74 / 93
73話 失われた記憶
しおりを挟む
「お前……何してんだ……?」
自分の腹を刺した人物の顔を見ながら、口に溢れる血を垂らしながら言葉を発した。
だが、返事が返ってくる様子はない。
「何で俺たちを攻撃するんだよ!」
「仲間じゃねぇのかよ!」
周りを見渡せば、彼方此方あちらこちらで怒声が飛びかっていた。
仲間に攻撃をされたのは、この者だけでは無かった。
突然、後ろから背中を斬られる者。
首を刎ねられる者。
斬られるギリギリで気付き、なんとか自分の剣で攻撃を受け止めた者。
なぜか仲間に攻撃されるという現象が一斉に発生し、兵士達はすでに取り返しのつかないほどの混乱に陥っていた。
「クフフフ……。素晴らしいですねぇ。人数がいればいるほど面白くなる」
「テメェ何しやがった!」
どこからか声が聞こえ、ゼーラは笑みを浮かべたまま答える。
「いいでしょう。教えて差し上げます。私は貴方達のお仲間を支配させて戴きました。私に対する恐怖や、先程の仲間同士の言い合いで生まれた怒り。そこに私の影・が侵食していったのです。さぁ、私からのプレゼント、是非堪能して下さい。クフフフ……」
ゼーラは侵食を止める様子はなく、ただただ仲間同士で殺し合う光景を楽しんでいた。
「おいおい、お仲間を置いてどこいってたんだよ~?」
「ヴァミアは仲間ではない。勘違いをするな」
リウス達のところから戻った後、カロスはまたヴァミアに加わって戦闘を始めたが、戦況は一向に良くなる気配はない。
傷を治してもらい、万全な状態になってもだ。
一体どうすればコイツに勝てるのだ……?
指を鳴らせば一瞬で別の場所に移動することが出来る。
これでは真正面から攻撃したら、ほとんど躱されてしまう。
どうにかしてコイツに勝つ方法を……
「ヴァミア!」
「……?」
どこからか突然聞こえた声に、皆一瞬意識をその声の主に向けた。
「ミルマではないか」
その場にいる者の視線が一斉に集まり、そこにあったのは、もういないと思っていた妹を探すミルマの姿だった。
「兄……さん……?」
一度足りとも相手に向けて警戒を解かなかったヴァミアは、必死な顔で駆け寄るミルマを見て、全ての意識をそこに向けた。
「やっと……会えた……」
ヴァミアから火怒羅が消滅し、剣を地面に落としながら瞳から涙を流した。
「……」
完全に無防備なヴァミアを今攻撃すれば、グラファは間違いなく仕留めることが出来る。
それにも関わらず、なぜか2人の様子を真顔で見つめたまま攻撃をしようとしない。
あいつ……なぜ攻撃をしないのだ?
どう考えても今が絶好のチャンスのはず……。
だが、攻撃しないということは何か理由があるのか。
どちらのせよ油断しているグラファを、我が仕留めて仕舞えば――
「なぁ、氷結の白狼」
「なんだ……?」
背を向ける敵を、確実に殺しに行くために地面を踏み込んで仕掛けようとした瞬間、グラファは背を向けたまま声を発した。
さっきとは異なる声の発し方、まるで過去を思い出すような……
「あの2人はどれだけ離れていても忘れずにいた。
だがお前はどうだ。俺のことを本当に忘れたのか?」
奴は何を言っているのだ……。
さっきも同じようなことを……。
「本当に? 本当にか? 本当に俺のことを忘れたのか?」
「言ったはずだ。我は貴様のことなど覚えていないと」
「……そうか。残念だな。俺の力には誰も抗うことはできないか」
「貴様はさっきから何を――」
「思い出せないのなら仕方がない。俺が思い出させてやる。また絶望に暮れるがいい」
そしてグラファは振り返り、カロスに向けて腕を前に出すと、どこまでも透けるような一つの石を取り出した。
その石を見た途端、カロスは今までにないほどの衝撃を受けた。
「さぁ、思い出せ。絶望の記憶を引き出せ」
「その石は……」
なぜ奴が持っている……?
あの石は、カロス様の前の魔獣の王の石だぞ……。
それなのに何故あいつが……!
……っ!
なんだ……?
この謎の違和感は。
前にも同じような状況になった気がするぞ……。
魔獣の王を失って、そしてふらふらと彷徨い……我は……。
自分の腹を刺した人物の顔を見ながら、口に溢れる血を垂らしながら言葉を発した。
だが、返事が返ってくる様子はない。
「何で俺たちを攻撃するんだよ!」
「仲間じゃねぇのかよ!」
周りを見渡せば、彼方此方あちらこちらで怒声が飛びかっていた。
仲間に攻撃をされたのは、この者だけでは無かった。
突然、後ろから背中を斬られる者。
首を刎ねられる者。
斬られるギリギリで気付き、なんとか自分の剣で攻撃を受け止めた者。
なぜか仲間に攻撃されるという現象が一斉に発生し、兵士達はすでに取り返しのつかないほどの混乱に陥っていた。
「クフフフ……。素晴らしいですねぇ。人数がいればいるほど面白くなる」
「テメェ何しやがった!」
どこからか声が聞こえ、ゼーラは笑みを浮かべたまま答える。
「いいでしょう。教えて差し上げます。私は貴方達のお仲間を支配させて戴きました。私に対する恐怖や、先程の仲間同士の言い合いで生まれた怒り。そこに私の影・が侵食していったのです。さぁ、私からのプレゼント、是非堪能して下さい。クフフフ……」
ゼーラは侵食を止める様子はなく、ただただ仲間同士で殺し合う光景を楽しんでいた。
「おいおい、お仲間を置いてどこいってたんだよ~?」
「ヴァミアは仲間ではない。勘違いをするな」
リウス達のところから戻った後、カロスはまたヴァミアに加わって戦闘を始めたが、戦況は一向に良くなる気配はない。
傷を治してもらい、万全な状態になってもだ。
一体どうすればコイツに勝てるのだ……?
指を鳴らせば一瞬で別の場所に移動することが出来る。
これでは真正面から攻撃したら、ほとんど躱されてしまう。
どうにかしてコイツに勝つ方法を……
「ヴァミア!」
「……?」
どこからか突然聞こえた声に、皆一瞬意識をその声の主に向けた。
「ミルマではないか」
その場にいる者の視線が一斉に集まり、そこにあったのは、もういないと思っていた妹を探すミルマの姿だった。
「兄……さん……?」
一度足りとも相手に向けて警戒を解かなかったヴァミアは、必死な顔で駆け寄るミルマを見て、全ての意識をそこに向けた。
「やっと……会えた……」
ヴァミアから火怒羅が消滅し、剣を地面に落としながら瞳から涙を流した。
「……」
完全に無防備なヴァミアを今攻撃すれば、グラファは間違いなく仕留めることが出来る。
それにも関わらず、なぜか2人の様子を真顔で見つめたまま攻撃をしようとしない。
あいつ……なぜ攻撃をしないのだ?
どう考えても今が絶好のチャンスのはず……。
だが、攻撃しないということは何か理由があるのか。
どちらのせよ油断しているグラファを、我が仕留めて仕舞えば――
「なぁ、氷結の白狼」
「なんだ……?」
背を向ける敵を、確実に殺しに行くために地面を踏み込んで仕掛けようとした瞬間、グラファは背を向けたまま声を発した。
さっきとは異なる声の発し方、まるで過去を思い出すような……
「あの2人はどれだけ離れていても忘れずにいた。
だがお前はどうだ。俺のことを本当に忘れたのか?」
奴は何を言っているのだ……。
さっきも同じようなことを……。
「本当に? 本当にか? 本当に俺のことを忘れたのか?」
「言ったはずだ。我は貴様のことなど覚えていないと」
「……そうか。残念だな。俺の力には誰も抗うことはできないか」
「貴様はさっきから何を――」
「思い出せないのなら仕方がない。俺が思い出させてやる。また絶望に暮れるがいい」
そしてグラファは振り返り、カロスに向けて腕を前に出すと、どこまでも透けるような一つの石を取り出した。
その石を見た途端、カロスは今までにないほどの衝撃を受けた。
「さぁ、思い出せ。絶望の記憶を引き出せ」
「その石は……」
なぜ奴が持っている……?
あの石は、カロス様の前の魔獣の王の石だぞ……。
それなのに何故あいつが……!
……っ!
なんだ……?
この謎の違和感は。
前にも同じような状況になった気がするぞ……。
魔獣の王を失って、そしてふらふらと彷徨い……我は……。
0
お気に入りに追加
1,090
あなたにおすすめの小説
【本編完結】魔眼持ちの伯爵令嬢〜2度目のチャンスは好きにやる〜
ロシキ
ファンタジー
魔眼、それは人が魔法を使うために絶的に必要であるが、1万人の人間が居て1人か2人が得られれば良い方という貴重な物
そんな魔眼の最上級の強さの物を持った令嬢は、家族に魔眼を奪い取られ、挙句の果てに処刑台で処刑された
筈だった
※どこまで書ける分からないので、ひとまず長編予定ですが、区切りの良いところで終わる可能性あり
ローニャの年齢を5歳から12 歳に引き上げます。
突然の変更になり、申し訳ありません。
※1章(王国編)(1話〜47話)
※2章(対魔獣戦闘編)(48話〜82話)
※3章前編(『エンドシート学園』編)(83話〜111話)
※3章後編(『終わり』編)(112話〜145話)
※番外編『王国学園』編(1話〜)
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
試験雇用中の冒険者パーティー【ブレイブソード】のリーダーに呼び出されたウィルは、クビを宣言されてしまう。その理由は同じ三ヶ月の試験雇用を受けていたコナーを雇うと決めたからだった。
ウィルは冒険者になって一年と一ヶ月、対してコナーは冒険者になって一ヶ月のド新人である。納得の出来ないウィルはコナーと一対一の決闘を申し込む。
その後、なんやかんやとあって、ウィルはシェフィールドの町を出て、実家の農家を継ぐ為に乗り合い馬車に乗ることになった。道中、魔物と遭遇するも、なんやかんやとあって、無事に生まれ故郷のサークス村に到着した。
無事に到着した村で農家として、再出発しようと考えるウィルの前に、両親は半年前にウィル宛てに届いた一通の手紙を渡してきた。
手紙内容は数年前にウィルが落とし物を探すのを手伝った、お爺さんが亡くなったことを知らせるものだった。そして、そのお爺さんの遺言でウィルに渡したい物があるから屋敷があるアポンタインの町に来て欲しいというものだった。
屋敷に到着したウィルだったが、彼はそこでお爺さんがS級冒険者だったことを知らされる。そんな驚く彼の前に、伝説級最強アイテムが次々と並べられていく。
【聖龍剣・死喰】【邪龍剣・命喰】【無限収納袋】【透明マント】【神速ブーツ】【賢者の壺】【神眼の指輪】
だが、ウィルはもう冒険者を辞めるつもりでいた。そんな彼の前に、お爺さんの孫娘であり、S級冒険者であるアシュリーが現れ、遺産の相続を放棄するように要求してきた。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です
カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」
数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。
ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。
「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」
「あ、そういうのいいんで」
「えっ!?」
異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ――
――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。
「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。
ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。
身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。
そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。
フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。
一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。
「魔物肉は食べられますか?」異世界リタイアは神様のお情けです。勝手に召喚され馬鹿にされて追放されたのでスローライフを無双する。
太も歩けば右から落ちる(仮)
ファンタジー
その日、和泉春人は、現実世界で早期リタイアを達成した。しかし、八百屋の店内で勇者召喚の儀式に巻き込まれ異世界に転移させられてしまう。
鑑定により、春人は魔法属性が無で称号が無職だと判明し、勇者としての才能も全てが快適な生活に関わるものだった。「お前の生活特化笑える。これは勇者の召喚なんだぞっ。」最弱のステータスやスキルを、勇者達や召喚した国の重鎮達に笑われる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴォ
春人は勝手に召喚されながら、軽蔑されるという理不尽に怒り、王に暴言を吐き国から追放された。異世界に嫌気がさした春人は魔王を倒さずスローライフや異世界グルメを満喫する事になる。
一方、乙女ゲームの世界では、皇后陛下が魔女だという噂により、同じ派閥にいる悪役令嬢グレース レガリオが婚約を破棄された。
華麗なる10人の王子達との甘くて危険な生活を悪役令嬢としてヒロインに奪わせない。
※春人が神様から貰った才能は特別なものです。現実世界で達成した早期リタイアを異世界で出来るように考えてあります。
春人の天賦の才
料理 節約 豊穣 遊戯 素材 生活
春人の初期スキル
【 全言語理解 】 【 料理 】 【 節約 】【 豊穣 】【 遊戯化 】【 マテリア化 】 【 快適生活スキル獲得 】
ストーリーが進み、春人が獲得するスキルなど
【 剥ぎ取り職人 】【 剣技 】【 冒険 】【 遊戯化 】【 マテリア化 】【 快適生活獲得 】 【 浄化 】【 鑑定 】【 無の境地 】【 瀕死回復Ⅰ 】【 体神 】【 堅神 】【 神心 】【 神威魔法獲得 】【 回路Ⅰ 】【 自動発動 】【 薬剤調合 】【 転職 】【 罠作成 】【 拠点登録 】【 帰還 】 【 美味しくな~れ 】【 割引チケット 】【 野菜の種 】【 アイテムボックス 】【 キャンセル 】【 防御結界 】【 応急処置 】【 完全修繕 】【 安眠 】【 無菌領域 】【 SP消費カット 】【 被ダメージカット 】
≪ 生成・製造スキル ≫
【 風呂トイレ生成 】【 調味料生成 】【 道具生成 】【 調理器具生成 】【 住居生成 】【 遊具生成 】【 テイルム製造 】【 アルモル製造 】【 ツール製造 】【 食品加工 】
≪ 召喚スキル ≫
【 使用人召喚 】【 蒐集家召喚 】【 スマホ召喚 】【 遊戯ガチャ召喚 】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる