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11.誤解が解けても
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私は実家で穏やかに過ごしている。お父様とお母様には感謝の気持ちでいっぱいだ。
私はロニーの愛を望み盲目的なほど固執していた。
彼との別離がこの世の終わりのように感じていたのに、いざ受け入れてしまえば呆気ないものだった。私の世界は終わったりしなかった。
そして今なら全てを客観視できる。もし過去に戻ることが出来るのなら結婚式前日のあの日の自分に言ってやりたい。
「不誠実な男との結婚を取り止めて、不貞に対して慰謝料を請求するべきだ。そして新しい出会いを探して違う幸せを見つけろ」と。
そう思えるほど私は心の安寧を取り戻した。
「お嬢様。お客様がお見えです。あの、旦那様には取りつがないように言われていたのですが……」
侍女が困惑顔で来客を告げる。今日は両親が不在だ。来客予定もなかったが。
「どなたがお見えになったの?」
「パーカー侯爵子息がどうしてもお嬢様に会いたいと、何度お断りしてもお帰りにならなくて……申し訳ありません」
ロニーが引き下がらなくて使用人が困っているようだ。
「いいわ、客間に通して。それと一応、護衛騎士に扉の前に控えるように言ってくれる?」
「はい。お嬢さま」
私は身だしなみを整えると客間に向かった。座っているロニーはひどく憔悴しているように見える。今頃ヘレンと幸せに過ごしていると思っていたのに何かあったのかと不思議に思った。
「パーカー侯爵子息、今日は何のご用件でしょうか?」
ロニーは俯いていた顔を上げ、悲し気に瞳を揺らす。
「どうして、そんな他人行儀な呼び方……。まだ離縁は成立していない。僕たちは夫婦のままだ。今まで通り呼んで欲しい」
私は溜息を吐いた。すっかり他人になった気でいたが確かに離縁は成立していない。
「分かったわ。それでロニー、今日は何をしに来たの? 離婚の書類を持って来てくれたのかしら?」
「違う。離婚はしたくない。僕は君に謝りに来たんだ。すまなかった」
私は首を傾げた。どれに対しての謝罪なのか。
「何を謝るの?」
ロニーは机の上に一冊のファイルを置いた。
「これは君が僕に宛てた手紙で間違いないか?」
机の上のファイルを手に取り開くと手紙が丁寧に保管されていた。大切に仕舞われていたと一目でわかる。その中から一通を取り出しサッと目を通す。学園に在学中に彼が怪我をしたときに私が書いたものだ。返信がなかったのでロニーは読まずに捨ててしまったのだと思っていた。
「ええ、私の書いたものよ。それがどうかしたの?」
ロニーは手を握りしめ唇を震わせた。
「僕はこれをヘレンが書いた手紙だと思っていた。ヘレンがそう言って渡してきたから」
私は驚き咄嗟に口に手を当てた。
「っ……」
「あの頃のセリーナはずっと僕を蔑ろにしていると思っていた。連絡もなく学園行事に夢中で、僕の存在はそんなものなのかと失望してしまった。僕の出した手紙にも一度も返事をくれなかった」
「待って。ロニーからの手紙? 一通も受け取っていない。だから私はロニーにずっと無視されていると思っていたのよ」
「ヘレンが……君と同室であることを利用して僕からの手紙をセリーナに渡さずに処分していたそうだ。君が書いた手紙は自分が書いたと言って僕に渡していたんだ」
「そんな……ロニーは私に手紙を送ってくれていたの?」
「ああ。あの頃は怪我をして心が弱くなっていた。だからセリーナに会いたい、せめて連絡が欲しいと何度も手紙を出した。でも一度も返事がなくてヘレンはセリーナが生徒会の仕事を優先して僕を無下にしているというからそれを信じてしまった」
ヘレンはそんなに前から私を裏切っていたのか。
私はロニーの愛を望み盲目的なほど固執していた。
彼との別離がこの世の終わりのように感じていたのに、いざ受け入れてしまえば呆気ないものだった。私の世界は終わったりしなかった。
そして今なら全てを客観視できる。もし過去に戻ることが出来るのなら結婚式前日のあの日の自分に言ってやりたい。
「不誠実な男との結婚を取り止めて、不貞に対して慰謝料を請求するべきだ。そして新しい出会いを探して違う幸せを見つけろ」と。
そう思えるほど私は心の安寧を取り戻した。
「お嬢様。お客様がお見えです。あの、旦那様には取りつがないように言われていたのですが……」
侍女が困惑顔で来客を告げる。今日は両親が不在だ。来客予定もなかったが。
「どなたがお見えになったの?」
「パーカー侯爵子息がどうしてもお嬢様に会いたいと、何度お断りしてもお帰りにならなくて……申し訳ありません」
ロニーが引き下がらなくて使用人が困っているようだ。
「いいわ、客間に通して。それと一応、護衛騎士に扉の前に控えるように言ってくれる?」
「はい。お嬢さま」
私は身だしなみを整えると客間に向かった。座っているロニーはひどく憔悴しているように見える。今頃ヘレンと幸せに過ごしていると思っていたのに何かあったのかと不思議に思った。
「パーカー侯爵子息、今日は何のご用件でしょうか?」
ロニーは俯いていた顔を上げ、悲し気に瞳を揺らす。
「どうして、そんな他人行儀な呼び方……。まだ離縁は成立していない。僕たちは夫婦のままだ。今まで通り呼んで欲しい」
私は溜息を吐いた。すっかり他人になった気でいたが確かに離縁は成立していない。
「分かったわ。それでロニー、今日は何をしに来たの? 離婚の書類を持って来てくれたのかしら?」
「違う。離婚はしたくない。僕は君に謝りに来たんだ。すまなかった」
私は首を傾げた。どれに対しての謝罪なのか。
「何を謝るの?」
ロニーは机の上に一冊のファイルを置いた。
「これは君が僕に宛てた手紙で間違いないか?」
机の上のファイルを手に取り開くと手紙が丁寧に保管されていた。大切に仕舞われていたと一目でわかる。その中から一通を取り出しサッと目を通す。学園に在学中に彼が怪我をしたときに私が書いたものだ。返信がなかったのでロニーは読まずに捨ててしまったのだと思っていた。
「ええ、私の書いたものよ。それがどうかしたの?」
ロニーは手を握りしめ唇を震わせた。
「僕はこれをヘレンが書いた手紙だと思っていた。ヘレンがそう言って渡してきたから」
私は驚き咄嗟に口に手を当てた。
「っ……」
「あの頃のセリーナはずっと僕を蔑ろにしていると思っていた。連絡もなく学園行事に夢中で、僕の存在はそんなものなのかと失望してしまった。僕の出した手紙にも一度も返事をくれなかった」
「待って。ロニーからの手紙? 一通も受け取っていない。だから私はロニーにずっと無視されていると思っていたのよ」
「ヘレンが……君と同室であることを利用して僕からの手紙をセリーナに渡さずに処分していたそうだ。君が書いた手紙は自分が書いたと言って僕に渡していたんだ」
「そんな……ロニーは私に手紙を送ってくれていたの?」
「ああ。あの頃は怪我をして心が弱くなっていた。だからセリーナに会いたい、せめて連絡が欲しいと何度も手紙を出した。でも一度も返事がなくてヘレンはセリーナが生徒会の仕事を優先して僕を無下にしているというからそれを信じてしまった」
ヘレンはそんなに前から私を裏切っていたのか。
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