6 / 6
序章
6.リンの国
しおりを挟む
朝起きると日はもうだいぶ登ってしまっていた。俺は少しぼーっとしてようやく気付く。
「やばい……寝坊したな」
言い訳をするように呟いてみるがそんなことを言ってもやはり時が戻ることはなかった。
とりあえず、すぐに準備をして役所に行かなければならない。
俺は顔を洗い着替えを済ませると、急いで扉を開けて食堂に向かう。しかし、食堂の朝食はすでに片付けられたあとだった。
「しまった、遅かったか……」
仕方がないのでそのまま宿を出る。途中で商店街に寄って買うことにしよう。
俺はとりあえず地図と方角だけ合わせて目的地に向かって走って行ってみる。
途中でパン屋さんを見つけたので適当にパンを買って一度地図を見直す。割と目的地にちゃんと向かえているみたいだ。
もう一度方角を合わせ直して走り出す。すると驚いたことにもう目的地に着いてしまった。いいなこれ。今度から王都限定でこれ使おう。
目的地である役所の扉をゆっくりと開けて中に入ると左右にソファーがあり、奥の方にたくさんの受付が見えた。
とりあえず空いてる受付に座って呼び鈴を鳴らしてみる。すると奥から同い歳くらいのセミロングで黒髪の女の子が出てきた。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご要件でしょうか?」
「ええと、住民登録をしたいんだけど」
「移住申請ではなく?」
「そうです、少し事情があるんです」
俺は村長に渡された封筒を渡す。
「担当者に渡して参りますので少々お待ちください」
受付の女の子は封筒を持って奥に行こうとするが途中で何かにつまづいて転びそうになる。丁寧な対応とのギャップでちょっと可愛く見える。
途中で買ったパンをモサモサと咀嚼していると、すぐに女の子が戻ってきた。
「お待たせしました、必要な書類などはほとんど揃っていましたので、本人確認とサインをさせて頂ければすぐに登録致します」
女の子は茶色い紙を出して俺の前に出す。
「こちらにサインをお願いします」
俺はすぐに名前を書くと、今度は女の子がその紙を裏返しにした。裏返しにした紙には魔術式が書かかれていた。
「ではこちらの魔術式に手を置いてください」
俺は言われた通り手を置くと魔術式が紫色に光った。光は三秒ほどで収まった。
「ありがとうございます、これで登録は完了となります。ありがとうございました」
女の子は頭を軽く下げて俺が帰るのを待っているようだが俺は彼女に聞きたい事があるので女の子が頭を上げるのを待つ。なぜならこの女の子が黒髪だったからだ。
「あの、すいません。これから少し時間ありますか?」
女の子が全然頭を上げないので、しびれを切らして話しかける。
「へ?えっと……あのー……」
女の子は顔を少し赤くし、うつむいてもごもごと何かを喋っている。トイレにでも行きたいのだろうか。
「それはその……ナンパですか?」
女の子はいかにも恥ずかしそうに言う。なんだかこっちまで恥ずかしくなってきたぞ。
「違います、東の国を出身とお見受けしましたので少々話が聞きたくてですね……」
内心めちゃくちゃ動揺しているが、恥ずかしがる女の子が見たくて、あえて淡々と丁寧に話してみる。
「うわぁ!ごめんなさい!ごめんなさい!ナンパなわけないですよね!うわー恥ずかしい……」
女の子はものすごい勢いで謝り倒し、顔を隠してしゃがんでしまった。可愛いなおい。
「ごめんなさい、ちょっとからかいました。でもお話があるのは本当ですよ」
俺は出来る限りのスマイルで丁寧に女の子をなだめる。そろそろ本当に話を聞きたいからね。
「ゲフンゲフン。では、もうすぐで時間を作れますので少々お待ちください」
女の子は照れを隠すようにわざとらしく咳き込み、丁寧に断りを入れて隠れるように奥に行ってしまった。
俺はソファーに座って少し寝ることにした。寝坊するほど寝たのに何故か今日はとても眠かった。
少しうとうとしていると、誰かに肩を掴まれて揺さぶられた。びっくりして起きるとそこには私服に着替えたセミロングで黒髪の女の子がたっていた。
「起きてくださーい」
「うん……」
「お話ってなんですか」
俺はゆっくりと立つと、伸びをしてまた座った。おまけに頬を叩いて体を無理矢理起こす。
「その前に君の名前を聞いてもいいかな?」
「チハナ・フユツカと言います、あなたは?」
「キョウジ・ササキだ、あと敬語なくてもいいよ、俺もいつの間にか忘れてたし」
「敬語は相手に関係なくいつもなのでこのままでお願いします」
「そっか、それで話の事なんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「チハナは東の国の出身?」
「ええ、十歳まで向こうに住んでいました」
「俺さ東の国の出身らしいんだけど、記憶がないんだ。良かったら東の国について教えてくれないか?」
「なるほど、住民登録の件はそういう事情があったんですね」
チハナはなるほど~、などと呟きながらこくんこくんと頷く。
「封筒の中身見てないの?」
「上司が見ただけで私はみてないです」
「えっとですね、まず東の国の名前なんですけど……」
「名前なんかあったんだ」
「ええ、でもあまり名前では呼ばれないですね」
「東の国の名前はリンの国と呼ばれています」
「リン王国?」
「いえ、リンの国は王国ではないのでリン王国とは呼ばれません」
「独自の文化が発展している国で、国民は黒髪の人種が多いのが特徴です」
「うん、それは知ってた」
「実はまだ最近確認された国で、今まではリン国のある場所には文明は存在しないと思われていたんです」
「そりゃまたなんで? すぐに調べればよかったのに」
「それがですね、山や海や川に囲まれててなかなか行くのが難しいといいますか……魔物も妙に強いですしね……」
ふと、チハナが顔をしかめる。
「まさかとは思いますが……リンの国に行きたいんですか?」
「出来ることなら行きたいね」
「今はやめたほうがいいですよ」
この時のチハナの目は何故か真紅に染まっているように見えた。
「やばい……寝坊したな」
言い訳をするように呟いてみるがそんなことを言ってもやはり時が戻ることはなかった。
とりあえず、すぐに準備をして役所に行かなければならない。
俺は顔を洗い着替えを済ませると、急いで扉を開けて食堂に向かう。しかし、食堂の朝食はすでに片付けられたあとだった。
「しまった、遅かったか……」
仕方がないのでそのまま宿を出る。途中で商店街に寄って買うことにしよう。
俺はとりあえず地図と方角だけ合わせて目的地に向かって走って行ってみる。
途中でパン屋さんを見つけたので適当にパンを買って一度地図を見直す。割と目的地にちゃんと向かえているみたいだ。
もう一度方角を合わせ直して走り出す。すると驚いたことにもう目的地に着いてしまった。いいなこれ。今度から王都限定でこれ使おう。
目的地である役所の扉をゆっくりと開けて中に入ると左右にソファーがあり、奥の方にたくさんの受付が見えた。
とりあえず空いてる受付に座って呼び鈴を鳴らしてみる。すると奥から同い歳くらいのセミロングで黒髪の女の子が出てきた。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご要件でしょうか?」
「ええと、住民登録をしたいんだけど」
「移住申請ではなく?」
「そうです、少し事情があるんです」
俺は村長に渡された封筒を渡す。
「担当者に渡して参りますので少々お待ちください」
受付の女の子は封筒を持って奥に行こうとするが途中で何かにつまづいて転びそうになる。丁寧な対応とのギャップでちょっと可愛く見える。
途中で買ったパンをモサモサと咀嚼していると、すぐに女の子が戻ってきた。
「お待たせしました、必要な書類などはほとんど揃っていましたので、本人確認とサインをさせて頂ければすぐに登録致します」
女の子は茶色い紙を出して俺の前に出す。
「こちらにサインをお願いします」
俺はすぐに名前を書くと、今度は女の子がその紙を裏返しにした。裏返しにした紙には魔術式が書かかれていた。
