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1.夫の失態
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ある吉日。
多くの賓客を招き侯爵家の権勢を誇るような豪華な披露宴が行われた。
両親から溺愛されたハリス侯爵家の一人娘が、一目惚れをした伯爵子息を婿に迎えた盛大なものだった。
新婦は18歳だが無邪気な雰囲気を持ち年齢より幼く感じる。そして大きな目が可愛らしい女性だ。豪華なドレスがよく似合っている。
その隣には社交界では容姿端麗な顔で有名なシモンズ伯爵子息である新郎が、招待客の独身男性から家格が上になるハリス侯爵家の婿入りへの嫉妬や当てこすりに対して何の感情も浮かべることなく座していた。
そして披露宴が終わり夜になる。
アビゲイルは期待にその瞳を潤ませて本日夫となったダニエルと豪華な寝台の上にいた。
しばらく見つめ合ったあとダニエルは先程妻となったアビゲイルの頬に手を伸ばしその名を呼んだ…………はずだった。
「ミラ、緊張しているのかい?」
暫くの沈黙が続く。男は自分の失態に気付いていない。
「……はっ? ミラって誰? 私の名前はアビゲイルよ! 愛称にしたって無理があるわ!」
女は怒り心頭である。
「あ……スマナイ……マチガエマシタ……」
男は気まずげに目を逸らし小さな声で謝罪したがアビゲイルはもちろん許さない。
それはそうだろう。大事な初夜に自分ではない女の名を呼んだのだ。手元にあった枕を男に向かって投げつけた。
「ダニエル! 部屋から出て行って。同じ部屋にいるなんて我慢できない。離縁するわ。お父様に言いつけるから覚悟しておきなさい!」
そう言ってダニエルを寝室から締め出した。
ダニエルは弁明もせず枕を抱え寝室を出ると誰もいない応接室へ行き、ソファーで横になりそのまま何事もなかったように眠った。
明け方ざわめきで目を覚ますとアビゲイルがなにか騒いでいるようだ。
時計を見れば朝食までには時間があるのでダニエルは再び眠ることにした。
ぐっすりと眠ったダニエルは侍女に起こされ食堂で食事をとるよう促される。
侯爵家の朝食は豪華で美味しかった。初夜を迎えた記念の朝の為にアビゲイルが用意させたものらしい。
食後、侯爵に話があるとの事で執務室に呼び出された。
重苦しい空気の中、侯爵は眉間に皺を寄せたまま問いかけた。
机の上には手紙が広げられている。アビゲイルの置き手紙のようだ。
「ダニエル、アビーが家出をした。手紙には君が不貞をしたので離縁すると言っているが事実なのか?」
「いえ、不貞など一切していません。それは侯爵様がよくご存じのはずです。ただ……昨夜彼女ではない名前が何故か口から勝手に出てしまい、それで大層怒らせてしまいました。私の失態です。申し訳ございません」
ダニエルは申し訳なさそうな顔で説明すると謝罪のために頭を下げた。侯爵は溜息をつき再び問いかけた。
「その口にした名前を聞いても?」
「ミラですが……」
「……君はアビーとの離縁を望んでいるのか?」
「たかが伯爵家のものが侯爵様に何を望みましょうか。離縁するもしないもアビゲイル様と侯爵様の判断に従います」
再度ダニエルは頭を下げた。
その様子を見て侯爵は一度目を閉じて沈黙すると決断したように目を開けた。
そこには何かに対する僅かな後悔の色が見えた。
「確かに君の失態だ。だが本来なら話し合いが必要にも関わらず離縁を望む手紙だけ置いてアビゲイルは領地に行ってしまった。まあ、それだけ許せないと言うことだろう。君にこの失態の責任を取ってもらう。アビーが離縁を望んでいるなら私はそれを叶えるつもりだ。
まさか盛大な結婚式の翌日に離縁を言い出すとは思いもよらなかったが仕方がない。歩み寄らないアビーにも問題があるので、今回は双方に責任ありと言うことで慰謝料なしの円満な離縁とする。君の言い分を聞かない代わりに君の実家の伯爵家に今後責任を負わせたり圧力をかけることはないと約束しよう。速やかに手続きを始めるが何か反論や質問はあるか?」
「では、お願いが二つ。一つ目は私の実家であるシモンズ伯爵家とそして私の元婚約者のリード子爵家に今後絶対に手を出さないと一筆いただけますか? もう一つはアビゲイル嬢が私たちに二度と接触しないことを望みます」
ダニエルは真剣な表情を変えず大胆な要求をしてきたが侯爵はその理由に心当たりがあるので了承した。
ダニエルの失言はまさかの結果をもたらした。結婚式の翌日に離縁が決まったのである。
それは誰にとっての幸福で誰にとっての不幸であるのか……。
そしてダニエルと侯爵家との縁は完全に切れたのである。
多くの賓客を招き侯爵家の権勢を誇るような豪華な披露宴が行われた。
両親から溺愛されたハリス侯爵家の一人娘が、一目惚れをした伯爵子息を婿に迎えた盛大なものだった。
新婦は18歳だが無邪気な雰囲気を持ち年齢より幼く感じる。そして大きな目が可愛らしい女性だ。豪華なドレスがよく似合っている。
その隣には社交界では容姿端麗な顔で有名なシモンズ伯爵子息である新郎が、招待客の独身男性から家格が上になるハリス侯爵家の婿入りへの嫉妬や当てこすりに対して何の感情も浮かべることなく座していた。
そして披露宴が終わり夜になる。
アビゲイルは期待にその瞳を潤ませて本日夫となったダニエルと豪華な寝台の上にいた。
しばらく見つめ合ったあとダニエルは先程妻となったアビゲイルの頬に手を伸ばしその名を呼んだ…………はずだった。
「ミラ、緊張しているのかい?」
暫くの沈黙が続く。男は自分の失態に気付いていない。
「……はっ? ミラって誰? 私の名前はアビゲイルよ! 愛称にしたって無理があるわ!」
女は怒り心頭である。
「あ……スマナイ……マチガエマシタ……」
男は気まずげに目を逸らし小さな声で謝罪したがアビゲイルはもちろん許さない。
それはそうだろう。大事な初夜に自分ではない女の名を呼んだのだ。手元にあった枕を男に向かって投げつけた。
「ダニエル! 部屋から出て行って。同じ部屋にいるなんて我慢できない。離縁するわ。お父様に言いつけるから覚悟しておきなさい!」
そう言ってダニエルを寝室から締め出した。
ダニエルは弁明もせず枕を抱え寝室を出ると誰もいない応接室へ行き、ソファーで横になりそのまま何事もなかったように眠った。
明け方ざわめきで目を覚ますとアビゲイルがなにか騒いでいるようだ。
時計を見れば朝食までには時間があるのでダニエルは再び眠ることにした。
ぐっすりと眠ったダニエルは侍女に起こされ食堂で食事をとるよう促される。
侯爵家の朝食は豪華で美味しかった。初夜を迎えた記念の朝の為にアビゲイルが用意させたものらしい。
食後、侯爵に話があるとの事で執務室に呼び出された。
重苦しい空気の中、侯爵は眉間に皺を寄せたまま問いかけた。
机の上には手紙が広げられている。アビゲイルの置き手紙のようだ。
「ダニエル、アビーが家出をした。手紙には君が不貞をしたので離縁すると言っているが事実なのか?」
「いえ、不貞など一切していません。それは侯爵様がよくご存じのはずです。ただ……昨夜彼女ではない名前が何故か口から勝手に出てしまい、それで大層怒らせてしまいました。私の失態です。申し訳ございません」
ダニエルは申し訳なさそうな顔で説明すると謝罪のために頭を下げた。侯爵は溜息をつき再び問いかけた。
「その口にした名前を聞いても?」
「ミラですが……」
「……君はアビーとの離縁を望んでいるのか?」
「たかが伯爵家のものが侯爵様に何を望みましょうか。離縁するもしないもアビゲイル様と侯爵様の判断に従います」
再度ダニエルは頭を下げた。
その様子を見て侯爵は一度目を閉じて沈黙すると決断したように目を開けた。
そこには何かに対する僅かな後悔の色が見えた。
「確かに君の失態だ。だが本来なら話し合いが必要にも関わらず離縁を望む手紙だけ置いてアビゲイルは領地に行ってしまった。まあ、それだけ許せないと言うことだろう。君にこの失態の責任を取ってもらう。アビーが離縁を望んでいるなら私はそれを叶えるつもりだ。
まさか盛大な結婚式の翌日に離縁を言い出すとは思いもよらなかったが仕方がない。歩み寄らないアビーにも問題があるので、今回は双方に責任ありと言うことで慰謝料なしの円満な離縁とする。君の言い分を聞かない代わりに君の実家の伯爵家に今後責任を負わせたり圧力をかけることはないと約束しよう。速やかに手続きを始めるが何か反論や質問はあるか?」
「では、お願いが二つ。一つ目は私の実家であるシモンズ伯爵家とそして私の元婚約者のリード子爵家に今後絶対に手を出さないと一筆いただけますか? もう一つはアビゲイル嬢が私たちに二度と接触しないことを望みます」
ダニエルは真剣な表情を変えず大胆な要求をしてきたが侯爵はその理由に心当たりがあるので了承した。
ダニエルの失言はまさかの結果をもたらした。結婚式の翌日に離縁が決まったのである。
それは誰にとっての幸福で誰にとっての不幸であるのか……。
そしてダニエルと侯爵家との縁は完全に切れたのである。
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