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Episode① 産業保健ってなあに
第5章|サクラマス化学株式会社 南アルプス工場 <8>ベテラン女性社員 甲斐さん その2
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<8>
「あの……甲斐さん……。実は私、駆け出しの『産業保健師』なんです」
「へぇ。なんだい、それ」
「働く人の健康をサポートさせて頂く、看護師です。だから、立ち入ったことをお聞きしてしまいますが……、甲斐さん、日中なかなかトイレに行けないとしても、さすがにあの出血量は……普通ではないと、思いませんか。病院には行かれていますか? 」
「いや……病院は、行ってないよ。ほら、あたしゃ、年も年だろ? もうすぐ生理もなくなる頃だと思うんだけど、閉経の前はすごく出血が増えたり、減ったり、生理の日がずれたりするもんだ、って、ご近所の噂で聞いたからさぁ。ちょっとつらいけど、まぁそんなもんかな、と思っててね」
「生理のスケジュールも、乱れていますか? 」
「うーん、そうだね。けっこう、生理じゃないときも出血してたりする」
「それは、絶対に受診するべきです。明日にでも、お休みを取って、婦人科を受診されてください! 」
「へ……なんだい、いきなり。でもほら、あたし、会社の女性がん検診も受けてるからさ。悪いものじゃないよね? 」
「残念ですが、必ずしもそうとは限りません。甲斐さんが毎年受けていらっしゃるのは『子宮頚がん検診』。でも、閉経前後の女性で、不正出血がみられる場合は、『子宮体がん』も可能性として考えるべきなんです。『子宮頚がん』は、ワクチンが開発されたり、検診が普及したりしたこともあって、年々患者さんが減っていますが、『子宮体がん』は、今も毎年患者さんが増えていて、『子宮頚がん』よりも、多くの女性が罹患しているがんです」
「そうなのか……。知らなかったよ。でもさぁ、あたしが抜けたら、工場のシフトが……」
「甲斐さん。それは順番が違います!」私は、甲斐さんの眼を見ながら、説明した。
「健康でなければ、安定して働けません。今、早めの段階で受診をして、必要な対処をすれば、安心して働けますし、もし万が一、悪い病気だったら、早くみつけて治療するほうが、仕事への影響を最小限にできますっ」
午前中、岩名さんに見せて、差し戻された紙の資料を、鞄から取り出す。
「これ……見てください。厚生労働省も、働く女性の健康サポートに、もっと積極的に取り組もうと旗振りしています。それに『サクラマス化学株式会社』の本社人事部も、働く女性が自分の健康を後回しにせず、長く元気に働けるよう、サポートしたいと考えています。遠慮しちゃダメです」
「うーん……」
「甲斐さん、本当は“大丈夫かな”って、不安に思う気持ち、ありますよね? どうか、その気持ちに、嘘をついたり、フタをしたり、しないでください。周囲の方には『産業保健師にうるさく言われたから、仕方なくて』って、言って頂いて結構ですから、是非、受診をお願いします」
思わず頭を下げた私の気迫に押されたように、甲斐さんが同意した。
「そうかい……うん、わかったよ、産業保健師さん」
その時、鈴木先生の声がした。
「足立さん、大丈夫ですか。部屋に入りますよ」
「あの……甲斐さん……。実は私、駆け出しの『産業保健師』なんです」
「へぇ。なんだい、それ」
「働く人の健康をサポートさせて頂く、看護師です。だから、立ち入ったことをお聞きしてしまいますが……、甲斐さん、日中なかなかトイレに行けないとしても、さすがにあの出血量は……普通ではないと、思いませんか。病院には行かれていますか? 」
「いや……病院は、行ってないよ。ほら、あたしゃ、年も年だろ? もうすぐ生理もなくなる頃だと思うんだけど、閉経の前はすごく出血が増えたり、減ったり、生理の日がずれたりするもんだ、って、ご近所の噂で聞いたからさぁ。ちょっとつらいけど、まぁそんなもんかな、と思っててね」
「生理のスケジュールも、乱れていますか? 」
「うーん、そうだね。けっこう、生理じゃないときも出血してたりする」
「それは、絶対に受診するべきです。明日にでも、お休みを取って、婦人科を受診されてください! 」
「へ……なんだい、いきなり。でもほら、あたし、会社の女性がん検診も受けてるからさ。悪いものじゃないよね? 」
「残念ですが、必ずしもそうとは限りません。甲斐さんが毎年受けていらっしゃるのは『子宮頚がん検診』。でも、閉経前後の女性で、不正出血がみられる場合は、『子宮体がん』も可能性として考えるべきなんです。『子宮頚がん』は、ワクチンが開発されたり、検診が普及したりしたこともあって、年々患者さんが減っていますが、『子宮体がん』は、今も毎年患者さんが増えていて、『子宮頚がん』よりも、多くの女性が罹患しているがんです」
「そうなのか……。知らなかったよ。でもさぁ、あたしが抜けたら、工場のシフトが……」
「甲斐さん。それは順番が違います!」私は、甲斐さんの眼を見ながら、説明した。
「健康でなければ、安定して働けません。今、早めの段階で受診をして、必要な対処をすれば、安心して働けますし、もし万が一、悪い病気だったら、早くみつけて治療するほうが、仕事への影響を最小限にできますっ」
午前中、岩名さんに見せて、差し戻された紙の資料を、鞄から取り出す。
「これ……見てください。厚生労働省も、働く女性の健康サポートに、もっと積極的に取り組もうと旗振りしています。それに『サクラマス化学株式会社』の本社人事部も、働く女性が自分の健康を後回しにせず、長く元気に働けるよう、サポートしたいと考えています。遠慮しちゃダメです」
「うーん……」
「甲斐さん、本当は“大丈夫かな”って、不安に思う気持ち、ありますよね? どうか、その気持ちに、嘘をついたり、フタをしたり、しないでください。周囲の方には『産業保健師にうるさく言われたから、仕方なくて』って、言って頂いて結構ですから、是非、受診をお願いします」
思わず頭を下げた私の気迫に押されたように、甲斐さんが同意した。
「そうかい……うん、わかったよ、産業保健師さん」
その時、鈴木先生の声がした。
「足立さん、大丈夫ですか。部屋に入りますよ」
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