上 下
3 / 33

3話 まず、魔王に会うために

しおりを挟む
 絶対に許さない。
 絶対に殺してやる。
 絶対に滅ぼしてやる。

 これだけが俺の頭の中で駆け巡り、俺の心を黒く支配していった。

 あの国を出てしばらく歩いているため、初めてこの場所に来た。
 周りを見渡せば、草も木も水も何もない。
 ただあるには、風で砂が飛ばされて剥き出しになった大きな岩と、少しの風で簡単に巻き上がる砂だけだ。
 所々骨が落ちている。
 これが人間の物なのか、魔族のものか、魔獣のものかはわからない。

 俺はある場所に向かっていた。
 それは魔王が住む、魔王城。
 俺はそこに行くために、ただひたすら歩く。

 なぜ魔王城に行くかって?
 そんなの決まっている。
 魔王に会って、話をするためだ。
 
 俺はフリュースを絶対に許さない。
 ここに来る前、一度父様の国へ行ってみたが……あいつの言っていた事は本当だった。
 父様は何者かに殺された、という情報が国中を駆け巡り大混乱を招いていた。
 だが、フリュースが殺したとは誰も知らなかった。
 
 俺はそれを伝えてやろうかと思ったが、思い止まった。
 もし、俺はそれを伝えた場合、一体誰が信じるだろうか。
 母様は数年前に他界し、俺は父様の国で関わりのある人はあまりいない。
 そんな状態で、フリュースが殺した、などと伝えれば俺が逆に疑われてしまう可能性があるし、何より証拠がない。
 聖十二騎士達も、フリュースの味方だろうから何も頼りにならない。
 それに、その場に居るはずにない俺が顔を出せば、更なる問題が発生することになる。

 だから俺は、父様にお別れを言わずに魔王に会いに行く。
 あの国に、フリュースに、復讐するために。




 
 「ここか」

 俺は高台から見渡して、場所を確認する。

 空はすっかり暗くなり、魔王城とその周りにできている建物に明かりがついている。
 恐らく、魔法か何かで明かりを付けているのだろう。
 わかりやすくて助かる。

 川や木がないせいか、雑音が何も聞こえずに魔王城の中で行われている何かの音がする。
 魔王城とその周りに住み着く魔族どもは、何かしら魔法と組み合わせて使う兵器を開発して、様々な国に攻撃を仕掛けに行く。
 ヴァラグシア王国も、攻撃を仕掛けられている国のひとつだ。

 高い場所から落ちないように、一歩一歩慎重に足を前に出して下っていく。
 大きな音を出して、魔族達に囲まれたら面倒だ。
 とにかく今は慎重に動いて――

 「おい」
 「……」
 
 残念だが、早速バレてしまった。
 しかし、いい機会だ。
 少し手荒だが、やるとするか。

 「お前、人間だな。どうしてここにいる」

 後ろを振り返ると、頭から角を生やした奴が、鋭く伸ばした爪を俺の背中に突きつけていた。

 「お前、相当強いんじゃないか? 全く気配に気付かなかった」
 「当たり前だろ。俺は幹部の1人だ。お前のような人間如きに気付かれるわけがなかろう」
 「そうか。でも助かったよ」
 「はぁ? お前は何を言って――」

 俺は相手が反応できない程の速度で剣を抜いて、俺に突きつけてきていた爪を切り落とす。 

 「いっ! お前……!」
 
 そいつが痛みでよろけ、爪に意識が向いた僅かな時間で背後に回り込み、剣を喉に当てる。
 魔族は目を見開き、一筋の汗を流した。
 そして喉に突きつけられている剣を見て、ハッと息を呑んだ。

 「お前……まさか……」
 「なんだ? 俺のことを知っているのか?」
 「知らないも何も……聖剣使いだろ……!」
 「その通り」
 「一体どこの国のやつだ……!」
 「ヴァラグシア王国の聖剣使いだ」
 「元……だと……?」
 「お前に説明する必要はない。さぁ、早く魔王の所に連れて行け。俺は魔王に用がある」
 
 そして俺は、魔族に向けて笑みを浮かべた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

「ただの通訳なんて宮廷にはいらない」と追放された【言語術師】。追放された瞬間、竜も機械も使えなくなって女王様が土下座してきたけどもう遅い。

アメカワ・リーチ
ファンタジー
「ただの通訳など、我が国にはいらない」  言語術師として、宮廷に仕えていたフェイ。  しかし、新女王の即位とともに、未開の地への追放を言い渡される。 「私がいないと、ドラゴンや機械に指示を出せなくなりますよ……?」 「そんなわけないでしょう! 今だって何も困ってないわ!」  有無を言わさず追放されるフェイ。  しかし、フェイは、得意の“言術”によって未開の地を開拓していく。  機械語によって、機械の兵隊軍団を作り、  神々の言葉で神獣を創造し、  古代語でドラゴンたちと同盟を結ぶ。  ドラゴン、猫耳美女、エルフ、某国の将軍と様々な人間にご主人様と慕われながら、  こうして未開の地をどんどん発展させていき、やがて大陸一の国になる。  一方、繁栄していくフェイの国とは違い、王国はどんどん没落していく。  女王はフェイのことを無能だと罵ったが、王国の繁栄を支えていたのはフェイの言術スキルだった。  “自動通訳”のおかげで、王国の人々は古代語を話すドラゴンと意思疎通をはかり、機械をプログラミングして自由に操ることができていたが、フェイがいなくなったことでそれができなくなり王国は機能不全に陥る。  フェイを追放した女王は、ようやくフェイを追放したのが間違いだと気がつくがすでに時遅しであった。  王都にモンスターが溢れ、敵国が攻め行ってきて、女王は死にかける。  女王は、フェイに王国へ戻ってきてほしいと、土下座して懇願するが、未開の地での充実した日々を送っているフェイは全く取り合わない。  やがて王国では反乱が起き、女王は奴隷の身分に落ちていくのであった。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...