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第二章 不穏な夕食会
#8 ディキンソン卿
しおりを挟む午後になって、ディキンソン卿がフィナデレ・カテドラルに到着した。
その姿を初めてみたウィレミナは、ディキンソン卿の髪を見て、もし姉と結ばれれば、赤毛の可愛らしい子が生まれるだろうと考えた。姉は金髪の混じった赤毛で、ディキンソン卿は艶のある滑らかな赤い髪をしていたからだ。
「ようこそ、ディキンソン卿」
まずそう言って彼を迎えたのはケイトだった。彼女は
貴族の慣例に乗っ取って片手をディキンソン卿の方に差し出している。
「光栄です。オルヴィス侯爵夫人」
ディキンソン卿も、慣例にのっとって優雅に夫人の甲に口づけした。
次にディキンソン卿は背後でそれを見ていた侯爵に向き直って握手を求める。
「御招きありがとうございます」
その言い方からして、ディキンソン卿は穏やかな性格で、物腰の柔らかい人だとわかる。
「いやいや、長旅で疲れたでしょう」
そう言いながら、侯爵はそのまた背後に並んでいる姉妹を手招きした。
「セラフィーヌ」
呼ばれたセラフィーヌは朝まで続いていた不服な顔をどこかへやり、笑顔でディキンソン卿に近寄った。その変わりようにウィレミナはただ驚くばかりだった。
しかし、ディキンソン卿がセラフィーヌの手に口づけしようと右手を差し出すが、セラフィーヌは両手でスカートを握って、足を軽く折っただけだった。そこに密かな反抗が垣間見えた。きっとその場にいた全員が気付いただろう。
「ウィレミナとは初対面でしょう。デビュー前で、先日寄宿学校から帰ってきたばかりなんだ」
そう言いながら、ヒューは今度はウィレミナを手招きした。
「えぇ。初めまして。レディ・ウィレミナ」
赤毛の髪に、晴天の空の色をした瞳。なるほど、ディキンソン卿はハンサムだった。
「ノックストーク誌にあった通りだわ」
ウィレミナは微笑みながら静かにつぶやいた。
「なんて?ミナ」
すかさずセラフィーヌがウィレミナに聞く。その顔は明らかにウィレミナをからかっていた。
「なんでもないわ、お姉様」
ウィレミナは慌てて微笑みをしまいこんだ。
***
「従者は、連れてきましたか?」
フィナデレ・カテドラルの緑の間にディキンソン卿を案内したのはメイド長のテレサだった。
テレサの問いに、ディキンソン卿は答えた。
「いや、連れてきていないよ。もし何かあれば飛んでくるって彼は言っていたけどね」
ディキンソン卿はユーモアのつもりでジョークを飛ばすが、テレサはその堅い表情を崩さなかった。
そのおかげでディキンソン卿は少し気まずさをあらわにした。
「では、下僕を一人従者の代わりに付けますね」
テレサはそれからすぐに扉を閉めた。
部屋に一人残されたディキンソン卿は窓の外をちらりと見るなど、必要のない行動に走ってしまった。
なぜなら、彼は内心落ち着かないのである。
「レディ・セラフィーヌは僕のことをどう思っているのだろう?」
その時の彼の頭の中はこの問いだらけだった。
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