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3話 恐怖と勇気

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 「じゃあ行くぞ」

 「ワン!」

 俺たち...と言っても人間一人と犬一匹だが、さっき簡単な採取クエストを受注してきた。

 クエストの内容は“マキキノコを十本収穫”という内容だ。実に簡単な内容だ。

 マキキノコは森の奥にしか生えていないが、ちょうど魔獣の出没エリア外だ。

 つまり場所も最適だ。

 このクエストを達成したら二日分の食料を手に入れられるだけの報酬が手に入る。

 「よし、頑張るぞ!」

 「ワオ、ワウォーーーーーン!!!」










 

 「よっしゃーー!これで七本目!」

 「ワンワン!」

 「お!そっちにもあったか!」

 今俺たちは森の中でマキキノコの採取を行っているのだが、なんとも幸運なことが起こった。

 なんとカロスはマキキノコを匂いで見つけ出すことができるのだ。

 「本当に助かるな!」

 「ワン!」

 俺が褒めるとカロスは尻尾がちぎれそうなほどの勢いで振っている。

 今頃なんだけどなんでこんなに俺に付き纏うのだろうか?俺って動物に好かれや...

 「ウゥゥゥゥ~~ワンワン!!!」

 「ん?どうした?」

 俺の後ろにいたカロスを見ると向こうの茂みを見ながら吠えていた。さらにただ吠えるだけでなく威嚇までしていた。

 「何かいるのか...?」

 俺は恐る恐る、茂みに近寄って何がいるのか確かめてみることにした。
 
 「ウゥゥゥゥ~~」

 「わかったから落ち着けって」

 俺は唸るカロスを落ち着かせようとして後ろを向き声をかけた。
  
 そしてカロスが唸る原因を確かめようともう一度前を向いたとき、“そいつ”と目があった。

 「ッッ!!!」

 俺は急いで体を反転させてカロスを抱き抱えた。

 「逃げるぞ!」

 俺はカロスを抱いたまま全力で森の中を駆け抜けた。

 「なんでだよ!なんでだ!なんであいつらが...!」

 「グガァァァァァァァァァァ!!!」

 俺の疑問に答えるかのように“アイツ”は雄叫びを上げた。

 「なんでだ!ここは出没エリア外のはずだ!なのにどうして“ファイアーウルフ”がここにいるんだよ!!」

 ファイアーウルフ、それは火を操る魔獣。

 体が赤く光り、まるで奴ら自身が火のような体をしている。

 並の冒険者なら軽い怪我を負うかもしれないが、特に問題のないぐらいのレベルである。

 一匹だけなら、の話だ。

 ファイアーウルフは知性が高く自分たちが弱いと理解している。

 そのためほとんどの場合が群れで生活している。

 どれだけ弱くても数がいればたまったもんじゃない。数の暴力というものだ。

 「グガァァァァァァァァァァ!!!」

 「ワウォォォーーーーーン!!!」

 さっきの雄叫びに反応して他のファイアーウルフも雄叫びをあげだした。

 多分仲間に集合をかけているのだろう。

 やばい...!こいつらに囲まれたらもう終わりだ!

 俺は剣術をほとんど使うことができない。

 さらに言えば魔法もほとんど使うことができない。

 「なんで俺は戦闘に役立つ魔法を一つも使えないんだよ!」

 「グガァァァァァァ!!!」

 俺はすでに後ろも左右もファイアーウルフに囲まれていた。

 「やばいやばいやばい...!」

 もっと速く...もっともっと...ッッ!?

 俺は周りに意識をとられすぎて足元が良く見えてなかったらしい。

 大きな石につまずき、派手に地面を転がった。

 「グガフッッ!!」

 地面を転がるたびに体を走り抜ける痛みのせいで口から変な声が発生した。

 勢いがありすぎて転がり続け、ようやく止まった場所は森の開けた場所だった。

 「だい...じょうぶ...か?」

 俺は痛みのせいで言葉にならないような声で胸に抱いていたカロスに話しかけた。

 「クゥゥ~ン...」

 よかった。俺は石に躓いて転がる瞬間に急いでカロスを胸に抱き庇った。

 カロス少し怪我を負っているが軽傷のようだ。

 「さあ...早く逃げるんだ...。あいつらが来る前に...」

 「グルルルルッッッ!!!」

 「グガアッッ!グガッッッ!!!」

 しかし時はすでに遅かった。

 俺たちは何十匹にも及ぶ数のファイアーウルフに囲まれてしまった。

 考えろ...考えるんだ...!今の俺に何ができる...!このボロボロの俺に何が...!

 どうにかしてカロスだけでも...!

 そうだ...!

 「カロス!よく聞くんだ。今から俺は囮になって向こう側まで走る。ファイアーウルフの注意が俺に向いてる間に俺が走った反対側に走るんだ。わかったな」

 「クゥゥ~ン...」

 「お前ならきっとできる。もしかしたら俺が抱いて走るよりもカロスが単独で走った方が逃げれたかもな。」

 俺は怖くて強張りそうな顔を必死で笑顔に変えて冗談を言った。

 「じゃ、ちょっくら囮になってくるぜ」

 俺は痛みで悲鳴を上げる体を無理矢理立ち上がらせて、右手を高く空に突き上げた。

 「俺を喰えるもんなら食ってみろぉぉぉーーーーー!!!!」

 俺の声に全てのファイアーウルフの注意がこっちに向いた。

 「クッ!」

 俺は恐怖で体固まりそうになるのを脳が拒否し、代わりに全力で走れという命令が脳から体に伝わった。

 「こっちにこいやぁぁぁぁーーーーー!!!」

 「「「グガァァァァァァァァァァ!!!!」」」

 「今だ!逃げろーー!!!」

 俺の声が届いたのかカロスは俺と反対側に走りだした。

 そうだ...それでいい...

 カロス、お前とは本当にちょっとしか一緒に過ごさなかったけど...今までで一番楽しい時間だったよ。

 次は俺みたいな貧乏人に近づかずにもっとお金持ちに近づけよ...じゃあな...。

 俺にあっという間に追いついてきたファイアーウルフたちが一斉に飛びかかってきて、俺に牙を向いた。

 もうすぐくるであろう強烈な痛みに備えるべく強く目を瞑った。

 「グワァァァァァァァァァァーーーーー!!!」

 しかしいくら待てどその痛みは襲ってこなかった。

 俺は何が起こったのか恐る恐る目を開けると俺を襲おうとしていたファイアーウルフは俺を襲うのを急遽やめ、ファイアーウルフたちの何十倍もの雄叫びを上げる方へと視線を向けていた。

 俺もファイアーウルフたちと同じ場所に視線を向けた。

 そして今度こそ俺の体は恐怖で動かなくなった。

 俺の視線の先には、体毛が綺麗な銀色で覆われ、周りが凍るほどの冷気を放っている狼がいた。

 それもただの狼ではない。

 体長が十メートル、高さが五メートルにも及ぶ巨大狼が俺の前に姿を現していた。

 
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