1 / 36
夏休み
8月1日① 夏休み、隣の席の女の子と出会いました。
しおりを挟む
『俺の隣の席はいつも空いている。』
高校に通い始めて、4ヶ月が経過し同級生たちは高校生活に慣れを感じ始めているような気がする。
そんな俺も高校生活に慣れてきたかなと思っていた矢先、課外授業たるものが夏休みにあると知った時には一人家で絶望したが、今日はついに課外授業、最終日。
一番後ろの端から2番目の席で俺は机に肘を付き、外を眺めながら板書をすることなく、ただ授業が終わるときを今か今かと待っていた。
『隣の席の人、ついに前期全部来なかったな。』
視界に映るこの教室の中で唯一誰も居ない席を眺めて俺はそう思った。
しばらく眺めていると瞼が重くなってきた。
外の夏を感じるような蝉の鳴き声と、授業をする先生の声、時折吹いて来る涼しいような熱いような風は俺を眠りに誘うためには十分すぎた。
――――どれくらい眠っただろうか。
目を瞑ったまま、耳を澄ましてみるとまだ、授業をする先生の声が聞こえる。
前に掛かっている時計で時間を確認するため、俺はゆっくりと目を開けると、
「おはよ。」
俺の左側。
これまで空席だった俺の隣の席には、座って小声で小さく手を振っている女子がいた。
俺はその子に軽く頭を下げ、寝ぼけまなこを擦りながら時計を確認する。
12:00。
あと5分か。
なが・い・・な。
「はい!?」
咄嗟に出た声を封じ込めるように口を手で押さえる。
俺はだんだん意識がはっきりしてきて、今見た物が夢なのか確認するためにもう一度隣の席の方に目を向ける。
そこにはやはり制服姿の女の子が座っていて、また俺に笑顔で手を振っている。
肩のあたりで少し外に跳ねた黒く艶やかな髪が、後ろから吹く風に靡き彼女の可愛さをより一層際立たせる。
俺は一瞬見とれてしまっていたが、ふと我に返り今度は自分の頬を引っ張ってみる。
―――――痛い。
「夢じゃないよ。」
隣の席の彼女は俺の行動を見てか、そう言ってくる。
俺は咄嗟に自己紹介をする。
「は、初めまして。九重ここのえ 大地だいちって言います。」
「私はここの席の安達あだち和奏わかなだよ。よろしくね、大地君っ。」
急に可愛い女の子に下の名前で呼ばれるとドキッとしてしまう。
「よ、よろしく。安達さん。」
「和奏で良いよ。」
「よろしく。わ、和奏、さん。」
俺は照れながらも彼女の名前を呼ぶと、彼女は大きく笑顔でうんうんと頷いた。
そんな会話をしていると先生が、
「お~い、九重。何、独り言、言ってんだ。まだ授業終わってないぞ。」
「はい。すみません。」
そんな俺を見て、彼女はクスクスと笑っていた。
授業が終わり、同級生たちがぞろぞろと帰って行く中、俺は彼女に話しかける。
「和奏さんのせいで俺だけ怒られたじゃないか。君も怒られればよかったのに。」
「私は怒られないよ。」
「どうして?」
「それはね……」
彼女は席から立ちあがり、俺の方を向いて、壁に寄りかかった。
そうして、風に靡く髪を右手で右耳に掛けながら
「私、オバケだもん。」
そう言った彼女は笑った。
「オバケ?」
「そう、オバケ。」
「和奏さんもそんな冗談言うんだね。」
「冗談なんかじゃないよ。」
俺が彼女のそんな言葉を笑って返すと、彼女は俺とは対照的に真剣な目でそう言った。
「確かめてみる?」
彼女は右手を俺に向かって差し出してくる。
俺はその手を握ろうと自分の右手を差し出すが、その手は彼女に触れることなく空を切った。
「ほらね。言ったでしょ。」
見えているのに触れられない不思議な感覚。
まるでVRでも見させられているような感じだ。
「私、こうやって机とか、椅子とか物には触れるんだけど、人には触れないんだ。多分、私の姿が見えてるのも大地だけ。」
彼女はどこか寂しそうにそう言った後、
「だからさ、私と友達になってくれない?」
顔と顔が拳1つ分ぐらいの距離まで突然近づいて来た。この子には距離感という概念は無いのか、と思ったけど触れられないならそんな概念無いか。と自己完結した。
たとえお化けであっても、こんな可愛い子に頼まれたら断れるはずもなく俺は二つ返事でOKをした。
「やったー!!初めて友達出来た~!」
と教室中をはしゃぎ回っている和奏を俺は微笑んで眺めていた。
傍から見たら気持ち悪いヤツと思われるだろうなとは考えないようにした。
「じゃあ、俺は帰るから。和奏さんも早く帰りなよ。」
そう言って俺は鞄を持ち上げて、帰ろうと開いている教室の扉を潜ろうとしたとき、勢いよく扉が閉まった。
「待ってよ。」
見る人によっては怪奇現象だが、俺はそれが和奏の仕業だと見えるのですぐに分かる。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。せっかく友達になったんだから、友達っぽいことしないと!」
「友達っぽいこと?俺、一人も友達いないから分かんないよ。」
「大丈夫!私に付いて来て。」
そう言って彼女は手招きをして、俺の前を歩いて行った。
高校に通い始めて、4ヶ月が経過し同級生たちは高校生活に慣れを感じ始めているような気がする。
そんな俺も高校生活に慣れてきたかなと思っていた矢先、課外授業たるものが夏休みにあると知った時には一人家で絶望したが、今日はついに課外授業、最終日。
一番後ろの端から2番目の席で俺は机に肘を付き、外を眺めながら板書をすることなく、ただ授業が終わるときを今か今かと待っていた。
『隣の席の人、ついに前期全部来なかったな。』
視界に映るこの教室の中で唯一誰も居ない席を眺めて俺はそう思った。
しばらく眺めていると瞼が重くなってきた。
外の夏を感じるような蝉の鳴き声と、授業をする先生の声、時折吹いて来る涼しいような熱いような風は俺を眠りに誘うためには十分すぎた。
――――どれくらい眠っただろうか。
目を瞑ったまま、耳を澄ましてみるとまだ、授業をする先生の声が聞こえる。
