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Chapter_3:機械工の性

Note_78

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 【タイタン号】内、閑静な空間が廊下を支配する。サドは自室にて【Kerキエラキャンプ】の仲間と連絡を取ろうとする。


「こちらC-901【タイタン号】、記録部は応答せよ。オーバー。」


 返事が来ない。本来、姉弟の力が無ければ【タイタン号】は政府の手に落ちていた。それを予期してレジスタンスに伝えたのだろう。この機体は彼らからすれば、今や政府の物だ。

 故に、連絡が返ってくるはずもない。それでもサドは連絡を試みた。かつてパイロットであったコーヴァスの記録を見て、隈無く通信を行う。


「こちらC-901【Titan】、司令部は応答せよ。オーバー。」


 滅気ずに通信を行う。その努力が実る。


『こちらC-191【Ker】、本ネットワークを介した通信を確認する。しばし待たれよ、オーバー。』


 ようやく繋がった。サドは仲間が無事であることについて素直に喜ぶ。相手の男は確認を終え、彼に話しかける。


『失礼。C-901【Titan】、セキュアなネットワークに接続していることを確認した。

至急の事態により、要件のみ言ってくれ。オーバー。』


 怪しげだが、サドは要件だけ伝える。


「C-191【Ker】、街に到着次第そちらのキャンプ地に向かいたい。今日の街の情勢について教えてほしい。オーバー。」

『C-901【Titan】、警護ロボが配備されており危険。巨大機体を秘密裏に回収するため、【大空洞】を除く場所に隠しておけ。』

『ユーちゃん!一気にやったほうが良いと思うよ!そのタイタンって機体が、唐突にやってきたら敵はみんなビックリすると思う!』


 唐突に女が割り込んできた。仲間っぽいが少々抜けているところがある。


『今、通信中。出ちゃ、ダメ。』

『あ、ごめんごめん。』

『それに表に出て、不意を何度つけると思うんだ?』

『巨大機体が出たら、誰だってそっちに向かうでしょ?私達で挟み撃ちにすれば余裕でしょ?』

『増援が来たら』

『来たら……倒すだけ。』

『お前は構わねえだろうけど、俺らは無理だ。お前をまた見捨てるために助けたわけじゃねえんだぞ。』

『負けないよ。私がいるもの。貴方には後方で逃げるための機体を用意してほしい。』


 自信ある女の言葉を無視して、男は話を続けた。


『C-901【Titan】、聞こえるか?遅れてしまって申し訳ない。

【キエラ】に防壁は無い。安直に巨大機体をひけらかすのは良くない。』

『ちょっと……』
『したがって、街から離れた場所にて駐機し、移動用機体で街に来てほしい。落ち着いてから回収に向かう。搭乗者全員で向かうよう留意せよ。

そちらの搭乗者の人数を教えてほしい。ただし人造人間アンドロイドは除いて数えよ。オーバー。』

「C-191【Ker】、搭乗者は男性1名、女性3名。オーバー。」


 サドは戸惑うことなく続けた。相手の応答を待つ。


『了解。C-901【Titan】、移動用機体を2機だけ使い、それぞれ2人ずつ乗って街に来てくれ。

……“戦火を越えてまた会えるよう祈る。”アウト。』


 通信が切れた。サドは表情を変えずにコンピュータの電源を切り、2つのバッグを担いで自室を出る。自室に鍵をかけて司令室へと向かう。



…扉を開けると、既に3人が待ち構えていた。黒猫のエボニーはサドのバッグの中にいる。

 しかし、レオとライラの荷物が見当たらない。サドは理由を聞き出す。


「準備はできてる?荷物は大丈夫?」

「あそこ。」


 レオが指を指した先に、両腕が塞がっているウルサの姿が見えた。何か幸せそうに意気揚々とバッグを下げている。


「えぇ……。」

「こいつをどうにかしないと、いつ暴れるか分からねえからな。“罰ゲーム”のはずが、奴からすれば“ご褒美”らしい……だよな?」

「当前よ。可愛い女の子から与えられるのに、何を躊躇う必要があるの?これは彼女達が賜った“ご褒美”。ありがたく受け止めるわ。」


 笑顔で素直に聞こえることから、彼女の本心と確信する。サドは半ば苦笑した。


「そ、そこまで言われたら……反論も無いけど。」

「これで気を抜くなよ。まだ街にも行ってねえから。仲間に手を出したこと、まだ反省してないようだな。

……持ち物に何かすんなよ。」


 鋭い眼光で威圧をかける。ウルサは頷き、口を開けずに息を呑む。険悪な雰囲気をライラは察した。


「そ、それはそれとして、サド君。連絡は取れたの?」


 サドは深刻な表情で報告する。


「……司令部から受け取った通信です。敵が動いており、交戦中かと思われます。既に多数の部署を侵入され、避難しているそうです。到着後の戦闘は避けられないでしょう。

移動用機体を2機、用意します。それぞれ2人ずつ乗れとの指令です。」

「サドとウルサで。」

「ええっ!?」

「当然だね。」


 即答した。レオはライラと乗ることになる。男と一緒に乗ることになったウルサは不満を垂れる。