「ではこちらの魔術式に手を置いてください」
俺は言われた通り手を置くと魔術式が紫色に光った。光は三秒ほどで収まった。
「ありがとうございます、これで登録は完了となります。ありがとうございました」
女の子は頭を軽く下げて俺が帰るのを待っているようだが俺は彼女に聞きたい事があるので女の子が頭を上げるのを待つ。なぜならこの女の子が黒髪だったからだ。
「あの、すいません。これから少し時間ありますか?」
女の子が全然頭を上げないので、しびれを切らして話しかける。
「へ?えっと……あのー……」
女の子は顔を少し赤くし、うつむいてもごもごと何かを喋っている。トイレにでも行きたいのだろうか。
「それはその……ナンパですか?」
女の子はいかにも恥ずかしそうに言う。なんだかこっちまで恥ずかしくなってきたぞ。
「違います、東の国を出身とお見受けしましたので少々話が聞きたくてですね……」
内心めちゃくちゃ動揺しているが、恥ずかしがる女の子が見たくて、あえて淡々と丁寧に話してみる。
「うわぁ!ごめんなさい!ごめんなさい!ナンパなわけないですよね!うわー恥ずかしい……」
女の子はものすごい勢いで謝り倒し、顔を隠してしゃがんでしまった。可愛いなおい。
「ごめんなさい、ちょっとからかいました。でもお話があるのは本当ですよ」
俺は出来る限りのスマイルで丁寧に女の子をなだめる。そろそろ本当に話を聞きたいからね。
「ゲフンゲフン。では、もうすぐで時間を作れますので少々お待ちください」
女の子は照れを隠すようにわざとらしく咳き込み、丁寧に断りを入れて隠れるように奥に行ってしまった。
俺はソファーに座って少し寝ることにした。寝坊するほど寝たのに何故か今日はとても眠かった。
少しうとうとしていると、誰かに肩を掴まれて揺さぶられた。びっくりして起きるとそこには私服に着替えたセミロングで黒髪の女の子がたっていた。
「起きてくださーい」
「うん……」
「お話ってなんですか」
俺はゆっくりと立つと、伸びをしてまた座った。おまけに頬を叩いて体を無理矢理起こす。
「その前に君の名前を聞いてもいいかな?」
「チハナ・フユツカと言います、あなたは?」
「キョウジ・ササキだ、あと敬語なくてもいいよ、俺もいつの間にか忘れてたし」
「敬語は相手に関係なくいつもなのでこのままでお願いします」
「そっか、それで話の事なんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「チハナは東の国の出身?」
「ええ、十歳まで向こうに住んでいました」
「俺さ東の国の出身らしいんだけど、記憶がないんだ。良かったら東の国について教えてくれないか?」
「なるほど、住民登録の件はそういう事情があったんですね」
チハナはなるほど~、などと呟きながらこくんこくんと頷く。
「封筒の中身見てないの?」
「上司が見ただけで私はみてないです」
「えっとですね、まず東の国の名前なんですけど……」
「名前なんかあったんだ」
「ええ、でもあまり名前では呼ばれないですね」
「東の国の名前はリンの国と呼ばれています」
「リン王国?」
「いえ、リンの国は王国ではないのでリン王国とは呼ばれません」
「独自の文化が発展している国で、国民は黒髪の人種が多いのが特徴です」
「うん、それは知ってた」
「実はまだ最近確認された国で、今まではリン国のある場所には文明は存在しないと思われていたんです」
「そりゃまたなんで? すぐに調べればよかったのに」
「それがですね、山や海や川に囲まれててなかなか行くのが難しいといいますか……魔物も妙に強いですしね……」
ふと、チハナが顔をしかめる。
「まさかとは思いますが……リンの国に行きたいんですか?」
「出来ることなら行きたいね」
「今はやめたほうがいいですよ」
この時のチハナの目は何故か真紅に染まっているように見えた。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる