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Chapter_3:機械工の性

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 【Kerキエラキャンプ】の夕陽は部屋まで差し込まない。おかげでライラは綺麗な海を、部屋から直接眺めることができる。ここは待合室であり、レオ達の荷物を置かせてもらっている。

 エボニーはテーブルから降りて、バッグの中に入る。誰かが部屋に入ってきたようだ。女性が入ってくる。


「あら、先に入ってたの。失礼。」

「大丈夫です。すぐ寄せるんで」

「いえ、少し1人で作業をしたいだけなので。どうぞ、ごゆっくり。」

「あ、待ってください!」


 ライラは女性を止める。


「今夜、街の方へ仲間と一緒に試合を見に行くのですが……オススメの店とかあったら教えてほしいです。」

「海産物で有名だね。でも寿司屋はマグロ系しか出してこないから気をつけて。

後は、魚の甘焼きが有名な【Love-biter】。フライヤーサービス全国チェーン本店の【Jack kitchen】、粉物屋の【Suki】がおすすめ。特に【好】はお好み焼きがイチオシよ。」


 丁寧に教えてくれた。ライラは礼を言う。


「へえ、すごい……ありがとうございます!」

「また会いましょう。」


 ライラは扉を閉めてあげた。女性は見えない場所で顔色を変えて、他の場所と連絡を取る。


「……レティ局長。支度を終えました。」

『お疲れ様。夜8時に潜入する。例のカードキーを押収したかしら。』

「カードキーは押収しましたが、何より監視が厳重です。カメラの数が多く、ロボットの警備もいて、潜入ルートも見つかりません。逃走ルートさえも……」

『分かったわ。貴女達はもう退却しても構わないわ。』

「局長……。」

『私達直々に、手本を見せてあげるわ。』


 淡々とした通信だが、有意義で、頼れる一言を聴くことができた。彼女は謙虚になる。


「いえ、ここは我々が」

『今回の任務は貴女達のような逸材を失うわけにはいかないわ。本庁に戻り、データを提出してほしい。』

「……直ちに。」


 不本意ながら女性は応答する。通信は切られ、女性は周囲を注意して見る。気づかれていないことを確認して廊下を歩く。


(聞いちゃった……!)


 ライラは室内で汗を垂らしつつ、静かに素早く休憩所に戻り、水を一口含ませた。


_____


 サドはある人物と共に、【トレザー砂漠】で移動用機体を走らせていた。陽は沈み、茜色の空だけが残り、後は暗い夜空だけ。時計は6時を過ぎようとしていた。

 ある人物の名は【ユーリ】。機械の仮面で素性を隠す。一方は屈強な人造人間アンドロイドで、もう一方はサドと同じ体格で、後ろに乗っていた。

…お察しの通り、遠隔操作と自立AIである。サドにとっては場違いなほどに鍛え上げられている。すごく緊張していた。


「【ユーリ】さん。」

『女の子の方はAIだ。マスクの方が私だ。』

「すみません。【タイタン号】はおよそ10kmキロ先の岩陰に置いてあります。そろそろ駐機の準備をお願いします。」

『心得た。』


 屈強な【Gustav】製のアンドロイド【Andante】と、金髪の可憐な【Candy-menグループ】製のアンドロイド【レモン】の2機と共に任務を行う。


『到着したら周囲を確認する。監視されているか、他の奴らの痕跡があるか捜す。見つけたら遠隔で敵の位置を把握し、速攻で敵のアジトを叩いて、ここの秘密を保持する。

【タイタン号】の警備は万全か?』

「警備ロボを使って守らせています。発見次第、こちらに警告が伝わる仕様です。」

『つまり、今はまだ大丈夫と?』

「まだ付近にはいませんね……。」


 サドは心配していた。



 しばらく移動すると、白い塊の地面が散見される。罅割れが目立ち砂漠の境目に近づくと目で感じられる。

 遠くに大きな塚のような物がある。もはや山に近く、更に移動に時間をかけるだろう。

 ユーリはある逸話を語り始めた。


『時にあなたは、ここで起きた災害をご存知で?』

「災害と聞くと、機械霊か何かでしょうか。」

『いかにも。それも有名な災害に関わる話で。


_____


……今より1000年前、【STPセントラルタワープラント】にて目撃された大災害が起きたときのこと。“宣告無し”の突然の災害であったことから、人は【ゼロ・センテンス】と名付けて記録に遺された。有名な記録で、あなたもご存知かと。

その現象は他の地域でも起きたほどで、人工惑星の開拓にも支障をきたすほどに……。

災害を諌めた功労者の1人である【レイン・B・レッド】は、開拓の途中でその現象に鉢合わせられたそうで。過酷な環境により徐々に仲間を失いつつ、後退しながら防戦一方の状況が続き、2ヶ月ほど費やされたよう。

このまま窮地にやられるかと思ったときに、レイン率いる兵団は砂漠の大塚を活かした籠城策を図られた。ここをアジトとして、次々と敵機を撃破したのち、機械達の撃退に成功したとのこと。

一行は直ちに混沌の砂漠から海に出られた。高速船を用いて、わずか3週間で世界の中心【STP】に赴いたと記載されたそうだ……。


_____


……此処こそが正にその舞台であり、【不朽の大塚】と呼ばれる【シータス家】の古き拠点。今では【キエラ】が建てられたことで、賊も皆そっちに移住したようだ。

住処としては安全な訳がない。壁は脆く、中に爆弾でも仕込まれたら一発だ。それを守り抜いたのだから、いかに【シータス家】の個の強さが異常なのかが分かる。

そこに駐機するとは、中々胆力のある男のようだ。』


ユーリは皮肉めかして褒めた。サドは察して、申し訳なく汲み取る。


「【大空洞】はシェルターの人達に占拠され、機械霊の討伐直後であることも考慮して選びました。万全を期して、警備ロボを配備しましたが……ここ以上に駐機の場所が見当たりませんでした。」

