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第2部
セシル・オルグレンの回顧録 1
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領主だとか貴族だとか、わけのわからない差別が昔から大嫌いだった。
ノブレスオブリージュ?
ふざけるな。
領民に対する責任も義務も、領主だけが背負うべきだって? 子爵領の、この状態でか?
領地は好きだ。領民も好きだ。みんな家族だ。
隣の家のサムもその隣のミーシャも、ジムおじさんもマーサおばさんも、みんな家族。
身分ってなんだ?
誰もそんなことを気にしていないじゃないか。
お祖父様に一目置く大人達だったり、あとはふざけて子供達が僕のことをセシル坊ちゃん、と呼ぶけれど、誰も僕のことを坊ちゃんだなんて思っていやしない。
だってみんな家族だから。この地に住まう領民の一人。
それがアスコット子爵領。
鍬や鋤を抱えて、荒れた農地で畑を耕し、斧を抱えて木を切り。
罠を仕掛けて獣を狩っては、素早く血抜きをして。
それから腸を抜いたら、だいたいの部位に分けて腰に下げた臓物袋に突っ込む。大型の獣なら血抜きだけして抱えて帰る。
腸抜きのあとは皮剥ぎ。
皮剥ぎの技術は毛皮を高く売るために磨かねばならない技術で、よく研いだナイフで慎重に刃を当てて削いでいく。
狩りが上手いかどうかも尊敬を集める要素の一つだけど、この皮剥ぎの技術が高ければ高いほど、子供達は目を輝かせて尊敬の眼差しを向ける。
僕はこの皮剥ぎがとても得意だ。だから領民からの信頼も厚い。
それから頭部を外して肋骨、足の順番で切断して肉を部位ごとに切り分けていく。
これは皮剥ぎ程繊細な技術は要さないけれど、大型の獣になればなる程力が必要で、体格の大きい者の方が向いている。
我が家の男達は代々体格に優れず華奢で小柄と男らしくない。
僕も同様に、農作業や狩り等肉体労働に励むけれど、どうしたって小さいまま。
解体作業は領民の貴重な食料確保に繋がることだから、やはりとても重要な役目で、不得手な者にわざわざ任を担わせることはない。
役割分担は大事だ。
だからこの作業は力が強く体も大きいジムおじさんやサムが役に就くことが多い。
二人とも見た目通り豪快で、繊細な作業はどちらかと言えば苦手だ。
力技を得意とする彼等と、皮剥ぎを得意とする僕と。互いに尊重して補い合い、それに不満などなかった。
各々の役割を受け止め納得していたのだ。
アスコット子爵領は貧しい。
だから皆支え合ってそれぞれの役割に徹する。
力の有る無し、男女差、頭の出来不出来。
色々あるけど、皆それぞれ役割を負う。
憧れられる役割とか、そうでもない役割とか。多少の優劣はあれど、役割に貴賤をつけることはない。
それぞれを尊重する。
男だから偉いとか、女だから無下にしていいとか。そんな馬鹿馬鹿しいことを考える者はいない。
それらは全て必要な役目だと皆わかっているからだ。
だから確かに領主という記号も役割として必要なことはわかっていた。
この領地の代表として、国への嘆願を乞うことが許される人間がいなければならない。
それが領主で貴族という役割。記号。
ただそれだけだ。
それ以外は他の領民と何一つ変わらない。
他の領地は知らないが、アスコット子爵領はそれでいいじゃないか。
だって皆家族だろう。皆で支え合って生きていくことの何が悪い?
「ですからそうではないのです」
「何がですか? 我が子爵領は領主も領民も身分に関わらず農作業をしますし、屋敷……ここに比べたらただのボロ屋ですけど、そこでの暮らしだって、自分達で回しています。人が来たときに最低限の体裁を保つために使用人を雇う真似事をすることはあるけど、使用人というより、近隣住民の助け合いの域を出ないものです」
教師は呆れた顔を隠さず、目を眇めた。
「それこそが甘えであり奢りであり、貴族としての義務を放棄しているというのです。領主一族であるからには、領民に支えられ、彼等の税によって生かされていることを忘れてはなりません」
こいつは本当に何を言っているんだろう。
支えられていることなんてわかってる。
だって皆で支え合い補い合って生活している。
男達が農作業や狩りに励み災害で壊れた家々や堤防を修繕して、女達が子供を生み育て、料理をして衣類を繕い家を整える。
病人が出れば領民総出で薬草を採取に出て、知識のある器用な者が煎液を作り、体力のある者が看病にあたる。
伝染病が疑われるときも同じ。
病人の家族だったり、体力のある者が代表して、隔離部屋に篭る。必死に病と立ち向かう。
残りの領民は病を怖れるが、病にかかった者を恐れず。
ただひたすら彼の者が救われること、命が奪われないことを祈る。
それに税?
