289 / 373
Episode⑤ 女の勝ち組/女の負け組
第29章|誰も知らないふたりの話 <3>風寿くんの回復(井場本花蓮の回想)
しおりを挟む
<3>
いい睡眠を取るためには、朝や昼間の過ごし方が重要だ。決まった時間に朝日を浴びて、朝散歩などの軽い運動をして、体内時計の目覚めのスイッチを入れること。
そして昼間は活動的に過ごすこと。
そのリズムがないと、人間、とくに精神を病んだ患者は、なかなか夜、すんなり眠ることができない。
サーファーは朝日が出る前に海まで行って、日の出とともに波に乗る。
ちょうどいいので、私はそれからしばらく毎日のように早朝、風寿くんを自宅に迎えに行って、車の中で話をしながら一緒に朝日が出るのを待って過ごした。
太陽が顔を出すと、私だけがサーフボードを抱えて、彼を連れて海岸まで降りていく。
風寿くんはサーフィンをしないから、海岸の岩場でぼーっと空を見ているようだった。
私が波乗りを終えたら、彼のアパートまで車で送ってあげる。
そのあと、私は大学病院に出勤して働く。彼は大学の医学部に授業を受けに行く。
その繰り返し。繰り返し。
そうしているうちに、私達は少しずつお互いの境遇を知って、仲良くなっていった。
そして、私達が医者と患者から、先輩と後輩、友人同士、のように仲良くなるのと歩みを合わせるように、風寿くんの目が少しずつ生気を取り戻していくのを感じた。
精神を病んでゾンビのようになっていた風寿くんが元気になるに従って、灰色にくすんだ肌は明るく張り、食欲が戻ってガリガリに痩せ細っていた体型がまともになり、ぽつぽつとはにかんだ笑顔が見られるようになった。
当時、なかなか病状が改善せずに社会復帰できない精神科患者を多く担当していた私にとって、まるで萎れた花が蘇っていくような、生き生きとした彼の様子は何より嬉しくて、慰めになった。
いい睡眠を取るためには、朝や昼間の過ごし方が重要だ。決まった時間に朝日を浴びて、朝散歩などの軽い運動をして、体内時計の目覚めのスイッチを入れること。
そして昼間は活動的に過ごすこと。
そのリズムがないと、人間、とくに精神を病んだ患者は、なかなか夜、すんなり眠ることができない。
サーファーは朝日が出る前に海まで行って、日の出とともに波に乗る。
ちょうどいいので、私はそれからしばらく毎日のように早朝、風寿くんを自宅に迎えに行って、車の中で話をしながら一緒に朝日が出るのを待って過ごした。
太陽が顔を出すと、私だけがサーフボードを抱えて、彼を連れて海岸まで降りていく。
風寿くんはサーフィンをしないから、海岸の岩場でぼーっと空を見ているようだった。
私が波乗りを終えたら、彼のアパートまで車で送ってあげる。
そのあと、私は大学病院に出勤して働く。彼は大学の医学部に授業を受けに行く。
その繰り返し。繰り返し。
そうしているうちに、私達は少しずつお互いの境遇を知って、仲良くなっていった。
そして、私達が医者と患者から、先輩と後輩、友人同士、のように仲良くなるのと歩みを合わせるように、風寿くんの目が少しずつ生気を取り戻していくのを感じた。
精神を病んでゾンビのようになっていた風寿くんが元気になるに従って、灰色にくすんだ肌は明るく張り、食欲が戻ってガリガリに痩せ細っていた体型がまともになり、ぽつぽつとはにかんだ笑顔が見られるようになった。
当時、なかなか病状が改善せずに社会復帰できない精神科患者を多く担当していた私にとって、まるで萎れた花が蘇っていくような、生き生きとした彼の様子は何より嬉しくて、慰めになった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
甘い失恋
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私は今日、2年間務めた派遣先の会社の契約を終えた。
重い荷物を抱えエレベーターを待っていたら、上司の梅原課長が持ってくれた。
ふたりっきりのエレベター、彼の後ろ姿を見ながらふと思う。
ああ、私は――。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる