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Episode⑤ 女の勝ち組/女の負け組
第27章|港区の港 <3>海での荷物の運びかた(足立里菜の視点)
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<3>
「コンテナは、20フィートコンテナ、40フィートコンテナなど、国際規格でサイズが決まっています。ですから国や会社が違っても形が同じで、整然とコンテナ船に積み上げることができるのです。
コンテナ埠頭では、外国から一斉に船で運ばれてきたコンテナをガントリークレーンでどんどん陸に揚げ、そのあとはコンテナごとトラック後部や専用列車に乗せて各地の倉庫や工場に陸路で運ぶことができるようになっています。
この方法が成立したことで海上国際物流の効率性が改善し、輸送コストは従来の約40分の1と大幅に削減され、品物によっては国内工場で作って調達するよりも、海外から輸入するほうがずっと安く手に入るようになりました。
コンテナが物流にもたらした変化はグローバリゼーションを一気に押し進め、劇的に社会を変えたことから“コンテナは20世紀最大の発明のひとつ”、“コンテナ革命”とさえ言われています」
「シンプルな金属の箱が、革命を起こしたんですね……すごい」
「我が国の海上貿易額のうち約6割超がコンテナ積み貨物という中で、特に関東圏の巨大消費地を近隣に持つ東京港では、国際海上輸送される貨物の96%がコンテナ貨物です。東京港のコンテナ取扱量はここ数十年ずっと、日本のすべての港の中でトップをキープしています」
「東京湾は、コンテナの港でもあるんですね。あのコンテナの中には、私たちが日頃使うような物が入っているんでしょうか・・・・・・? 」
「入っています。衣類、食品、雑貨、家具、家電。工業製品と部品など」
「へぇ。じゃあ、ああいうコンテナに、海外で生産された『ジーウー』の服とか、『イイトリ』の家具が入っているのかもしれませんね! 」
「そうかもしれませんね」
私はもう一度、望遠鏡を覗いた。
普段働いている港区に、こんな一面があるなんて知らなかった。
でもあのコンテナのひとつひとつに、私達がお店で買うような商品が詰まっているかもしれないと思うと、親近感が湧いてくる。
鈴木先生が続けた。
「しかし、コンテナの中に輸入してはいけない品物が入っていては困りますし、危険物を不適切に載せれば海上で船ごと大破してしまうかもしれない。輸入品には関税もかかります。
ルールを守って国内に貨物を入れさせなければ大混乱が起きるでしょう。
また、海外の相手と品物をやりとりする場合、代金が支払われないリスク、紛失や破損のリスクなどがつきまといます。そのため国際間商取引には共通ルールが定められていて、そのルールを互いに理解したうえで、貨物ごとに正しく付帯文書を付けて送る必要があります」
「専門知識がないと、国境を越える貨物は送れないですね・・・・・・。もしかしてそのお手伝いをしているのが『ブルーテイル商運株式会社』ですか? 」
「まぁざっくり言うとそういう感じです。『ブルーテイル商運株式会社』は、貨物をドアtoドアで国際輸送するためのコンシェルジュのようなもの。
船そのものは所有していないのですが、船に載せるコンテナの空きスペースをあらかじめ一定数確保しているほか、海路・陸路・空路の運送会社との連携があり、依頼された貨物に最適な輸送法を提案しています。
特に強みがあるのは『コンテナ輸送』。一本のコンテナに同じお客からの依頼物だけを詰めることもありますが、一本のコンテナに複数のお客の荷物を混載するサービスも提供しています。もちろん輸出入や通関に必要な事務手続きの代行も請け負います。また、港に着いた荷物の倉庫での一時保管手配、港から最終目的地への配送手配も行っています」
「そうだったんですね・・・・・・。コンテナ丸々一本分には満たない荷物なら、空いているコンテナに相乗りさせてもらえると助かりそうですし、港に着いたあと、海外の受け取り主のところまで貨物を届ける手配もしてくれるなんて、貿易を伴うビジネスをする人にとっては心強いですね」
「はい。『ブルーテイル商運株式会社』のように、それ自体では直接輸送を行わなず、輸送網を利用して運送を引き受ける業者は『フォワーダー』とも呼ばれていて、国際物流には欠かせない存在です。
最初は聞き慣れない仕事内容でも、会社の事業は、必ず何らかの形で社会の役に立っているもの。そして会社で働く人々の健康を産業医や保健師がサポートすることは、間接的にこの社会と暮らしを支えることにつながります。様々な業界の仕組みを知ることで、よりその実感も深まりますので、たまにはこういう寄り道をしてみるのも面白いものですよ」
色々語ってくれた鈴木先生の表情が生き生きしていて、
先生って、本当に産業医の仕事が好きなんだろうなぁ、と思った。
「ふふ。鈴木先生って、お仕事しているとき、とっても楽しそうですもんね! 」
「え? そうですか? 」
「はい! そうですよ! 」
私の言葉に鈴木先生がちょっと照れた顔をしたので、くすっと笑ってしまった。
「コンテナは、20フィートコンテナ、40フィートコンテナなど、国際規格でサイズが決まっています。ですから国や会社が違っても形が同じで、整然とコンテナ船に積み上げることができるのです。
コンテナ埠頭では、外国から一斉に船で運ばれてきたコンテナをガントリークレーンでどんどん陸に揚げ、そのあとはコンテナごとトラック後部や専用列車に乗せて各地の倉庫や工場に陸路で運ぶことができるようになっています。
この方法が成立したことで海上国際物流の効率性が改善し、輸送コストは従来の約40分の1と大幅に削減され、品物によっては国内工場で作って調達するよりも、海外から輸入するほうがずっと安く手に入るようになりました。
コンテナが物流にもたらした変化はグローバリゼーションを一気に押し進め、劇的に社会を変えたことから“コンテナは20世紀最大の発明のひとつ”、“コンテナ革命”とさえ言われています」
「シンプルな金属の箱が、革命を起こしたんですね……すごい」
「我が国の海上貿易額のうち約6割超がコンテナ積み貨物という中で、特に関東圏の巨大消費地を近隣に持つ東京港では、国際海上輸送される貨物の96%がコンテナ貨物です。東京港のコンテナ取扱量はここ数十年ずっと、日本のすべての港の中でトップをキープしています」
「東京湾は、コンテナの港でもあるんですね。あのコンテナの中には、私たちが日頃使うような物が入っているんでしょうか・・・・・・? 」
「入っています。衣類、食品、雑貨、家具、家電。工業製品と部品など」
「へぇ。じゃあ、ああいうコンテナに、海外で生産された『ジーウー』の服とか、『イイトリ』の家具が入っているのかもしれませんね! 」
「そうかもしれませんね」
私はもう一度、望遠鏡を覗いた。
普段働いている港区に、こんな一面があるなんて知らなかった。
でもあのコンテナのひとつひとつに、私達がお店で買うような商品が詰まっているかもしれないと思うと、親近感が湧いてくる。
鈴木先生が続けた。
「しかし、コンテナの中に輸入してはいけない品物が入っていては困りますし、危険物を不適切に載せれば海上で船ごと大破してしまうかもしれない。輸入品には関税もかかります。
ルールを守って国内に貨物を入れさせなければ大混乱が起きるでしょう。
また、海外の相手と品物をやりとりする場合、代金が支払われないリスク、紛失や破損のリスクなどがつきまといます。そのため国際間商取引には共通ルールが定められていて、そのルールを互いに理解したうえで、貨物ごとに正しく付帯文書を付けて送る必要があります」
「専門知識がないと、国境を越える貨物は送れないですね・・・・・・。もしかしてそのお手伝いをしているのが『ブルーテイル商運株式会社』ですか? 」
「まぁざっくり言うとそういう感じです。『ブルーテイル商運株式会社』は、貨物をドアtoドアで国際輸送するためのコンシェルジュのようなもの。
船そのものは所有していないのですが、船に載せるコンテナの空きスペースをあらかじめ一定数確保しているほか、海路・陸路・空路の運送会社との連携があり、依頼された貨物に最適な輸送法を提案しています。
特に強みがあるのは『コンテナ輸送』。一本のコンテナに同じお客からの依頼物だけを詰めることもありますが、一本のコンテナに複数のお客の荷物を混載するサービスも提供しています。もちろん輸出入や通関に必要な事務手続きの代行も請け負います。また、港に着いた荷物の倉庫での一時保管手配、港から最終目的地への配送手配も行っています」
「そうだったんですね・・・・・・。コンテナ丸々一本分には満たない荷物なら、空いているコンテナに相乗りさせてもらえると助かりそうですし、港に着いたあと、海外の受け取り主のところまで貨物を届ける手配もしてくれるなんて、貿易を伴うビジネスをする人にとっては心強いですね」
「はい。『ブルーテイル商運株式会社』のように、それ自体では直接輸送を行わなず、輸送網を利用して運送を引き受ける業者は『フォワーダー』とも呼ばれていて、国際物流には欠かせない存在です。
最初は聞き慣れない仕事内容でも、会社の事業は、必ず何らかの形で社会の役に立っているもの。そして会社で働く人々の健康を産業医や保健師がサポートすることは、間接的にこの社会と暮らしを支えることにつながります。様々な業界の仕組みを知ることで、よりその実感も深まりますので、たまにはこういう寄り道をしてみるのも面白いものですよ」
色々語ってくれた鈴木先生の表情が生き生きしていて、
先生って、本当に産業医の仕事が好きなんだろうなぁ、と思った。
「ふふ。鈴木先生って、お仕事しているとき、とっても楽しそうですもんね! 」
「え? そうですか? 」
「はい! そうですよ! 」
私の言葉に鈴木先生がちょっと照れた顔をしたので、くすっと笑ってしまった。
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