税なんて国に納める分と、河川の氾濫で破損した堤防や灌漑装置の修繕や荒れ果てた農地回復。
災害に備えての食料や薬剤等の備蓄。
家や家族を失った者達への支援。
治療院の維持。
医師や薬師への給金。
それらで全て消えるし、それどころか赤字で全く足りていない。
本来なら人材育成のための学びの場だって設けたいけど、それどころじゃない。
皆生きるのに精一杯。
そんな状況だから、お祖父様は領主としての矜持を投げ売って、カドガン伯爵の厚意に甘え、隷属してるんじゃないか。
ああそうか。
確かにカドガン伯爵領の領民の税によって生かされているんだろうな。
だけどそれは、僕達領主家族が、じゃなくて、僕達アスコット子爵領民皆だ。
「故に領主は領民と領地を守る責任と義務があるのです」
領民も領地も大事だ。もちろん守るよ。
だけどそれは領主一族だからじゃない。アスコット子爵領の領民の一人だからだ。
「そして民の尊敬を集め模範となるべく正しく振る舞うこと、民の心の支えとして彼等の上に立ち導くこともまた、貴族の義務です」
正しくってなんだよ。
皆それぞれ役割はあるけど、生き生きと自分らしく振る舞って、楽しく生きてるんだ。
貴族らしい正しい振る舞いをすることが、アスコット子爵領でなんの利益になる?
誰の腹を膨らませてやれる?
僕がカドガン伯爵領で、礼儀作法だの、ダンスだの、貴族の系譜だの。
くだらないことを習得するより、領地で獣の皮剥ぎをしている方が、ずっと領民の為になる。
食べるためでもなく、娯楽のための狩猟。そのためがだけに馬で駆け獣を捕らえることも。
戦が起こったところで、僕一人が剣術体術に優れて領地を防ぐことが出来るはずもないのに、貴族子息の嗜みだと、剣を習って振るうことも。
しかもその剣術とやらは、儀礼的で、見た目の良さを追い求めただけの型に嵌まった代物。
そんものは全てお貴族様の道楽だ。
何が正しい振る舞いだ?
アスコット子爵領においては、ちっとも正しくない。
ノブレスオブリージュ?
ふざけるな。
領民に対する責任も義務も、領主だけが背負うべきだって? 子爵領の、この状態でか?
領地は好きだ。領民も好きだ。みんな家族だ。
隣の家のサムもその隣のミーシャも、ジムおじさんもマーサおばさんも、みんな家族。
身分ってなんだ?
誰もそんなことを気にしていないじゃないか。
お祖父様に一目置く大人達だったり、あとはふざけて子供達が僕のことをセシル坊ちゃん、と呼ぶけれど、誰も僕のことを坊ちゃんだなんて思っていやしない。
だってみんな家族だから。この地に住まう領民の一人。
それがアスコット子爵領。
鍬や鋤を抱えて、荒れた農地で畑を耕し、斧を抱えて木を切り。
罠を仕掛けて獣を狩っては、素早く血抜きをして。
それから腸を抜いたら、だいたいの部位に分けて腰に下げた臓物袋に突っ込む。大型の獣なら血抜きだけして抱えて帰る。
腸抜きのあとは皮剥ぎ。
皮剥ぎの技術は毛皮を高く売るために磨かねばならない技術で、よく研いだナイフで慎重に刃を当てて削いでいく。
狩りが上手いかどうかも尊敬を集める要素の一つだけど、この皮剥ぎの技術が高ければ高いほど、子供達は目を輝かせて尊敬の眼差しを向ける。
僕はこの皮剥ぎがとても得意だ。だから領民からの信頼も厚い。
それから頭部を外して肋骨、足の順番で切断して肉を部位ごとに切り分けていく。
これは皮剥ぎ程繊細な技術は要さないけれど、大型の獣になればなる程力が必要で、体格の大きい者の方が向いている。
我が家の男達は代々体格に優れず華奢で小柄と男らしくない。
僕も同様に、農作業や狩り等肉体労働に励むけれど、どうしたって小さいまま。
解体作業は領民の貴重な食料確保に繋がることだから、やはりとても重要な役目で、不得手な者にわざわざ任を担わせることはない。
役割分担は大事だ。
だからこの作業は力が強く体も大きいジムおじさんやサムが役に就くことが多い。
二人とも見た目通り豪快で、繊細な作業はどちらかと言えば苦手だ。
力技を得意とする彼等と、皮剥ぎを得意とする僕と。互いに尊重して補い合い、それに不満などなかった。
各々の役割を受け止め納得していたのだ。
アスコット子爵領は貧しい。
だから皆支え合ってそれぞれの役割に徹する。
力の有る無し、男女差、頭の出来不出来。
色々あるけど、皆それぞれ役割を負う。
憧れられる役割とか、そうでもない役割とか。多少の優劣はあれど、役割に貴賤をつけることはない。
それぞれを尊重する。
男だから偉いとか、女だから無下にしていいとか。そんな馬鹿馬鹿しいことを考える者はいない。
それらは全て必要な役目だと皆わかっているからだ。
だから確かに領主という記号も役割として必要なことはわかっていた。
この領地の代表として、国への嘆願を乞うことが許される人間がいなければならない。
それが領主で貴族という役割。記号。
ただそれだけだ。
それ以外は他の領民と何一つ変わらない。
他の領地は知らないが、アスコット子爵領はそれでいいじゃないか。
だって皆家族だろう。皆で支え合って生きていくことの何が悪い?
