。進展なしか。好きな人もいないの? 」

「うっ。好き・・・・・・ってほどじゃないけど、気になる人は、い、いなくも、ないかも」

自分のことを訊かれると、とたんに恥ずかしくなってシュークリームを口に運んだ。

キツすぎない甘さが口の中にふわんと広がった。

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