負け犬様

ジョン・グレイディー

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第七章

『私、また綺麗になるから』

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「浩子!浩子!」

「お母さん?、どうしたの?」

 母が息を切らしながら部屋に飛び込んで来た。

「こ、これ…、これ、これ…」

 母は震える手で掴んだ手紙を目の前に差し出した。

「だ、だ、大介君…、大介君の友達から…」

「大介君!」

 私は母の手から手紙を急いで掴み取り、封を開けた。

「浩子、何て書いてるの?」

「大介君、まだ、私の事、想ってくれているんだって…」

「浩子!良かったわ。」

 私は最後の一文を何度も何度も見返した。

『どうか大介と会ってあげてください。』

「逢いたい…」

 私はそっと呟いた。

「浩子…」

 自然と零れる私の涙を母がそっと指で拭ってくれた。

 辛い辛い過去…

 私は心の階段を一段づつ、ゆっくりと降りて行った。

 大学に入ったけど…

 私はいつも1人ぽっち…

 当然、あの人の姿は何処にも見えない…

 諦めたはずの想いが、遠慮することなく、私の心を突き刺す…

 私は部屋から出られない…

 全てが怖いの…

 いつもいつも後悔してる。

 何もかも失ってしまった現在

 未来も見えない…

 仕方なく暗い過去に戻るしかない…

 あの時までは明るく輝いていたのに…

 どうして…

【私は勇気を出して大介君に愛を告白した。

 本当に好きだった。

 転校生の私をなんとか笑わせようと一生懸命に話す、優しい人

 照れ屋で目を合わせると直ぐに逸らす。

 でも、いつもいつも私を見つめていてくれた。

 野球のユニホーム姿

 毎日、あの人の姿を見つめていた。

 本当はそれだけで良かった…

 告白なんてしなければ…

 あの日のままで居れたのに…

 でも、どうしても側に居たかった。

 恋人になりたかった。

 諦めきれなかった。

 ちゃんと伝えたかった。

 あの人は来てくれなかった。

 私が他の人と付き合ったから…

 違うの!

 貴方に振られたから、誰でも良かったの…

 でも、あの人は…、許してくれない…

 美優が言ってた。

『大介君…、怒ってるよ!』って

 私は逢って伝えたかった。

「違うの。貴方があの日、返事をしてくれなかった…、私、振られたと思ったの…、あの人は違うの。好きでもなんでもないの。付き合ってくれと言われたから…、どうでも良かった…、それだけなの…」と】

 私は恐る恐る心の階段を降りて行った。

 行き止まりは2月14日

 それを境に光の色が違って見える。

 綺麗な白い光が灰色の光に変わるの…

    また、あの日に戻りたい。

 2月13日に戻りたい。

 何度も何度も悔やんだ…

「浩子!大介君と逢うまでに美容室に行っておかないとね。」

「えっ!」

「どうしたの?美容室よ!髪の毛、整えてもらわないと!」

「うん。」

 私は母の声により過去の階段から今へと駆け上がった。

「そっか…、逢える、逢えるんだ…、私が過去を振り返えなければ…、今を明日を見れば…、あの人が近づいてくれる…」

 私は涙を拭いて母に言った。

「うん!お母さん、私、また、綺麗になるから!」と



 
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