「ですからそうではないのです」
「何がですか? 我が子爵領は領主も領民も身分に関わらず農作業をしますし、屋敷……ここに比べたらただのボロ屋ですけど、そこでの暮らしだって、自分達で回しています。人が来たときに最低限の体裁を保つために使用人を雇う真似事をすることはあるけど、使用人というより、近隣住民の助け合いの域を出ないものです」
教師は呆れた顔を隠さず、目を眇めた。
「それこそが甘えであり奢りであり、貴族としての義務を放棄しているというのです。領主一族であるからには、領民に支えられ、彼等の税によって生かされていることを忘れてはなりません」
こいつは本当に何を言っているんだろう。
支えられていることなんてわかってる。
だって皆で支え合い補い合って生活している。
男達が農作業や狩りに励み災害で壊れた家々や堤防を修繕して、女達が子供を生み育て、料理をして衣類を繕い家を整える。
病人が出れば領民総出で薬草を採取に出て、知識のある器用な者が煎液を作り、体力のある者が看病にあたる。
伝染病が疑われるときも同じ。
病人の家族だったり、体力のある者が代表して、隔離部屋に篭る。必死に病と立ち向かう。
残りの領民は病を怖れるが、病にかかった者を恐れず。
ただひたすら彼の者が救われること、命が奪われないことを祈る。
それに税?
税なんて国に納める分と、河川の氾濫で破損した堤防や灌漑装置の修繕や荒れ果てた農地回復。
災害に備えての食料や薬剤等の備蓄。
家や家族を失った者達への支援。
治療院の維持。
医師や薬師への給金。
それらで全て消えるし、それどころか赤字で全く足りていない。
本来なら人材育成のための学びの場だって設けたいけど、それどころじゃない。
皆生きるのに精一杯。
そんな状況だから、お祖父様は領主としての矜持を投げ売って、カドガン伯爵の厚意に甘え、隷属してるんじゃないか。
ああそうか。
確かにカドガン伯爵領の領民の税によって生かされているんだろうな。
だけどそれは、僕達領主家族が、じゃなくて、僕達アスコット子爵領民皆だ。
「故に領主は領民と領地を守る責任と義務があるのです」
領民も領地も大事だ。もちろん守るよ。
だけどそれは領主一族だからじゃない。アスコット子爵領の領民の一人だからだ。
「そして民の尊敬を集め模範となるべく正しく振る舞うこと、民の心の支えとして彼等の上に立ち導くこともまた、貴族の義務です」
正しくってなんだよ。
皆それぞれ役割はあるけど、生き生きと自分らしく振る舞って、楽しく生きてるんだ。
貴族らしい正しい振る舞いをすることが、アスコット子爵領でなんの利益になる?
誰の腹を膨らませてやれる?
僕がカドガン伯爵領で、礼儀作法だの、ダンスだの、貴族の系譜だの。
くだらないことを習得するより、領地で獣の皮剥ぎをしている方が、ずっと領民の為になる。
食べるためでもなく、娯楽のための狩猟。そのためがだけに馬で駆け獣を捕らえることも。
戦が起こったところで、僕一人が剣術体術に優れて領地を防ぐことが出来るはずもないのに、貴族子息の嗜みだと、剣を習って振るうことも。
しかもその剣術とやらは、儀礼的で、見た目の良さを追い求めただけの型に嵌まった代物。
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