上 下
31 / 33

31.ウエディングドレス

しおりを挟む
 お義父さまとお義母さまは領地の災害復興を急ピッチで進め終わらせてきた。もちろん領民のためではあるがジリアンに一日も早く会いたかったからだと言ってくれた。

「結婚式は一カ月後でいいわね。帰ってくる途中で教会に予約を入れて来たわよ」

 お義父様は「すまんなあ」とちっともすまなさそうではない顔で私たちに笑っている。

「母上。いくらなんでも早すぎます。ジルのドレスをこれから作成するのですよ。満足できるものを用意したいのに」

 お義母さまはフレデリックの不満を聞き流し、ジリアンの方を向くと真剣な表情で口を開いた。

「ねえ、ジリアン。あなたが嫌でなければ私の着たウエディングドレスを直して着てみない? そのドレスは私の母も祖母も着た物で思い入れがあるのよ。シンプルな形だから流行にとらわれないでいいと思うの。本当はシャルロッテに着てもらいたかったのだけど、ジョシュアは自分が選んだドレスを着てもらうって譲ってくれなくて。もちろん見て気に入らなければ断ってくれて構わないわ。とても素晴らしい生地を使っていてきちんと保管していたから綺麗な状態を維持しているわ。だから見るだけ見て欲しいの」
 
「母上。ジリアンには新しいものを用意してやりたい」

「フレッド。私、お義母さまのドレスを見てみたいわ」

「ジル。気を遣わなくてもいいんだ。一生に一度のドレスなんだから――」

「でも、代々娘に引き継がれるドレスって素敵だわ。私にも娘が出来たら同じようにしてあげたい」

 フレデリックが手配してくれたドレスのデザイン画も素敵だったが、これだと思えるものはまだない。それならばお義母さまのドレスが見たかった。さっそくお義母さまが侍女にドレスを出すように指示をする。一緒に部屋に向かえばトルソーに着せた純白のドレスがキラキラと輝いている。
 デザインは至ってシンプルなAラインでスカートの部分は装飾はなく光沢のある生地が大きく広がっている。上半身もシンプルな形で上品でクラシカルな印象だ。ジリアンは一目で惹かれた。

「私、このドレスを着たいです」

「ジル。これもいいとは思うけどシンプル過ぎないかな? 無理をしなくてもいいんだよ?」

「私の時はベールを華やかにしたのよ。それにシンプルな方がジリアンの美しさが引き立つわよ」

 お義母さまはフレデリックの言葉を無視して話を進める。フレデリックは肩を竦め口を閉じた。どうやら諦めたらしい。

「試着してもいいですか?」

 もうジリアンの心は決まっていた。フレデリックの気持ちは有難いが、どうしてもこれを着たくなってしまった。最近のドレスはごてごてと飾り付けているのが主流だ。それはウエディングドレスでも同じで、いくつかもらったデザイン画も飾りが多かった。

 ジリアンはずっとメイドとして過ごしてきたので華やかなドレスに慣れていない。装飾が多いとドレスに着られている感が強く、シンプルな方がしっくりくると感じた。試着してフレデリックの前でくるりと回って見せる。彼は唸りながら「似合っている……」と言ってくれた。お義母さまはうんうんと頷き誇らしそうな顔をしている。

「ほら、シンプルな方がジリアンの魅力が引き立つでしょう? 丈は少し詰めた方がいいわね。その代わりマリアベールのロング丈にしましょう。ああ、楽しいわ」

「母上! ジルの意見を優先して下さい」

「分かっているわよ」

 ジリアンは姿見でじっと眺める。自分でも似合っていると思う。これ以外にはもう考えられない。フレデリックはジリアンの表情で納得したようで両手で降参のポーズを取った。ジリアンの好きにさせてくれるようだ。

「ありがとう。フレッド」

「私としては伯爵家の財力を惜しみなく使って満足のいくドレスを作りたかったが、ジリアンの気持ちを優先したいからね」

「でも今お断りしてしまうのはドレス工房の人たちに申し訳ないかしら」

「そんなこと気にしなくても夜会用のドレスを注文するから問題ないだろう。お色直し用に追加してもいい」

「お色直しはしなくていいと思います。出来ればあのドレスを着ていたいのです。それより夜会用のドレスは先日も注文したばかりですよ?」

「これからは社交の場にも出ることが多くなるだろう。だからある程度の数は必要だ」

 そう言われてしまえば要らないとは言えない。この国でのディアス伯爵家の立ち位置はまだ理解できていない。お義母さまに教えを請わなくてはと力が入る。
 フレデリックの隣に並んで恥ずかしくない人間になりたい。誰が見ても相応しい妻になって見せる。彼は素敵な人だからきっと女性からモテるだろう。商会にいるときだって男爵令嬢を筆頭に女性たちから声をかけられていた。でも彼の妻はジリアンだ。それなら堂々と戦える権利がある。

「ジリアン。明日は出かけよう。最近は勉強ばかりだったから息抜きも必要だ」

「わあ! 楽しみです」

 何を着ていこうかと頭の中で数着のワンピースを思い浮かべる。フレデリックに想いを寄せる女性に声を掛けられても、怯んだりしないようにしっかりと武装をしなくては。ジリアンは気合を入れた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

運命は、手に入れられなかったけれど

夕立悠理
恋愛
竜王の運命。……それは、アドルリア王国の王である竜王の唯一の妃を指す。 けれど、ラファリアは、運命に選ばれなかった。選ばれたのはラファリアの友人のマーガレットだった。 愛し合う竜王レガレスとマーガレットをこれ以上見ていられなくなったラファリアは、城を出ることにする。 すると、なぜか、王国に繁栄をもたらす聖花の一部が枯れてしまい、竜王レガレスにも不調が出始めーー。 一方、城をでて開放感でいっぱいのラファリアは、初めて酒場でお酒を飲み、そこで謎の青年と出会う。 運命を間違えてしまった竜王レガレスと、腕のいい花奏師のラファリアと、謎の青年(魔王)との、運命をめぐる恋の話。 ※カクヨム様でも連載しています。 そちらが一番早いです。

彼の幸せを願っていたら、いつの間にか私も幸せになりました

Karamimi
恋愛
真新しい制服に身を包んみ、入学式を目前に控えた13歳の少女、ローズは胸弾ませていた。なぜなら、5年前に助けてくれた初恋の相手、アデルに会えるからだ。 でも、5年ぶりに会ったアデルの瞳は、絶望に満ちていた。アデルの悲しそうな瞳を見たローズは、ひどく心を痛める。そんな中、絶世の美女でアデルの兄の婚約者でもあるティーナを助けた事で、彼女と仲良くなったローズ。 ティーナやアデル、アデルの兄グラスと過ごすうちに、ローズはアデルがティーナの事を好きなのだと気が付いてしまう。アデルが少しでも笑顔でいてくれるならと、自分の気持ちを封印し、ある計画をローズはアデルに持ちかけるのだった。 そんなローズに、アデルは… ご都合主義なラブストーリーです。 アデルがかなりヘタレ&ローズが超鈍感。ジレジレで展開がゆっくりです。 気長に読んで頂けると嬉しいです。 どうぞよろしくお願いいたしますm(__)m

【完結】王子様に婚約破棄された令嬢は引きこもりましたが・・・お城の使用人達に可愛がられて楽しく暮らしています!

五月ふう
恋愛
「どういうことですか・・・?私は、ウルブス様の婚約者としてここに来たはずで・・・。その女性は・・・?」 城に来た初日、婚約者ウルブス王子の部屋には彼の愛人がいた。 デンバー国有数の名家の一人娘シエリ・ウォルターンは呆然と王子ウルブスを見つめる。幸せな未来を夢見ていた彼女は、動揺を隠せなかった。 なぜ婚約者を愛人と一緒に部屋で待っているの? 「よく来てくれたね。シエリ。  "婚約者"として君を歓迎するよ。」 爽やかな笑顔を浮かべて、ウルブスが言う。 「えっと、その方は・・・?」 「彼女はマリィ。僕の愛する人だよ。」 ちょっと待ってくださいな。 私、今から貴方と結婚するはずでは? 「あ、あの・・・?それではこの婚約は・・・?」 「ああ、安心してくれ。婚約破棄してくれ、なんて言うつもりはないよ。」 大人しいシエリならば、自分の浮気に文句はつけないだろう。 ウルブスがシエリを婚約者に選んだのはそれだけの理由だった。 これからどうしたらいいのかと途方にくれるシエリだったがーー。

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m

処理中です...