27 / 48
第四章 『アイリス』
『アイリス』II
しおりを挟む
モットレイ子爵とセラフィーヌが初対面を果たした次の週の目玉の催し物は、また別の貴族が開催する屋外のパーティーだった。
「もうあんまり行きたくないんだけれど…」
そうセラフィーヌが自室でこぼすと、ホリーがそれをたしなめた。
「いいえ、お嬢さま。今晩もお嬢様が一番お綺麗なのですから、自信を持って、挑んでください!」
若干14歳のホリーは社交界に夢を抱いていた。
「そう言うことではないのよ」
呆れ気味にセラフィーヌが言うと、ホリーはキョトンとした顔でこちらを見つめた。
「良いわ、おそらく行かなかったら、お母様から何か言われるでしょうから、大人しく行くわ」
「はい!」
と、あまり乗り気ではなかったセラフィーヌは、会場に来てすぐに疲れてしまったのである。
「お母様、もう帰らない?」
セラフィーヌが大勢の人の中から、囲まれている母を見つけ出して言うと、母は驚いて、「ここに来てからまだ少ししか経ってないわよ。サラ、ダンスを楽しんでいらっしゃい」と、言ったきりだった。
「あら、セラフィーヌさん?また、会いましたわね」
隅で目立たないようにしていたセラフィーヌを見つけたのは、あのルクリアだった。
「あ、ルクリアさん」
「今年。社交界一の花であるあなたが、こんな目立たないところに隠れているだなんて、珍しいことも、あるのですね」
淑やかにルクリアは微笑んだ。
ルクリアは既に既婚者だが、未婚の時はセラフィーヌに劣らず、人気があったのだ。
その淑やかさと、誰とでもすぐに親しくなれるその才能が、当時様々な子息の心を鷲掴みにした。
しかし彼女は結局幼馴染だったバーナビーと結婚した。結婚して4年になるが、子供はいない。
「苦手なんです。こう言ったところは」
セラフィーヌが小声で言うと、ルクリアは驚きの返答をした。
「自室でペンを握っていた方が楽しい?」
セラフィーヌは自身の耳を疑った。ルクリアはなんでもお見通し、と言わんばかりに目を細めて、慌て始めたセラフィーヌを眺めて楽しんでいるようだった。
「あの…どうして?」
「あら、やっぱり私の推理は正しかったようね」
「あの、どう言うことですか?」
そこから、ルクリアは淡々と話し始めた。
ロクレウノ・ガーデンにひとりでいた話を聞いて、奇妙に思ったこと。
モットレイ子爵の経営する出版社の話をしたときに、表情が変わったこと。
「実はね、ロクレウノ・ガーデンで私もぶつからないかしらと思って、先日行ってみたの。思った通り、あなたは居たわ。あなたは仕立てやや既製服店のショーウィンドウに目もくれずに真っ直ぐ文房具屋さんに入っていった。あぁいったお店は、普通侍女が代わりにお使いで入るものよ」
その鋭い観察眼にセラフィーヌは開いた口が塞がらない思いだった。
「もしかして、あなたの書いているものをモットレイ子爵に見せれば、なんて思い付いたのではないかしら?」
その言葉でセラフィーヌの顔は恥ずかしさで耳まで真っ赤になった。
「今度、ノース地区のカフェに行きましょう。そこだけで作られているケーキあるの。どうかしら?」
ルクリアが突然話題を変えた。
「後日招待状を送るわ。その時にあなたの書いているものも一緒に持っていらしゃい」
セラフィーヌの返事を待たず、「では、失礼」と言って、ルクリアは優雅にその場を立ち去った。
それからしばらくセラフィーヌはその場から動けなかった。
「もうあんまり行きたくないんだけれど…」
そうセラフィーヌが自室でこぼすと、ホリーがそれをたしなめた。
「いいえ、お嬢さま。今晩もお嬢様が一番お綺麗なのですから、自信を持って、挑んでください!」
若干14歳のホリーは社交界に夢を抱いていた。
「そう言うことではないのよ」
呆れ気味にセラフィーヌが言うと、ホリーはキョトンとした顔でこちらを見つめた。
「良いわ、おそらく行かなかったら、お母様から何か言われるでしょうから、大人しく行くわ」
「はい!」
と、あまり乗り気ではなかったセラフィーヌは、会場に来てすぐに疲れてしまったのである。
「お母様、もう帰らない?」
セラフィーヌが大勢の人の中から、囲まれている母を見つけ出して言うと、母は驚いて、「ここに来てからまだ少ししか経ってないわよ。サラ、ダンスを楽しんでいらっしゃい」と、言ったきりだった。
「あら、セラフィーヌさん?また、会いましたわね」
隅で目立たないようにしていたセラフィーヌを見つけたのは、あのルクリアだった。
「あ、ルクリアさん」
「今年。社交界一の花であるあなたが、こんな目立たないところに隠れているだなんて、珍しいことも、あるのですね」
淑やかにルクリアは微笑んだ。
ルクリアは既に既婚者だが、未婚の時はセラフィーヌに劣らず、人気があったのだ。
その淑やかさと、誰とでもすぐに親しくなれるその才能が、当時様々な子息の心を鷲掴みにした。
しかし彼女は結局幼馴染だったバーナビーと結婚した。結婚して4年になるが、子供はいない。
「苦手なんです。こう言ったところは」
セラフィーヌが小声で言うと、ルクリアは驚きの返答をした。
「自室でペンを握っていた方が楽しい?」
セラフィーヌは自身の耳を疑った。ルクリアはなんでもお見通し、と言わんばかりに目を細めて、慌て始めたセラフィーヌを眺めて楽しんでいるようだった。
「あの…どうして?」
「あら、やっぱり私の推理は正しかったようね」
「あの、どう言うことですか?」
そこから、ルクリアは淡々と話し始めた。
ロクレウノ・ガーデンにひとりでいた話を聞いて、奇妙に思ったこと。
モットレイ子爵の経営する出版社の話をしたときに、表情が変わったこと。
「実はね、ロクレウノ・ガーデンで私もぶつからないかしらと思って、先日行ってみたの。思った通り、あなたは居たわ。あなたは仕立てやや既製服店のショーウィンドウに目もくれずに真っ直ぐ文房具屋さんに入っていった。あぁいったお店は、普通侍女が代わりにお使いで入るものよ」
その鋭い観察眼にセラフィーヌは開いた口が塞がらない思いだった。
「もしかして、あなたの書いているものをモットレイ子爵に見せれば、なんて思い付いたのではないかしら?」
その言葉でセラフィーヌの顔は恥ずかしさで耳まで真っ赤になった。
「今度、ノース地区のカフェに行きましょう。そこだけで作られているケーキあるの。どうかしら?」
ルクリアが突然話題を変えた。
「後日招待状を送るわ。その時にあなたの書いているものも一緒に持っていらしゃい」
セラフィーヌの返事を待たず、「では、失礼」と言って、ルクリアは優雅にその場を立ち去った。
それからしばらくセラフィーヌはその場から動けなかった。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる