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Episode③ 魂の居場所
第13章|あなたはここにいる <4>気の重い待ち合わせ
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<4>
その日の夕方、鈴木先生と私は都合により別行動になっていたので、指定された新日本橋駅付近の場所で待ち合わせすることになった。
通りに面した大きな銀行の前で、そわそわと鈴木先生の到着を待った。
私が立っている場所からは、荘厳なゴシック様式? の柱で飾られた、明治の香りがするクラシックな建物が見えた。かと思えば近代的なビルの1階の店舗に、上品で和風なのれんが掛けられていたりもする。長年人が行きかってきた場所に特有の洗練と賑わいを感じる、華やかな大通りだった。
夕方なので、行きかう人々も、仕事を終えた風の人が多い。
ビジネス服に身を包んで黙々と歩いている人が大半だけれど、雑踏の中に、幸せそうに手を繋いでいる若い男女が居た。
―――ラブラブ、いいなぁ。今日の待ち合わせ、デートだったらもっと楽しいのにな。
そんなことを頭の片隅で考えてしまった。
でも、今の私は、楽しみというより、緊張で胃から何かが上がってきそうな気分になっている。
(鈴木先生のお気に入りの女性と、同席で夕ご飯かぁ……………激・重いシチュエーションだなぁ……)
『東都カレンダー』の表紙みたいな女の人と、しっとりお酒を飲んで笑いあっている鈴木先生を想像したら、さっきから胸がざわついて仕方なかった。
―――のぞみさん。どんな女性だろう。
―――可愛い人? 綺麗な人? それともセクシー系? 知性系?
ていうか、やっぱりモテ要素全部盛り系、かなぁ~~?? うぅ…………ヤバい………。
(あー、もう。私、何を考えているんだろう。先生は単に、“ペア”の私を、仕事の一環で誘ってくれただけなのに。
私の考え、暴走しすぎ。ちょっと変だ、疲れているのかも………)
下を向いて悶々としていたら、聞きなれた声がした。
「お待たせしました。少々最後、手間取ってしまいました」
顔を上げると、鈴木先生がいた。
急いで来てくれた様子だ。
数分だけ待ち合わせに遅れた申し訳なさからなのか、仕事終わりの解放感からか、いつもは油断も隙もなく集中の糸を張り巡らされたような先生の表情が、今日は少し緩んで見えた。
これから鈴木先生お気に入りのひとを紹介されるという、厳しい現実を想定しておかなければいけないのに、先生の顔を見たら思わず少し気持ちがアガってしまった。
「いえいえ、全然ですっ。ほとんど待っておりませんのでっ。今来たところですよ~」
しどろもどろになりながら答えると、鈴木先生は時計を見て、では行きましょう、と言い歩き出した。
ーーーーーーあくまで私たち、仕事の関係だから、絶ッッ対に気付かれちゃいけないけど………。鈴木先生って、ちょっとだけ、好みのタイプではあるんだよね………。
先生のあとをついて歩く。うっすらとチェック柄の入った、紺色スーツの後ろ姿。袖口から見えている、白シャツの潔白さと張り。
仕事じゃないのに2人で歩いていると、なんだかフワフワ、ドキドキするのが止められない。
私はこのひとのことを何も知らない。
鈴木先生は自分のことをほとんど話さない。
けど、閉じられているから逆に、その扉を開けてみたくなってしまう。
普段、どんなふうに過ごしているんだろう。どんなものが好きで、何を考えているんだろう………。
「すみません足立さん、プライベートの時間にお誘いしてしまって」
アスファルトから聞こえる、くぐもったビジネスシューズの足音が耳に心地良い。
「いえいえ~。先生にお誘い頂いて嬉しいんですっ」
「今日は、足立さんにご紹介したい人がいるので………」歩きながら、先生が言った。
「あ…………、あ、は、はい。人気で予約が取れないのぞみさん…………ですよねっ」
「ええ、楽しい人ですよ」
「鈴木先生のお気に入りの方と、お会いできるとは~! こりゃ光栄です。わく・わく~! 」
じゃっかんわざとらしいイントネーションになってしまったけれども、一応悟られない程度には自然な感じで、喜んでいる風を装うことに成功した。
こうなったら、鈴木先生のお気に入りの人と、楽しくご飯を食べるしかない。
私は腹をくくった。
「そうですか。足立さんにとっても良い時間になると嬉しいのですが。着きました。ここが、のぞみさんの働いているお店です」
鈴木先生が立ち止まったのは、高速道路の高架下にある横断歩道の先、ちょうど交差点の角にある、オシャレなカフェだった。
