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福田葡萄

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序章

5.魔術書店『クレイジー・ブックス』

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  中に入ると奥の方にカウンターがあり、カウンターには三十代前半くらいの無精髭を生やした男性が座っていた。男性はこちらを見るとニヤリと笑い話しかけてきた。

「いらっしゃい、久しぶりだねカイン、エリナ。そっちの子はキョウジだね?親父から話は聞いてるよ。クラウド・フィクスだ、よろしく」

  男性が差し伸べてきた手を握り、握手する。

「こちらこそよろしくお願いします。あのフィクスってもしかして……」

  気になっていた事を控えめに聞いてみる。

「ああ、お察しの通り、俺は村長の息子さ」

  やはりそうだったか。一人で勝手に納得していると待ってましたと言わんばかりにカインがクラウドさんに話かける。

「クラウドさん、例の本の件なんですが……」

「ああ、ちゃんと取り寄せてあるぞ、今取って来るから待ってな。料金は割引き効いて五万ゴルだ」

「ありがとうございます」

  一方エリナは右側の本棚を見てウンウン唸っていた。何しているんだあなたは。

  どうやらエリナはカインの取引が終わるのを待っていたらしく本の受け渡しが終わってすぐにクラウドさんに話しかけ始めた。

「クラウドさ~ん、魔力散布系でルート魔術式型の火の本とかない~?」

「それなら三階登って突き当たりの本棚に数冊あったと思うぞ」

「わかった~」

「あんまり散らかすなよ。……さてと」

  一通りのやり取りが終わってクラウドさんがこちらを向く。ちょっと怖い。

「これからお前の体質に合ってる属性を確認する、この、六個の水晶玉に順番に触ってみな」

  そう言って目の前に出された水晶玉はそれぞれに色がついていた。左から順に赤・青・緑・黄・白・黒だった。

  俺は一つ三秒ほど掛けて全てを順番に触っていった。こんなに雑でいいのだろうか?

  クラウドは少し髭を触ったあと、すぐに結論を出した。

「青だな、水系統の魔術書。あとはお前の好みだからアンケートを取るぞ。分からなくなったら無回答でもいいぞ」

「わかりました」

「それじゃあ質問を始める」

1.個体、液体、気体の中で一番好きなのは?
  A.個体

2.量より質?質より量?
  A.量より質

3.攻め派?守り派?
  A守り派

4.敵が現れた、どんな戦い方をしたい?(自由回答)
  A柔軟に立ち回って戦いたい

5.好きな武器は?
  A無回答

「これで質問は終わりだ、だいたい絞れてきたぞ、少し待ってな」

「わかりました」

  とりあえずやってみたが本当にこれで適正がわかるのだろうか?後ろで本を読んでいたカインがこっちに来て話しかけてくる。

「どうだった?」

「なんか水系統らしい」

「水系統かぁ、色んな使い方に応用が出来る属性だから特訓のやりがいがあるね」

「いいじゃん、俺そういうの好みだ」

  なんだか自分の魔術書を買うのが楽しみになってきた。早く読みてぇ……

「なあカイン、俺って水系統以外の魔術書は使えないのか?」

「そんなことないよ、でも高位の魔術は水系統だけだろうね。それに魔力の消費効率とか威力とか安定性に関係するからみんな自分の得意系統使うのが普通だね」

「そうなのか。カインの得意系統ってなんなんだ?」

「僕は風系統だよ、ちなみにエリナは炎系統」

「エリナは風呂の薪を燃やす係だもんな」

  二人で笑っていると上からエリナが降りてくる。

「買う本決めた!」

  ほぼ同時に奥からクラウドさんが出てくる。

「キョウジ、この三冊の本から選びな」

「わかりました、ありがとうございます」

  そう言って出された本には丁寧に解説メモが付いていた。

  一つ目の本は水を自由に変形したり強化したり出来る魔術が載っているらしく、載っている魔術数は多いが火力に劣る。

  二つ目の本は水を刃物のように扱えるようになる魔術が載っているらしいが、一つ目と違って魔術式に物質生成系の回路が組まれていないため、水が無いところでは役に立たない。

  三つ目の本には氷を生成して好きな形を形成させたり触れた所から氷を出現させられるらしい。しかし魔術がそれだけしか載っていない。なお、氷は魔力を含むらしいので硬度が増している。水のある所では少ない魔力で氷を作れる。

  俺は三つ目の本を選ぶことにした。正直あまり魔術を習得する時間はないので戦闘で応用の利きやすい物を選んだつもりだ。

「どうだ?決まったか?」

  どうやら俺が思案しているうちにエリナの買い物が終わったらしい。

「三つ目のやつにします」

「アイシクル・ダンスか、これは基本無詠唱で使う魔術なんだが、大きくて硬くて質のいい氷を出したい時だけ詠唱しな」

「わかりました。いくらですか?」

「特別割引きで一万ゴルだ」

  俺はちょうど一万ゴルをクラウドさんに渡して本を受け取る。受け取った本はこころなしか少し冷たく感じた。

「これで三人とも買物は終わったか?」

  クラウドさんの問に俺が答える。

「はい、ありがとうございました」

  続けてエリナが口を開く。

「クラウドさんまたね~」

  エリナの後にカインが続く。

「お世話になりました」

  三人で一緒に店を出ると後ろからクラウドさんのまいどあり~、と控えめに言う声が聞こえた。この町には客が出た後にまいどありを言う文化でもあるのだろうか。

「さて、思ったより長居しちゃったね、宿に行こうか」

「もう私眠くなっちゃった」

「エリナは馬車であんなに寝てたじゃないか」

「嘘、お腹空いた」

「宿まで頑張れば飯あるぞ」

「じゃあ宿まで頑張る」

  そうしてまた三人で歩き始めた。遠いと思っていたが、案外近かった。きっと広場自体が割と北側寄りなのだろう。

  宿に着くなり三人ともすぐにチェックインをして、部屋に荷物を置いて食堂に集まった。

「そういえばさ、カインは何の本を買ったの?」

  夕食のハンバーグを食べながらカインに聞いてみる。確かものすごく高い魔術書を買っていたはずだ。

「土系統の金属変形魔術の本だよ。僕、鍛冶屋になりたいんだ」

「なるほどな、金属変形の魔術書ってなんでそんなに高いんだ?」

「数が少ないのもそうだし、貴金属を変形出来る魔術書ってこれしかないんだよ」

「じゃあ鍛冶屋としては必須なわけだ」

「そうだね」

「カインは適性系統は風って言ってたけど、それ使えるの?」

「本の内容自体はそんなに難しくないから大丈夫だよ。本の難しさだけだったらエリナの本が一番難しいかもしれないよ」

「そうなのか?」

「うん、エリナは好きなことなら頑張るからね、難しい魔術も出来ちゃうんだよ」

「いえーい!」
  
  確かにエリナは大物な感じがする。性格とか、寝たら起きない所とか。確かに本屋でも難解なことを喋っていたような気がする。

「私はやれば出来ちゃうんだな~むふふ」

  なんだかムカつくなコノヤロウ。

「さあ、明日の用事を確認して早く寝ようか」

  ようやくカインが食べ終わり片付けに入る。仮眠を取ったはずなのに飯を食べたら急に眠くなってきた。

  三人とも片付け終わったので部屋に戻り予定を確認する。後は薬を卸して住民登録するだけだな。

  俺はまだ一日目だというのに、帰って魔術書の勉強をするのが楽しみで目が冴えてしまっていたが。期待を胸に無理矢理仕舞い込み、そのまま眠りについた。







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