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23話 獣の子

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 俺達は机を囲うようにして座り、自己紹介を始めた。
 ミラノが一人で三つの椅子を使っているが、それでもまだ沢山残っていた。
 会議などで使うために余分においているのだろうか。

 「テラ・ルークスと言います。見て分かると思いますが獣人族です」
 「俺はクリム・オーラだ。それであいつは――」
 「私はミラノ。魔王軍の幹部だよ」
 「魔王軍の幹部!? ラーシェさんいいんですか!? こんな人達を連れて来ても!」
 
 ラーシェが反応がおかしかっただけで、これが本当の反応だよな。
 と、俺は思っていたが、ミラノは今の反応が気に食わなかったらしい。
 
 「ねえ、こんな人達って誰に向かって言ってるのかな?」

 ミラノは体を起こし、目を見開いて睨みつける。
 
 「失礼だよテラ、早く謝って」
 「ご、ごめんなさい……」
 「分かればいい」

 謝る人が逆のような気がするけどな。
 人の家に遠慮なく上がり込んだ挙句、勝手に椅子を並べて寝転がる。
 どう考えても、ミラノの方が失礼な気がするんだが。

 「クリムさん……ですよね。どうして仮面を付けているのですか?」
 「ああ、これは……」
 
 横目でラーシェを見て、仮面を取っても良いか確認をする。
 取ってしまった後で、「取らない方が良かったです」なんて言われたら申し訳ないからな。
 こういうことは、先に確認しておかないと。

 そんな俺の考えが伝わったのか、ラーシェは軽く頷いた。
 それを確認すると、仮面に手をかけて外した。

 「え……聖剣使い……様」
 「そうだよ。だから国を滅ぼすのを手伝ってもらうんだ。心強いでしょう?」
 「確かに心強いですが、ちょっと怖いです。だって……メジューナム連合の国王を殺したんですよね?」
 「それは誤解だよ。クリムさんはそんなことしていないし、さらに実行したのは《堕天使》なんだから」
 「でも……」

 テラは怯えるような目で俺を見てくる。
 でも、こんな反応をされるのは大体予測が出来ていた。
 ラーシェはすぐに信じてくれたが、俺の話を聞いた側からすれば、何の証拠もないただの偽造話と思われてもおかしくない。
 俺が殺していないという証拠もなければ、国王が殺すよう指示した証拠、そして《堕天使》が殺した証拠さえない。
 俺と国王がした会話を聞かせることが出来れば、誰でもすぐに信じてくれるかもしれないが、生憎その会話はもう俺の頭の中にしか存在していない。
 つまり俺は、無実だという証拠が
 そんな状態で俺を信じろと言われて信じれる人なんて、ラーシェしかいないだろう。

 「確かに俺が無実だという証拠は何もない。ラーシェは信じてくれたが、きっと出会った相手が違っていたら俺は今頃通報されていた。だから、俺を信じてくれなんて言わない」
 「すいません……」
 「だけど」
 「……?」
 「信じてもらえるように、これから行動していくよ」
 「……わかりました。では改めて、これからよろしくお願いします」

 俺が右手を前に出すと、少しの間じっと見つめてテラも右手を出した。
 その右手は俺の右手に触れ、お互いしっかりと握った。

 「こちらこそ」

 人は口だけなら何とでも言える。
 だけど、それを行動に移す人は少ししかいない。
 それでも俺は、信用を勝ち取るために行動で示していなかなくてはならない。

 その時、俺達の様子を寝ころびながら窺っていたミラノが突然起き上がり、口を開いた。

 「ねぇ。暇なんだけど。自己紹介も終わったんだしさ、どっかに行きたい」
 「どっかってどこだよ。それに、まだラーシェのお兄さんに会ってないだろ」
 「えー」
 「クロスさんなら、さっき依頼を受けに行ってしまいましたよ」
 「俺達の来るタイミングが悪かったな」
 
 そうなればどうしようか。
 まだ戻ってこなさそうだし、依頼を達成するのには短くても二時間くらいかかってしまう。
 ここでずっと待っていても、何もすることないしなぁ。
 別にこのまま話していてもいいのだが、それでも流石に二時間は長いな。
 
 「じゃあ俺達も行くか、依頼を受けに」
 「やったぁ!」
 
 歓喜の声を上げながら、椅子を倒して立ち上がる。
 壊れたらどうするつもりなんだよ。
 
 「じゃあ私も行きます。テラはどうするの?」
 「私はここで待ってます。クロスさんが帰ってきたらここで引き留めておきますね」
 「じゃあよろしく頼むね。では行きましょう、クリムさん、ミラノさん」

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