前に掛かっている時計で時間を確認するため、俺はゆっくりと目を開けると、
「おはよ。」
俺の左側。
これまで空席だった俺の隣の席には、座って小声で小さく手を振っている女子がいた。
俺はその子に軽く頭を下げ、寝ぼけまなこを擦りながら時計を確認する。
12:00。
あと5分か。
なが・い・・な。
「はい!?」
咄嗟に出た声を封じ込めるように口を手で押さえる。
俺はだんだん意識がはっきりしてきて、今見た物が夢なのか確認するためにもう一度隣の席の方に目を向ける。
そこにはやはり制服姿の女の子が座っていて、また俺に笑顔で手を振っている。
肩のあたりで少し外に跳ねた黒く艶やかな髪が、後ろから吹く風に靡き彼女の可愛さをより一層際立たせる。
俺は一瞬見とれてしまっていたが、ふと我に返り今度は自分の頬を引っ張ってみる。
―――――痛い。
「夢じゃないよ。」
隣の席の彼女は俺の行動を見てか、そう言ってくる。
俺は咄嗟に自己紹介をする。
「は、初めまして。九重ここのえ 大地だいちって言います。」
「私はここの席の安達あだち和奏わかなだよ。よろしくね、大地君っ。」
急に可愛い女の子に下の名前で呼ばれるとドキッとしてしまう。
「よ、よろしく。安達さん。」
「和奏で良いよ。」
「よろしく。わ、和奏、さん。」
俺は照れながらも彼女の名前を呼ぶと、彼女は大きく笑顔でうんうんと頷いた。
そんな会話をしていると先生が、
「お~い、九重。何、独り言、言ってんだ。まだ授業終わってないぞ。」
「はい。すみません。」
そんな俺を見て、彼女はクスクスと笑っていた。
授業が終わり、同級生たちがぞろぞろと帰って行く中、俺は彼女に話しかける。
「和奏さんのせいで俺だけ怒られたじゃないか。君も怒られればよかったのに。」
「私は怒られないよ。」
「どうして?」
「それはね……」
彼女は席から立ちあがり、俺の方を向いて、壁に寄りかかった。
そうして、風に靡く髪を右手で右耳に掛けながら
「私、オバケだもん。」
そう言った彼女は笑った。
「オバケ?」
「そう、オバケ。」
「和奏さんもそんな冗談言うんだね。」
「冗談なんかじゃないよ。」
俺が彼女のそんな言葉を笑って返すと、彼女は俺とは対照的に真剣な目でそう言った。
「確かめてみる?」
彼女は右手を俺に向かって差し出してくる。
俺はその手を握ろうと自分の右手を差し出すが、その手は彼女に触れることなく空を切った。
「ほらね。言ったでしょ。」
見えているのに触れられない不思議な感覚。
まるでVRでも見させられているような感じだ。
「私、こうやって机とか、椅子とか物には触れるんだけど、人には触れないんだ。多分、私の姿が見えてるのも大地だけ。」
彼女はどこか寂しそうにそう言った後、
「だからさ、私と友達になってくれない?」
顔と顔が拳1つ分ぐらいの距離まで突然近づいて来た。この子には距離感という概念は無いのか、と思ったけど触れられないならそんな概念無いか。と自己完結した。
たとえお化けであっても、こんな可愛い子に頼まれたら断れるはずもなく俺は二つ返事でOKをした。
「やったー!!初めて友達出来た~!」
と教室中をはしゃぎ回っている和奏を俺は微笑んで眺めていた。
傍から見たら気持ち悪いヤツと思われるだろうなとは考えないようにした。
「じゃあ、俺は帰るから。和奏さんも早く帰りなよ。」
そう言って俺は鞄を持ち上げて、帰ろうと開いている教室の扉を潜ろうとしたとき、勢いよく扉が閉まった。
「待ってよ。」
見る人によっては怪奇現象だが、俺はそれが和奏の仕業だと見えるのですぐに分かる。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。せっかく友達になったんだから、友達っぽいことしないと!」
「友達っぽいこと?俺、一人も友達いないから分かんないよ。」
「大丈夫!私に付いて来て。」
そう言って彼女は手招きをして、俺の前を歩いて行った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
不撓導舟の独善
縞田
青春
志操学園高等学校――生徒会。その生徒会は様々な役割を担っている。学校行事の運営、部活の手伝い、生徒の悩み相談まで、多岐にわたる。
現生徒会長の不撓導舟はあることに悩まされていた。
その悩みとは、生徒会役員が一向に増えないこと。
放課後の生徒会室で、頼まれた仕事をしている不撓のもとに、一人の女子生徒が現れる。
学校からの頼み事、生徒たちの悩み相談を解決していくラブコメです。
『なろう』にも掲載。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
Cutie Skip ★
月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。
自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。
高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。
学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。
どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。
一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。
こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。
表紙:むにさん
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる