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Episode① 産業保健ってなあに

第5章|サクラマス化学株式会社 南アルプス工場 <21>鈴木先生と歩く夜の街??

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<21>


 んー……


「…さん。ちょっと、足立さん、着きましたよ。そろそろいい加減、起きてください」

 右腕を誰かに揺さぶられている。

 気持ちいい…………ここは、ベッド?? それとも…………タクシー!? 


「ふ、フぉッ」


 私の腕を揺さぶる声の主を確かめようと、ぼんやり目を開けたら、眉間に皺を寄せた鈴木先生の顔が、薄暗闇にどアップで見えた。


「ふ、フェ、すみませんッ」

 まずい。気持ちよく寝てしまっていた。うっかりヨダレが出ていたかもしれない。

 キョロキョロとあたりを見回すと、見慣れた近所の景色だ。どうやら目的地に着いたらしい。


「お客さ~ん。ここ、道が細いから、車はこれ以上奥まで入れないんですよ。でもこの先、夜はちょっと……ガラが悪いんですよ。女の子1人だと、気を付けないと……」運転手さんが言う。


「わかりました。僕が部屋まで送ります。足立さん、降りてください」鈴木先生に促されて、タクシーを降りた。



「す、すみません、自宅まで送っていただくなんて」

 鈴木先生と並んで、夜の×××を歩いた。
先ほどの失態もあって、私は赤面しきりだ。


「いえ……。それは構いませんが、体調は大丈夫ですか」


――――ヤダァ。社長のエッチィ~~!!! 触ったぁ! ネェ、今ぜったい触ったよね?? 

――――いいじゃないかァ~。触っても減るもんじゃないし~!! もっと触らせろォ~♪

 繁華街を行き交う男女が、欲望丸出しでいちゃつきながら歩いている。


 ……このロケーション、恥ずかしすぎる。
 やっぱり、お金を貯めたら早めに引っ越そう。


「え、ええ。体調、全然、大丈夫です!! 私、体は丈夫なほうですので!!」

 周囲の音をかき消したくて、わざと大きな声で答えた。


 狭く曲がりくねった路地に、飲食店のメニューの看板がはみ出している。

その中に所々、「マッサージ」と書いた看板があるんだけど、直感的に、これは多分、私が肩こり解消のために通うようなお店じゃないんだろうな……、と思う。

夜にこの街を歩いている人の顔は、サラリーマン風でも、昼にオフィス街で会う人達と、少し雰囲気が違うように感じる。


 いつもはこの道を歩くとき、少し緊張するんだけど、今日は隣に鈴木先生が居てくれるせいか、辺りを観察する心の余裕があった。


「そうですか……。ところで……足立さん。何故このエリアに住んでいるんですか? ……」


――――あ、お兄さんお姉さん、今なら居酒屋、飲み放題セットで2980円、安くしときますよ!! どうすか、ねぇねぇ!!どうすか!!! 別料金で、個室もありますよ! お二人で、仲良く飲みませんかぁ!! ね!! お願いしますよ! ね!!


 並んで歩く私たちに、客引きの男性がしつこく纏わりついてきたけれど、鈴木先生が断ってくれる。
 
「えぇと……私、田舎者なので、うっかり知らずに契約しちゃいまして……。駅に近いのに、家賃がとても安かったものですから」

「立ち入ったことをお聞きしますが、お一人暮らしですか? このエリアで」

「あ、はい。そこのアパートの2階の角部屋で、一人暮らしですッ」

私は、築年数がかなり経過していることを感じさせる、ボロ……じゃなかった、ヴィンテージ風味の自宅を指差した。


「……そうですか。では、僕はこのへんで」


「わざわざ送っていただき、ありがとうございました。タクシーまで乗せて頂いちゃって」私はペコリと、頭を下げた。


「おやすみなさい。今夜はゆっくり身体を休めてください」


 アハハハ、と、大きな声を立てて、ヤンキー風の集団が通り過ぎる。
 タバコと豚骨ラーメンの臭いが混じって、鼻をかすめた。

 

 自宅アパートの薄暗い階段を駆け上る。


 部屋に入ろうとして、ふと、玄関ドアの前から階下を見た。



(―――……あ、鈴木先生)



 少し困ったような顔をして、鈴木先生がまだ、アパートの下に立っていた。

 私が部屋に入るまで、見張っていてくれたみたいだ。


 先生が、こちらに手を振った。

 私も声を出さず、手を振って、お辞儀をした。


 パタン。

 ドアを閉める。


 ……鈴木先生、優しいな。




産業保健師 里菜の勉強ノート⑧ 
【産業医や保健師が会社にいる意味って??】

会社で働く人たちが安全に、かつ健康に働けるよう、見守る役割。

普段はそれほど存在感がないかもしれないけど、
困ったときに声を上げたら、気付いて助けにきてくれる存在。



………………かなぁ??


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