『承知した。一時的な待機ならば十分だ。』


 ユーリからの了承を得た、次の瞬間であった。


「!」


 大塚から銃声が聞こえてきた。ユーリが先導して指示する。


『私が指揮しよう。目標は“巨大機体付近の敵兵撃退”とし、私から離れないよう心得よ。』

「了解。」


 大塚の周囲を沿うように機体を走らせる。影になる場所で、【タイタン号】が見えてくる。

…途端に、銃弾が目の前をよぎった。


『こっちだ!射程外へ逃げる!』


 賊がこちらに向けて発砲してきた。移動用機体を弧を描くように動かし、射程外に停めた。機体を盾にして準備を済ませる。

 賊らしき男達は、別勢力のアンドロイドが近づいてくると即座に移動する。交戦中の所を邪魔したようだ。

 光線銃のバッテリーを確認し、サドはユーリの合図を待つ。機械の体に【マシンガン】を持たせて、少女の方には【9ミリセミオート拳銃】を持たせた。


『……地図を更新した。敵は賊の人間と、【エンダー家】のアンドロイド兵だ。予感は的中したが、まだ想定内。残った勢力を急襲して大塚内部に進入する。

アンドロイド兵の弱点は実弾だ。光線銃の代わりにこれを使え。』


 ユーリはサドに武器を投げ渡した。

 機械少女と同じ【9ミリセミオート拳銃】と、弾倉を2つ受け取った。反動が大きいものの、物理的に大きな外傷を与えられる。センサ技術で敵の弱点を一瞬で見抜いた。

 拳銃に9発、弾倉は15発と4発、合計28発撃てる。サドは確認して、ユーリのアンドロイドの方に顔を向ける。


『何かあったら報告してほしい。だから離れないよう留意せよ。

待て。まだだ……。』


 ユーリの合図を待つ。サドは息を整えていた。


(……私が補助します。場合によってはP-botピーボットとして戦うかもしれません。)


 マークⅢが話しかけてきた。今まで黙っていた分、彼の助けになろうと待ちわびていた。しかしサドは冷静になり、素直に受け入れられなかった。


(正体を知られたら、レジスタンスの人達から恐れられるかも知れない。P-botは数年前に多くの仲間を消した。

もし僕がP-botだと知られたら、レオも、ライラさんも危険に晒す可能性が出てくる。【タイタン号】のリーダーの話にも影響が出るはずさ。なるべく人の姿でやるんだ。自分の力を示すんだ。

……ユーリさんに認められて、【タイタン号】の一員として乗り込むんだ!)


 ユーリの合図が出た。サドは反射的に機体を置いて、大塚に向かって走り始めた。後からユーリが追い越し、先導して立ち向かう。


_____


 【Kerキエラキャンプ】にて、網状のフェンスに囲まれた場所に入る。土嚢が積まれており、その後ろに的がいくつか用意されている。

 レオはペーパーテストを終えて、次の実技試験の為に此処にいる。ゾーイが長い銃を担いで、場内に入ってきた。


「じゃあ、中央の白線付近で好きな的を選んで倒してちょうだい!そこがあなたのスタート地点になるわ。決め次第ルール説明に入るから、倒したら始めるまで待ってて!」

「分かった。」


 レオは即座に応じる。ペーパーテストに自信があり、余裕ができた彼女はリラックスしながら的を1つ倒す。

 ゾーイは表情を堅くして、説明を始めた。


「これより、【戦闘員】資格検定実技試験を行います。開始まではその場から移動しないよう、お願い申し上げます。

試験に必要な持ち物はありません。

実技試験では、受験者の“反応速度・即応力・救助能力・戦場適正”をもとに評価いたします。不正行為等をした場合は、検定受験資格の永久失効および、罰金2万Uドルを請求いたします。

ルールの説明を始めます。受験者は今倒された的を除いた10個の的を押し倒すことで検定は終了となります。その間に、試験官の私が所持するライフル型のピンク色ペイント弾で的を射抜きます。装填数は1発のみです。

10個中、2つの的に射抜かれた時点で失格となります。また被弾した時に、直撃の判定とみなされた場合も同様に失格となります。直撃判定は“青い印”の有無で判断します。

得点の基準は“倒した的の個数”によってのみ行われます。服にピンク色の塗料が付いても点数に影響しません。

それでは5分休憩ののち、試験を開始したいと思います。リラックスしてください。」


 レオは体を慣らした。軽く体操を行い、固まった節々をほぐして俊敏に動けるようにする。試練を前にして、自分自身を落ち着かせた。


(……【タイタン号】のリーダーになるために、側近達にアピールして周囲から認めさせる。ここで合格することは必須だし、まだ序の口だ。

ペーパーテストの調子は上々だ。余裕を持て、自分。まずはこの試験を乗り越えるんだ。

その為にまず……)

「構え。」


 ゾーイが銃を構えて隣の的に照準を向ける。レオもすぐ横に動けるよう、低く構えて準備を行った。


(……ゾーイに認めさせて、【タイタン号】のパイロットになるんだ!)

「はじめ!」


 レオは瞬発力を活かして横に飛び、的を押し倒した。



 姉弟は【タイタン号】のパイロットとなるために、それぞれの実力を仲間に喧伝する。自身の行動をもって彼らに示すつもりだ。


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