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15.女神様に見守られて幸せになりました
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ブルメスター侯爵邸で過ごす日々の中、アル様は勉強で忙しいにもかかわらず私の話し相手になってくれた。バート様と一緒に三人で過ごした。成績優秀で医学校の卒業は決まっているそうだ。さすがアル様!
アル様はシュトール王国では女性として過ごしている。帰国しても同じように暮らすのは難しいだろう。アル様はこれからもシュトール王国で暮らしていきたいそうだ。ご両親もそれに理解を示しているそうで、その方向で話し合う予定だそうだ。それを聞いて私はホッとした。アル様が家族と疎遠になっては悲しい。
「マリエルは、ショックじゃなかったのか? 仮とはいえ婚約をしていたんだろう」
バート様が心配気に私の顔を覗き込む。
「? いいえ。まったく。アル様は以前よりも美しくなっていて目が眩んでしまいました。昔は天使様のようでしたが今は女神様です! 私はアル様が幸せならそれが一番です。それに以前アル様から婚約白紙の手紙が届いた時にいろいろな覚悟はしていましたから大丈夫です。それよりも婚約を引き延ばしたせいでアル様の心に負担をかけてしまってごめんなさい」
「マリエル……。私の方が隠し事をしていたのだから悪いのは私で――」
「もう、謝りあうのはやめたんじゃないのか?」
バート様がまた始まったのかとあきれ顔で止めに入る。私はアル様と顔を見合わせ頷き合った。
「そうね」
「そうでした」
「それでマリエルは新しい婚約者を探すの?」
「はい。私は跡継ぎですから婿に来てくれる方を探さなくてはいけないので……」
バート様への気持ちを抱えたままお見合いなどできるだろうか。いいや、無理だ。それならば帰国する前に玉砕して心機一転を目指そう。
「探さなくてもここにいる。マリエルは私では嫌か? 私はマリエルが好きだ」
「へっ?」
アル様が驚いてティーカップを落としそうになっている。私は幸い手に持っていなかったので大丈夫だったが驚きは同じだ。バート様の言葉の真意を伺うように彼の瞳をじっと見る。
「私はマリエルと過ごしてあなたを好きになった。実はアルとの婚約が無くなるのを知っていたので、国に戻る前にベルツ伯爵夫妻にマリエルの婚約者候補にして欲しいと頼んできた。マリエルがいいと言ってくれればマリエルをツェーザル王国に送りがてらそのままベルツ伯爵邸で居候させてもらうことになっている。もちろん無理強いはしない。嫌ならそう言ってくれて構わない。……どうだろうか?」
バート様は断っても構わないと言ったが断る余地はなさそうだ。いつのまにか私の両親を説得していた。この話を聞く限り婚約者候補ではなくすでに婚約者同然な気がした。でも嬉しい。大歓迎だ。玉砕せずにすみ安心した。
「ぜひ、お願いします!」
私は膝につくほど頭を深く下げた。
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
勢い任せに返事をしたが重大なことを思い出した。
「あっ。でも本当にいいんですか? バート様のご家族は反対されるかもしれません。私と結婚する事になればツェーザル王国を離れることになってしまいます」
バート様の家族や友人と簡単に会えなくなってしまう。
「どこの国にいても家族であることには変わらない。それにもう家族に話して許しは得てある。大丈夫だ」
私を選んで下さったことに感激で瞳が潤んでしまう。ニヤリと笑うバート様がいつも以上にカッコイイ。
「おめでとう二人とも。私も嬉しいわ。バートもマリエルも幸せになってね」
アル様は穏やかに微笑んだ。女神様からの祝福を受けた私の人生には幸せが待っている。
******
帰国して三か月後にはバート様と正式に婚約を結んだ。更に半年後にはベルツ伯爵領で結婚式を挙げた。バート様のご両親は病院を長く空けることが出来ないので、結婚式にはお姉様のヒルダさんが代表で来てくださった。ブルメスター侯爵家には新婚旅行の時に寄ることになっている。
バート様がベルツ伯爵家に婿入りして下さるのは嬉しかったが、騎士を辞めてしまっていいのかと申し訳なくなった。
「別に騎士にこだわっている訳じゃないんだ。両親や兄姉は人を救う仕事をしている。私は医者には向いていないと感じていた。でも人の役には立ちたいとは思っていた。それで私は人を守る騎士を選んだ。でも騎士を辞めても何かを守ることは出来る。ベルツ領主となるマリエルを支えるのもマリエルと領民を守ることになる。仕事の種類は重要じゃないだろう。自分の成すべきことをするだけだ。マリエルが隣にいてくれることが私の望みだから後悔はないよ」
「ありがとうございます。バート様。大好きです!」
私の婚約者は強く逞しく、そして優しくて最高に素敵な人だ。
私たちは若葉溢れるよく晴れた日に結婚式を挙げた。
アル様も参列して下さった。女神様が涙を浮かべる姿に参列者の視線が釘付けになる。
「花嫁さん、可哀想そうね。あんなすごい美人がいたら今日の主役の座を奪われちゃうわよね。ウエディングドレスが霞んでるわよ」
意地悪な言葉が聞こえてきたが、そんなことは心底どうでもいい。
今日の私は幸せ過ぎて何でも許せてしまう。だって隣には蕩けるような甘い顔で私を見つめるバート様がいる。私もとびっきりの笑顔で彼を見つめる。
アル様が主役級の美人なのは誰よりも私が知っている。何と言っても女神様だから。むしろ女神様に参列してもらえる私の結婚式って最高だと誇りに思っている!
私の人生の主人公は私だ。私が幸せだと思っているのならそれでいいじゃないか。
それを誇示するようにバート様に寄り添えば彼は私の肩を抱き締めてくれた。その力強さに勇気をもらい私は招待客に向かって思いっ切りドヤ顔で微笑んだ。
アル様がくすりと笑う姿が視界に映った。その姿も尊い……。
(おわり)
アル様はシュトール王国では女性として過ごしている。帰国しても同じように暮らすのは難しいだろう。アル様はこれからもシュトール王国で暮らしていきたいそうだ。ご両親もそれに理解を示しているそうで、その方向で話し合う予定だそうだ。それを聞いて私はホッとした。アル様が家族と疎遠になっては悲しい。
「マリエルは、ショックじゃなかったのか? 仮とはいえ婚約をしていたんだろう」
バート様が心配気に私の顔を覗き込む。
「? いいえ。まったく。アル様は以前よりも美しくなっていて目が眩んでしまいました。昔は天使様のようでしたが今は女神様です! 私はアル様が幸せならそれが一番です。それに以前アル様から婚約白紙の手紙が届いた時にいろいろな覚悟はしていましたから大丈夫です。それよりも婚約を引き延ばしたせいでアル様の心に負担をかけてしまってごめんなさい」
「マリエル……。私の方が隠し事をしていたのだから悪いのは私で――」
「もう、謝りあうのはやめたんじゃないのか?」
バート様がまた始まったのかとあきれ顔で止めに入る。私はアル様と顔を見合わせ頷き合った。
「そうね」
「そうでした」
「それでマリエルは新しい婚約者を探すの?」
「はい。私は跡継ぎですから婿に来てくれる方を探さなくてはいけないので……」
バート様への気持ちを抱えたままお見合いなどできるだろうか。いいや、無理だ。それならば帰国する前に玉砕して心機一転を目指そう。
「探さなくてもここにいる。マリエルは私では嫌か? 私はマリエルが好きだ」
「へっ?」
アル様が驚いてティーカップを落としそうになっている。私は幸い手に持っていなかったので大丈夫だったが驚きは同じだ。バート様の言葉の真意を伺うように彼の瞳をじっと見る。
「私はマリエルと過ごしてあなたを好きになった。実はアルとの婚約が無くなるのを知っていたので、国に戻る前にベルツ伯爵夫妻にマリエルの婚約者候補にして欲しいと頼んできた。マリエルがいいと言ってくれればマリエルをツェーザル王国に送りがてらそのままベルツ伯爵邸で居候させてもらうことになっている。もちろん無理強いはしない。嫌ならそう言ってくれて構わない。……どうだろうか?」
バート様は断っても構わないと言ったが断る余地はなさそうだ。いつのまにか私の両親を説得していた。この話を聞く限り婚約者候補ではなくすでに婚約者同然な気がした。でも嬉しい。大歓迎だ。玉砕せずにすみ安心した。
「ぜひ、お願いします!」
私は膝につくほど頭を深く下げた。
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
勢い任せに返事をしたが重大なことを思い出した。
「あっ。でも本当にいいんですか? バート様のご家族は反対されるかもしれません。私と結婚する事になればツェーザル王国を離れることになってしまいます」
バート様の家族や友人と簡単に会えなくなってしまう。
「どこの国にいても家族であることには変わらない。それにもう家族に話して許しは得てある。大丈夫だ」
私を選んで下さったことに感激で瞳が潤んでしまう。ニヤリと笑うバート様がいつも以上にカッコイイ。
「おめでとう二人とも。私も嬉しいわ。バートもマリエルも幸せになってね」
アル様は穏やかに微笑んだ。女神様からの祝福を受けた私の人生には幸せが待っている。
******
帰国して三か月後にはバート様と正式に婚約を結んだ。更に半年後にはベルツ伯爵領で結婚式を挙げた。バート様のご両親は病院を長く空けることが出来ないので、結婚式にはお姉様のヒルダさんが代表で来てくださった。ブルメスター侯爵家には新婚旅行の時に寄ることになっている。
バート様がベルツ伯爵家に婿入りして下さるのは嬉しかったが、騎士を辞めてしまっていいのかと申し訳なくなった。
「別に騎士にこだわっている訳じゃないんだ。両親や兄姉は人を救う仕事をしている。私は医者には向いていないと感じていた。でも人の役には立ちたいとは思っていた。それで私は人を守る騎士を選んだ。でも騎士を辞めても何かを守ることは出来る。ベルツ領主となるマリエルを支えるのもマリエルと領民を守ることになる。仕事の種類は重要じゃないだろう。自分の成すべきことをするだけだ。マリエルが隣にいてくれることが私の望みだから後悔はないよ」
「ありがとうございます。バート様。大好きです!」
私の婚約者は強く逞しく、そして優しくて最高に素敵な人だ。
私たちは若葉溢れるよく晴れた日に結婚式を挙げた。
アル様も参列して下さった。女神様が涙を浮かべる姿に参列者の視線が釘付けになる。
「花嫁さん、可哀想そうね。あんなすごい美人がいたら今日の主役の座を奪われちゃうわよね。ウエディングドレスが霞んでるわよ」
意地悪な言葉が聞こえてきたが、そんなことは心底どうでもいい。
今日の私は幸せ過ぎて何でも許せてしまう。だって隣には蕩けるような甘い顔で私を見つめるバート様がいる。私もとびっきりの笑顔で彼を見つめる。
アル様が主役級の美人なのは誰よりも私が知っている。何と言っても女神様だから。むしろ女神様に参列してもらえる私の結婚式って最高だと誇りに思っている!
私の人生の主人公は私だ。私が幸せだと思っているのならそれでいいじゃないか。
それを誇示するようにバート様に寄り添えば彼は私の肩を抱き締めてくれた。その力強さに勇気をもらい私は招待客に向かって思いっ切りドヤ顔で微笑んだ。
アル様がくすりと笑う姿が視界に映った。その姿も尊い……。
(おわり)
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