11 / 26
11.誤解が解けても
しおりを挟む
私は実家で穏やかに過ごしている。お父様とお母様には感謝の気持ちでいっぱいだ。
私はロニーの愛を望み盲目的なほど固執していた。
彼との別離がこの世の終わりのように感じていたのに、いざ受け入れてしまえば呆気ないものだった。私の世界は終わったりしなかった。
そして今なら全てを客観視できる。もし過去に戻ることが出来るのなら結婚式前日のあの日の自分に言ってやりたい。
「不誠実な男との結婚を取り止めて、不貞に対して慰謝料を請求するべきだ。そして新しい出会いを探して違う幸せを見つけろ」と。
そう思えるほど私は心の安寧を取り戻した。
「お嬢様。お客様がお見えです。あの、旦那様には取りつがないように言われていたのですが……」
侍女が困惑顔で来客を告げる。今日は両親が不在だ。来客予定もなかったが。
「どなたがお見えになったの?」
「パーカー侯爵子息がどうしてもお嬢様に会いたいと、何度お断りしてもお帰りにならなくて……申し訳ありません」
ロニーが引き下がらなくて使用人が困っているようだ。
「いいわ、客間に通して。それと一応、護衛騎士に扉の前に控えるように言ってくれる?」
「はい。お嬢さま」
私は身だしなみを整えると客間に向かった。座っているロニーはひどく憔悴しているように見える。今頃ヘレンと幸せに過ごしていると思っていたのに何かあったのかと不思議に思った。
「パーカー侯爵子息、今日は何のご用件でしょうか?」
ロニーは俯いていた顔を上げ、悲し気に瞳を揺らす。
「どうして、そんな他人行儀な呼び方……。まだ離縁は成立していない。僕たちは夫婦のままだ。今まで通り呼んで欲しい」
私は溜息を吐いた。すっかり他人になった気でいたが確かに離縁は成立していない。
「分かったわ。それでロニー、今日は何をしに来たの? 離婚の書類を持って来てくれたのかしら?」
「違う。離婚はしたくない。僕は君に謝りに来たんだ。すまなかった」
私は首を傾げた。どれに対しての謝罪なのか。
「何を謝るの?」
ロニーは机の上に一冊のファイルを置いた。
「これは君が僕に宛てた手紙で間違いないか?」
机の上のファイルを手に取り開くと手紙が丁寧に保管されていた。大切に仕舞われていたと一目でわかる。その中から一通を取り出しサッと目を通す。学園に在学中に彼が怪我をしたときに私が書いたものだ。返信がなかったのでロニーは読まずに捨ててしまったのだと思っていた。
「ええ、私の書いたものよ。それがどうかしたの?」
ロニーは手を握りしめ唇を震わせた。
「僕はこれをヘレンが書いた手紙だと思っていた。ヘレンがそう言って渡してきたから」
私は驚き咄嗟に口に手を当てた。
「っ……」
「あの頃のセリーナはずっと僕を蔑ろにしていると思っていた。連絡もなく学園行事に夢中で、僕の存在はそんなものなのかと失望してしまった。僕の出した手紙にも一度も返事をくれなかった」
「待って。ロニーからの手紙? 一通も受け取っていない。だから私はロニーにずっと無視されていると思っていたのよ」
「ヘレンが……君と同室であることを利用して僕からの手紙をセリーナに渡さずに処分していたそうだ。君が書いた手紙は自分が書いたと言って僕に渡していたんだ」
「そんな……ロニーは私に手紙を送ってくれていたの?」
「ああ。あの頃は怪我をして心が弱くなっていた。だからセリーナに会いたい、せめて連絡が欲しいと何度も手紙を出した。でも一度も返事がなくてヘレンはセリーナが生徒会の仕事を優先して僕を無下にしているというからそれを信じてしまった」
ヘレンはそんなに前から私を裏切っていたのか。
私はロニーの愛を望み盲目的なほど固執していた。
彼との別離がこの世の終わりのように感じていたのに、いざ受け入れてしまえば呆気ないものだった。私の世界は終わったりしなかった。
そして今なら全てを客観視できる。もし過去に戻ることが出来るのなら結婚式前日のあの日の自分に言ってやりたい。
「不誠実な男との結婚を取り止めて、不貞に対して慰謝料を請求するべきだ。そして新しい出会いを探して違う幸せを見つけろ」と。
そう思えるほど私は心の安寧を取り戻した。
「お嬢様。お客様がお見えです。あの、旦那様には取りつがないように言われていたのですが……」
侍女が困惑顔で来客を告げる。今日は両親が不在だ。来客予定もなかったが。
「どなたがお見えになったの?」
「パーカー侯爵子息がどうしてもお嬢様に会いたいと、何度お断りしてもお帰りにならなくて……申し訳ありません」
ロニーが引き下がらなくて使用人が困っているようだ。
「いいわ、客間に通して。それと一応、護衛騎士に扉の前に控えるように言ってくれる?」
「はい。お嬢さま」
私は身だしなみを整えると客間に向かった。座っているロニーはひどく憔悴しているように見える。今頃ヘレンと幸せに過ごしていると思っていたのに何かあったのかと不思議に思った。
「パーカー侯爵子息、今日は何のご用件でしょうか?」
ロニーは俯いていた顔を上げ、悲し気に瞳を揺らす。
「どうして、そんな他人行儀な呼び方……。まだ離縁は成立していない。僕たちは夫婦のままだ。今まで通り呼んで欲しい」
私は溜息を吐いた。すっかり他人になった気でいたが確かに離縁は成立していない。
「分かったわ。それでロニー、今日は何をしに来たの? 離婚の書類を持って来てくれたのかしら?」
「違う。離婚はしたくない。僕は君に謝りに来たんだ。すまなかった」
私は首を傾げた。どれに対しての謝罪なのか。
「何を謝るの?」
ロニーは机の上に一冊のファイルを置いた。
「これは君が僕に宛てた手紙で間違いないか?」
机の上のファイルを手に取り開くと手紙が丁寧に保管されていた。大切に仕舞われていたと一目でわかる。その中から一通を取り出しサッと目を通す。学園に在学中に彼が怪我をしたときに私が書いたものだ。返信がなかったのでロニーは読まずに捨ててしまったのだと思っていた。
「ええ、私の書いたものよ。それがどうかしたの?」
ロニーは手を握りしめ唇を震わせた。
「僕はこれをヘレンが書いた手紙だと思っていた。ヘレンがそう言って渡してきたから」
私は驚き咄嗟に口に手を当てた。
「っ……」
「あの頃のセリーナはずっと僕を蔑ろにしていると思っていた。連絡もなく学園行事に夢中で、僕の存在はそんなものなのかと失望してしまった。僕の出した手紙にも一度も返事をくれなかった」
「待って。ロニーからの手紙? 一通も受け取っていない。だから私はロニーにずっと無視されていると思っていたのよ」
「ヘレンが……君と同室であることを利用して僕からの手紙をセリーナに渡さずに処分していたそうだ。君が書いた手紙は自分が書いたと言って僕に渡していたんだ」
「そんな……ロニーは私に手紙を送ってくれていたの?」
「ああ。あの頃は怪我をして心が弱くなっていた。だからセリーナに会いたい、せめて連絡が欲しいと何度も手紙を出した。でも一度も返事がなくてヘレンはセリーナが生徒会の仕事を優先して僕を無下にしているというからそれを信じてしまった」
ヘレンはそんなに前から私を裏切っていたのか。
42
お気に入りに追加
2,909
あなたにおすすめの小説
妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。
ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」
夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。
──数年後。
ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。
「あなたの息の根は、わたしが止めます」
わたしの旦那様は幼なじみと結婚したいそうです。
和泉 凪紗
恋愛
伯爵夫人のリディアは伯爵家に嫁いできて一年半、子供に恵まれず悩んでいた。ある日、リディアは夫のエリオットに子作りの中断を告げられる。離婚を切り出されたのかとショックを受けるリディアだったが、エリオットは三ヶ月中断するだけで離婚するつもりではないと言う。エリオットの仕事の都合上と悩んでいるリディアの体を休め、英気を養うためらしい。
三ヶ月後、リディアはエリオットとエリオットの幼なじみ夫婦であるヴィレム、エレインと別荘に訪れる。
久しぶりに夫とゆっくり過ごせると楽しみにしていたリディアはエリオットとエリオットの幼なじみ、エレインとの関係を知ってしまう。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前
地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。
あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。
私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。
アリシア・ブルームの復讐が始まる。
決めたのはあなたでしょう?
みおな
恋愛
ずっと好きだった人がいた。
だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。
どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。
なのに、今さら好きなのは私だと?
捨てたのはあなたでしょう。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる