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第一章
ゴーストタウンに棲む者達
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6月5日午後5時半頃、俺は社宅に向かって歩いている。
寂れたシャッター商店街を下を向き歩いている。
「前を向かんかい!ド阿呆!どこ向いて歩いとんのやぁ!」
俺は大きな罵声に顔を上げた。
白髪の高齢の爺さんが威勢よく怒鳴り声を上げ、俺を睨んでいる。
俺はこの怖いもの知らずの年寄りを叩き潰そうと拳を握りしめた。
だが、やめた。
威張り腐った年寄りは肩で風を切り歩いて行った。
商店街の薄暗い灯りが、歩めば歩むほど暗くなって行く。
俺は分かっていた。
何かが俺を制していることを。
商店街のアーケードが終わりに近づく道標とし、右手に古びた煙草の自動販売機が見えてきた。
俺はタスポを財布から取り出し、小銭を入れ込み、ロンピー(ロングピース)のボタンを押した。
そして、魔除けの如く、ロンピーに火をつけ、咥え煙草でアーケードを潜り終える。
商店街を過ぎ、行き止まりのT路地を右折する。
前方に微かに琵琶湖らしき水色の塊が高層マンションの間に見える。
俺は前しか向かない。
左には比叡山の麓の山林が鬱蒼と迫っている。
俺は決して左を見ない。
いやでもこの後、対峙するから…
歩道か車道か区別のつかない工事途中の雑な道路を琵琶湖へと降り歩いて行く。
やがて、京阪電車の踏切に立ち止まった。
踏切が降りて、電車が俺の前を通過している。
俺は顔を上げない。
見てはいけない事を俺は知っている。
電車の窓ガラス
見てはいけない…
憎悪と恨みの怨霊がガラスに犇めいている事を俺は知っている。
俺は怨霊の塊をやり過ごし、踏切が上がると、線路をゆっくりと渡る。
やはり、ここからだ。
段々と脚が重たくなって行く。
誰かが俺の脚を掴んでいやがる。
線路内に止ませようと、俺の脚を掴んでいやがる。
俺はここで前を睨む。
覚悟の眼差しを敵に向ける。
すると脚元の掴みが消える。
奴らも覚悟しやがった。
踏切を渡り切ると、左に疏水が現れる。
琵琶湖から京都に送る疏水
水の中に幾億もの血が混じっている。
古の死人の声が疏水の水音と共に俺に挑んで来やがる。
俺は疏水を過ぎ、改めて覚悟を決める。
左の比叡の裾に夕陽が浮かんでいるのが見えてきた。
寂れた3階建ての古い社宅
3連の棟を構造とするが、両脇の棟は誰も住んでいない。
窓ガラスには板が打ち込まれ、又は黒いビニールシートを貼られている空き家達だ。
俺はアウシュビッツの門のような社宅の入り口を左折し、バックに夕陽を従えた比叡の鬱蒼とした山林と対峙する。
風は吹いていない。
しかし、空気が俺を押し返す。
「ここから出て行け!これ以上、進むな!」
何かが警告している。
俺は眼光を光らせ、見えない敵と対峙する。
一歩、一歩、奴等の棲む、5号棟の203号室へ、
ゴーストタウンのような奴等の縄張りの中を歩んで行く。
寂れたシャッター商店街を下を向き歩いている。
「前を向かんかい!ド阿呆!どこ向いて歩いとんのやぁ!」
俺は大きな罵声に顔を上げた。
白髪の高齢の爺さんが威勢よく怒鳴り声を上げ、俺を睨んでいる。
俺はこの怖いもの知らずの年寄りを叩き潰そうと拳を握りしめた。
だが、やめた。
威張り腐った年寄りは肩で風を切り歩いて行った。
商店街の薄暗い灯りが、歩めば歩むほど暗くなって行く。
俺は分かっていた。
何かが俺を制していることを。
商店街のアーケードが終わりに近づく道標とし、右手に古びた煙草の自動販売機が見えてきた。
俺はタスポを財布から取り出し、小銭を入れ込み、ロンピー(ロングピース)のボタンを押した。
そして、魔除けの如く、ロンピーに火をつけ、咥え煙草でアーケードを潜り終える。
商店街を過ぎ、行き止まりのT路地を右折する。
前方に微かに琵琶湖らしき水色の塊が高層マンションの間に見える。
俺は前しか向かない。
左には比叡山の麓の山林が鬱蒼と迫っている。
俺は決して左を見ない。
いやでもこの後、対峙するから…
歩道か車道か区別のつかない工事途中の雑な道路を琵琶湖へと降り歩いて行く。
やがて、京阪電車の踏切に立ち止まった。
踏切が降りて、電車が俺の前を通過している。
俺は顔を上げない。
見てはいけない事を俺は知っている。
電車の窓ガラス
見てはいけない…
憎悪と恨みの怨霊がガラスに犇めいている事を俺は知っている。
俺は怨霊の塊をやり過ごし、踏切が上がると、線路をゆっくりと渡る。
やはり、ここからだ。
段々と脚が重たくなって行く。
誰かが俺の脚を掴んでいやがる。
線路内に止ませようと、俺の脚を掴んでいやがる。
俺はここで前を睨む。
覚悟の眼差しを敵に向ける。
すると脚元の掴みが消える。
奴らも覚悟しやがった。
踏切を渡り切ると、左に疏水が現れる。
琵琶湖から京都に送る疏水
水の中に幾億もの血が混じっている。
古の死人の声が疏水の水音と共に俺に挑んで来やがる。
俺は疏水を過ぎ、改めて覚悟を決める。
左の比叡の裾に夕陽が浮かんでいるのが見えてきた。
寂れた3階建ての古い社宅
3連の棟を構造とするが、両脇の棟は誰も住んでいない。
窓ガラスには板が打ち込まれ、又は黒いビニールシートを貼られている空き家達だ。
俺はアウシュビッツの門のような社宅の入り口を左折し、バックに夕陽を従えた比叡の鬱蒼とした山林と対峙する。
風は吹いていない。
しかし、空気が俺を押し返す。
「ここから出て行け!これ以上、進むな!」
何かが警告している。
俺は眼光を光らせ、見えない敵と対峙する。
一歩、一歩、奴等の棲む、5号棟の203号室へ、
ゴーストタウンのような奴等の縄張りの中を歩んで行く。
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