その店の名前を見て、私は驚いて立ちすくんだ。
「………えっ………………こ、ここ……………………ですか? 」
その日の夕方、鈴木先生と私は都合により別行動になっていたので、指定された新日本橋駅付近の場所で待ち合わせすることになった。
通りに面した大きな銀行の前で、そわそわと鈴木先生の到着を待った。
私が立っている場所からは、荘厳なゴシック様式? の柱で飾られた、明治の香りがするクラシックな建物が見えた。かと思えば近代的なビルの1階の店舗に、上品で和風なのれんが掛けられていたりもする。長年人が行きかってきた場所に特有の洗練と賑わいを感じる、華やかな大通りだった。
夕方なので、行きかう人々も、仕事を終えた風の人が多い。
ビジネス服に身を包んで黙々と歩いている人が大半だけれど、雑踏の中に、幸せそうに手を繋いでいる若い男女が居た。
―――ラブラブ、いいなぁ。今日の待ち合わせ、デートだったらもっと楽しいのにな。
そんなことを頭の片隅で考えてしまった。
でも、今の私は、楽しみというより、緊張で胃から何かが上がってきそうな気分になっている。
(鈴木先生のお気に入りの女性と、同席で夕ご飯かぁ……………激・重いシチュエーションだなぁ……)
『東都カレンダー』の表紙みたいな女の人と、しっとりお酒を飲んで笑いあっている鈴木先生を想像したら、さっきから胸がざわついて仕方なかった。
―――のぞみさん。どんな女性だろう。
―――可愛い人? 綺麗な人? それともセクシー系? 知性系?
ていうか、やっぱりモテ要素全部盛り系、かなぁ~~?? うぅ…………ヤバい………。
(あー、もう。私、何を考えているんだろう。先生は単に、“ペア”の私を、仕事の一環で誘ってくれただけなのに。
私の考え、暴走しすぎ。ちょっと変だ、疲れているのかも………)
下を向いて悶々としていたら、聞きなれた声がした。
「お待たせしました。少々最後、手間取ってしまいました」
顔を上げると、鈴木先生がいた。
急いで来てくれた様子だ。
数分だけ待ち合わせに遅れた申し訳なさからなのか、仕事終わりの解放感からか、いつもは油断も隙もなく集中の糸を張り巡らされたような先生の表情が、今日は少し緩んで見えた。
これから鈴木先生お気に入りのひとを紹介されるという、厳しい現実を想定しておかなければいけないのに、先生の顔を見たら思わず少し気持ちがアガってしまった。
「いえいえ、全然ですっ。ほとんど待っておりませんのでっ。今来たところですよ~」
しどろもどろになりながら答えると、鈴木先生は時計を見て、では行きましょう、と言い歩き出した。
ーーーーーーあくまで私たち、仕事の関係だから、絶ッッ対に気付かれちゃいけないけど………。鈴木先生って、ちょっとだけ、好みのタイプではあるんだよね………。
先生のあとをついて歩く。うっすらとチェック柄の入った、紺色スーツの後ろ姿。袖口から見えている、白シャツの潔白さと張り。
仕事じゃないのに2人で歩いていると、なんだかフワフワ、ドキドキするのが止められない。
私はこのひとのことを何も知らない。
鈴木先生は自分のことをほとんど話さない。
けど、閉じられているから逆に、その扉を開けてみたくなってしまう。
普段、どんなふうに過ごしているんだろう。どんなものが好きで、何を考えているんだろう………。
「すみません足立さん、プライベートの時間にお誘いしてしまって」
アスファルトから聞こえる、くぐもったビジネスシューズの足音が耳に心地良い。
「いえいえ~。先生にお誘い頂いて嬉しいんですっ」
「今日は、足立さんにご紹介したい人がいるので………」歩きながら、先生が言った。
「あ…………、あ、は、はい。人気で予約が取れないのぞみさん…………ですよねっ」
「ええ、楽しい人ですよ」
「鈴木先生のお気に入りの方と、お会いできるとは~! こりゃ光栄です。わく・わく~! 」
じゃっかんわざとらしいイントネーションになってしまったけれども、一応悟られない程度には自然な感じで、喜んでいる風を装うことに成功した。
こうなったら、鈴木先生のお気に入りの人と、楽しくご飯を食べるしかない。
私は腹をくくった。
「そうですか。足立さんにとっても良い時間になると嬉しいのですが。着きました。ここが、のぞみさんの働いているお店です」
鈴木先生が立ち止まったのは、高速道路の高架下にある横断歩道の先、ちょうど交差点の角にある、オシャレなカフェだった。
その店の名前を見て、私は驚いて立ちすくんだ。
「………えっ………………こ、ここ……………………ですか? 」
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