「何で?優しくしたじゃない。普通は2人で仲良く談話する展開のはずなのに……。」

「“スキンシップ”と言って好き勝手されないよう、一定の距離を取るのは普通じゃねえのか?」


 ぐうの音も出ない。これ以上の異論は出なかった。ライラも頷き、2人は立ち上がる。


「よっし、それじゃあ行くか。」

「到着時はいつでも戦えるように、ウルサ含めて武器を使えるようにしてください。」

「……嫌だ。」


 ウルサはサドの意見に全否定するつもりだ。彼も負けじと反論する。


「2人を見捨てるんだね……。」

「!?」


 辛辣な眼差しと共に、サドはウルサを侮蔑の目で見つめていた。先程まで寄せていた期待を返してほしいと目で訴えてきている。

 彼女自身も、“女性を見捨てる行為”を許すわけにはいかなかった。


「そんな事……できるわけないでしょ!」

「決まりだね。」

(分かりやすい奴。)


 レオは呆れて、1人で先に向かった。


「あ、ちょっと!」


 後を追うように3人も付いていく。


_____


 海辺が見える碁盤目状の町並み。その正体は70mメートル級の高層ビル群。道幅も桁外れの広さでありながら、その車線は見当たらない。まるで好きに使えとばかりに、ロボットに乗った暴走族が走り回る。

 闘争心に飢えた貴族が創造した街。全ては力によって決まる。機械霊への恐れを知らず、壁を持たぬ都市。白く高い建造物が蛮族達の夢の跡。“国境なき理想郷”に最も近しい都市の1つ、【キエラ】。



 物騒な音が近づくにつれて顕著になる。姉弟は集中して、移動用機体を街へと走らせた。

 しかし、人型ロボット5体が入り口で出迎えていた。全員がこちらに銃を構えている。


『現在、都市部への侵入を禁じております。またのお越しをお待ちしております。』


 姉弟は移動用機体を止めて降りる。命令に逆らい、堂々と前に進む。


『モード3移行。3名を指定。戦闘準備。直ちに退却せよ!』


 サドを除く3人が狙われている。レオは意気込む。


「説得は終わりか?……その程度で止められると思うな!」


 レオは前線に立つ。固められた地面を駆け抜けて、颯爽と道を走る。【デルタシールド】を張り、強引に近接戦へと持ち込む。

 3体が彼女に襲いかかり、もう2体は残った3人に撃ち込む。サドが前衛に出て【ビームソード】で破壊する。

 もう1体が、ライラとウルサに襲いかかる。


「ええっ!?ちょっと!待って!いやああああ!」


 ひたすらに近づいてくる敵に向けて3発ほど撃ち込んだ。全部外れた。おまけにオーバーヒートして、一時的に撃てなくなった。


「あ、ああ……」


 ライラは満身創痍になっていた…その時であった。


「大丈夫かい、お嬢さん。」


 2つの小型機が、ウルサの武器から飛んでいく。そして武器を発動する。軽快に振り回し、光で敵を穿うがつ。【デュアルサーチャー】も敵を狩らんと唸っている。

 ウルサは自信を持って、この武器を握りしめる。近づく敵の距離を見極め…


「私に手も足も……」
「遅い!」

(!!?!?)


 その敵はサドによって後ろから斬られ、正面からもう一撃刻まれた。折角の初陣をサドに取られた。彼は伝える。


「ライラさん、後方から支援をお願いします。」

「うん!ありがとう!サド君!」


 サドは囲まれているレオの方へと走り出す。ウルサは手を震わせていた。理由は無論…


「……赤っ恥かかせてやるッ……!」


 ウルサは怒りを力に変えて、サドの後を追う。そして3人がそれぞれ相対する。

 ウルサの刺突はロボットの装甲を貫く。何度も突き刺し、小型機から光線を放ちながら戦う。敵を小型機の補助で一手ずつ詰めていき、蜂の巣にしていく。

 一度嵌めたら、もう逃がさない。脅威の連撃がロボットに襲いかかり、一瞬にして機能停止に陥った。


「はあっ!」


 サドは重い一撃を入れて、敵を打ち上げた。その隙に空かさず一閃が敵を射抜く。機転を利かせてもう1つ【光線銃】を使うことで、ライラの支援が上手くいったようだ。

 レオは剣で敵を吹き飛ばす。


「通らせてもらうよ。」


 敵が倒れた所に剣を突き刺して、【デルタシールド】を発動させた。シールドが敵機を切断し、一撃で倒した。

 5体全滅。彼らは先に進まなければならない。移動用機体にすぐに乗り込み、先へと続く。レオは懸念していた。


『レジスタンスキャンプは大丈夫か!?』

『分からない。でも、進むしかない!』


 移動用機体は前方へと走り抜く。謎の1人が彼らを囲むように並走する。

 謎のライダーから通達が入る。


『君達、ユーちゃんと連絡取ってた人?』


 聞き覚えのある声と口調であった。しかしレオにはちっとも分からない。


「あんた誰だ?」
「はい!司令部に連絡を取りました。【タイタン号】のパイロットです。」

『事情は後!私に付いてきて!』


 3機は裏路地の狭い道を使って、先へ進んだ。その最中にライラは街を眺める。広い道に静寂が広がり、人の気配が1つも無かった。


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