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第六章 社交シーズン(ウイレミナ)
旧式のドレス
しおりを挟む「デビュタントはどうだった?」
と馬車に乗って一息ついた時、セラフィーヌが聞くと、ケイトが答えた。
「立派だったわ。一人前のレディね」
「私も、部屋を通り過ぎる際、ミナのことを見ることができたよ。他の令嬢より目立っていたね」
ヒューも満足そうに声を上げて笑っていた。
「さぁ、これから支度をして、キースリー宮殿での舞踏会ね」
ケイトが言う。馬車は自邸へとまっすぐ進んでいた。
***
セラフィーヌがキースリー宮殿の舞踏会のために選んだのは、薄い青色のドレスだった。最新の流行を取り入れたもので、赤毛の髪によく似合ったものだった。
ストンと床に落ちたドレスのAラインに、腰回り華奢なリボンがついており、ノースリーブの首が詰まったデザインだ。
一方のウィレミナは旧式の型で、生地をふんだんに使ったふわりと広がるドレスだった。主に白色だが、足下に行くに連れて、グラデーションで紺色になっている。フープを使っていないが、充分ふくらみが堪能できる型だった。
いつも髪をハーフアップにしていたウィレミナはこのデビューを機に、髪を上げた。アイヴィーが巧みに金髪を結って、高い位置で固定している。
襟足の、あちらこちらに飛び回る髪を綺麗に固めて、すっきりとした首元を魅せているウィレミナは、いつもと違った雰囲気を醸し出していて、セラフィーヌは一瞬自分の妹が別人に見えた。
「素敵よ。ミナ」
同じ部屋の隅で、ウィレミナの支度を見ていたセラフィーヌは、手袋をはめた腕を、淑やかに組んでいた。
「ありがとう。お姉さまも素敵よ。きっとディキンソン卿は息をのむでしょうね」
ウィレミナはイタズラっけのある瞳を向けた。
「あなたの最初のダンスのお相手は誰かしらね?」
セラフィーヌも負けじとからかう。
そのひとときを、ウィレミナは楽しいと思った。
寄宿学校から帰ってきたばかりの時のウィレミナと比べると、彼女はだんだんと大人の世界に溶け込んでいた。
コンコン、とノックがして、母の声が外から聞こえる。
「ミナ?準備できたかしら?入るわね」
そうケイトが言って、扉が静かに開いた。
「あら、サラ、あなたも居たのね」
ケイトはそう言って、正装したふたりの娘を誇らしげに見る。
ケイトは暗い紺色のドレスを着ており、既婚者の証であるティアラをつけている。金髪に合うように作られたそのティアラは繊細なデザインで、ケイトの母から受け継がれたものだった。
「それでは、行きましょうか」
笑顔でケイトは言って、3人は玄関ホールへと降りていった。
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