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第2部
6 冷えきった声で
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手繰り寄せようとするわけでもなく、ぼんやりと記憶を巡らせていると、アラン様の鋭いお声に模糊として揺蕩っていた意識が呼び起こされる。
「いいえ? メアリーが貴方の娘になることはない」
「何を……」
前カドガン伯爵がはっとしたように息を呑み、また急に憤りを顕わにした。
「まさかお前、メアリー嬢がありながら、他の女に乗り換えたのか!」
「それこそまさか。貴方ではあるまいし」
アラン様は慢侮隠すことなく、辛辣に切り捨てる。
「貴方にわざわざ報告するのは不本意ですが、要らぬ詮索をされても困る。メアリー嬢と私は、王家の許可を得て正式に婚約を解消した後、先程婚約を結び直しました」
アラン様はこちらを振り返ると、険しいお顔を緩め、ふにゃり、とあの気の抜けたお可愛らしいお顔をわたしに向ける。
それからアンジーとエインズワース様に頷かれた。
「第二王女殿下が、私達の婚約を認めてくださいました」
周囲の視線がアンジーとエインズワース様に集う。
衆目の元に立たされたアンジーは、アラン様のお言葉に応えるように、鷹揚に頷く。
前カドガン伯爵は、第二王女殿下であるアンジーの姿を認めると目を見開き、驚愕と動揺がその表情に顕わになった。
「な、ぜ……。……いや。なぜ、解消などした。再度婚約するのならば、そのような無駄なことをする必要はないだろう」
アラン様はハッと鼻で笑う。
「貴方がたに押し付けられた婚約でメアリーの人生を縛るなど、許せるはずがないでしょう。私だって貴方のよこした呪いを有難がるつもりもない。私とメアリーは、互いの意志で婚約を解消し、結び直したんだ」
前カドガン伯爵は眉を顰めた。
「それは詭弁に過ぎない。結局お前達は、私が婚約させねば、出会うこともなかっただろう」
アラン様が押し黙ると、真珠姫は前カドガン伯爵にしなだれかかりながら、アラン様を一瞥して、クスリと笑った。
それから前カドガン伯爵の腕を引き、真珠姫へと屈んだ前カドガン伯爵の耳元に何かを囁いた。
「……そんなことより、メアリー嬢の社交デビューを飾るこの場に招かれなかったことに抗議する。アボット侯爵、貴卿には手紙も送っているはずだ。今日まで返答がなかったため、了承されたと判断し、この場に出向いた。
それがこの扱いか。貴卿らの為すべき責務を、貴卿の先々代より代替わりしてきた我が一族を、よもやお忘れではないな? これは一体どういうことだ?」
前カドガン伯爵が眼光鋭く睨みつけた方向を見ると、この騒ぎに駆けつけたアボット侯爵ご夫妻がいらした。
アボット侯爵は前カドガン伯爵の猛然たる抗議にたじろいだようで、その視線を周囲に彷徨わせる。
好奇の目がアボット侯爵にも向けられ、アボット侯爵の周囲にいた人々が、前カドガン伯爵と間をあけるように引いていく。
そこにアラン様の冷え切ったお声が、人々のざわめく場を切り裂いた。
「それは貴方が既に、コールリッジ家の人間ではないからですよ」
途端に、水を打ったように静まり返る。
自身のつばを飲み込む音すら響くような錯覚に陥るほど。
衣擦れの音。グラスが置かれる音。会場奥から聞こえてくる、指示のやり取りを交わす使用人達の僅かな声。
いくつものグラスを載せたトレイを運ぶ給仕が、会場奥へとすり抜けていった。
「いいえ? メアリーが貴方の娘になることはない」
「何を……」
前カドガン伯爵がはっとしたように息を呑み、また急に憤りを顕わにした。
「まさかお前、メアリー嬢がありながら、他の女に乗り換えたのか!」
「それこそまさか。貴方ではあるまいし」
アラン様は慢侮隠すことなく、辛辣に切り捨てる。
「貴方にわざわざ報告するのは不本意ですが、要らぬ詮索をされても困る。メアリー嬢と私は、王家の許可を得て正式に婚約を解消した後、先程婚約を結び直しました」
アラン様はこちらを振り返ると、険しいお顔を緩め、ふにゃり、とあの気の抜けたお可愛らしいお顔をわたしに向ける。
それからアンジーとエインズワース様に頷かれた。
「第二王女殿下が、私達の婚約を認めてくださいました」
周囲の視線がアンジーとエインズワース様に集う。
衆目の元に立たされたアンジーは、アラン様のお言葉に応えるように、鷹揚に頷く。
前カドガン伯爵は、第二王女殿下であるアンジーの姿を認めると目を見開き、驚愕と動揺がその表情に顕わになった。
「な、ぜ……。……いや。なぜ、解消などした。再度婚約するのならば、そのような無駄なことをする必要はないだろう」
アラン様はハッと鼻で笑う。
「貴方がたに押し付けられた婚約でメアリーの人生を縛るなど、許せるはずがないでしょう。私だって貴方のよこした呪いを有難がるつもりもない。私とメアリーは、互いの意志で婚約を解消し、結び直したんだ」
前カドガン伯爵は眉を顰めた。
「それは詭弁に過ぎない。結局お前達は、私が婚約させねば、出会うこともなかっただろう」
アラン様が押し黙ると、真珠姫は前カドガン伯爵にしなだれかかりながら、アラン様を一瞥して、クスリと笑った。
それから前カドガン伯爵の腕を引き、真珠姫へと屈んだ前カドガン伯爵の耳元に何かを囁いた。
「……そんなことより、メアリー嬢の社交デビューを飾るこの場に招かれなかったことに抗議する。アボット侯爵、貴卿には手紙も送っているはずだ。今日まで返答がなかったため、了承されたと判断し、この場に出向いた。
それがこの扱いか。貴卿らの為すべき責務を、貴卿の先々代より代替わりしてきた我が一族を、よもやお忘れではないな? これは一体どういうことだ?」
前カドガン伯爵が眼光鋭く睨みつけた方向を見ると、この騒ぎに駆けつけたアボット侯爵ご夫妻がいらした。
アボット侯爵は前カドガン伯爵の猛然たる抗議にたじろいだようで、その視線を周囲に彷徨わせる。
好奇の目がアボット侯爵にも向けられ、アボット侯爵の周囲にいた人々が、前カドガン伯爵と間をあけるように引いていく。
そこにアラン様の冷え切ったお声が、人々のざわめく場を切り裂いた。
「それは貴方が既に、コールリッジ家の人間ではないからですよ」
途端に、水を打ったように静まり返る。
自身のつばを飲み込む音すら響くような錯覚に陥るほど。
衣擦れの音。グラスが置かれる音。会場奥から聞こえてくる、指示のやり取りを交わす使用人達の僅かな声。
いくつものグラスを載せたトレイを運ぶ給仕が、会場奥へとすり抜けていった。
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