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42話 この命に変えても

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 確かに国王は恐ろしく強い。
 それは紛れもない事実だ。
 しかし人間の中では、だ。

 相手は悪魔。
 ましてや下級悪魔ではなく、上級悪魔。
 どれだけ足掻いたところで、国王が対処できることは何もない。

 当たり前だが俺も戦うが、俺がどこまで通用するかが問題になる。
 あの反射の力が自由に使えればいいのだが、まだ一度しか発動したことがない。
 だとしても俺は剣で前に進む。
 ハーシュは必ず助けないといけないからな。

 それと問題がもう一つある。
 このピエロ達だ。

 「どうしましたか?」

 このピエロ達は、ジューザラスとルーレルにボコボコにされている。
 ルーレルにやられたということは、力が同等の上級悪魔には歯が立たないということだ。
 つい流れで連れてきちまったけど大丈夫か?

 「なに? もしかしてこの人達が役に立つか心配?」

 リリルが俺の顔を横から覗き込みながらそう聞いてきた。

 「まあな。こいつらがどこまで戦えることやら……」
 「ふふん! そういう事なら安心して!」
 
 手を腰の所で組んで、ピョンと軽く跳ねながら俺の前に立つと満面の笑みを浮かべる。

 「僕に支配された人はね、僕の力を分け与える事が出来るんだよ!」

 なにその力。
 めちゃくちゃ便利じゃん。
 神の力を分けてもらえるって事だろ?
 
 ピエロ達も突然の情報に目を丸くしている。
 あ、そういえばこのピエロ達に名前知らないな。
 後で聞いておくか。

 「リリルの力を分けるって、一体どうやってやるんだ?」
 「簡単だよ。僕が力を分けたいって思えば分けれるんだよ」
 「でもリリルの力を分けると、自分自身が弱体化とかするんじゃないのか?」
 「まさか! 僕の力は一切減らないよ。ただ支配されてる人達の基礎能力が向上するだけだからね」

 マジでいいなその力。
 是非とも俺を支配してほしい。
 
 と、そんな事俺は口に出していないが、顔に出てしまっていたのだろうか。
 
 「ライを僕が支配することは出来ないよ。僕は僕に恐怖した者しか支配できないからね」
 
 じゃあ無理だな……。
 俺も基礎能力が向上したならば、上級悪魔に遅れを取ることなく戦えるかもしれないのに。

 「来たようだな」

 グラの静かな呟きに、緩んでいた体に緊張が走った。
 しかし目視することは出来ない。
 グラ達にしか感じられないのだろうか。

 ジューザラスやヘルラレンの方を見てみると、神達は揃って険しい顔をしていた。

 そこで俺は改めて実感した。
 本当に命を懸けた戦いが始まるのだと。
 
◇◆◇

 「来たぞ!」
 
 1人の冒険者が、遠い場所を指差しながら声を上げた。
 そこには黒いローブを纏う無数の人影があった。

 恐らく悪魔達もこちらの存在に気づいているはずだが、全く慌てる様子はなく進み続けている。
 それだけ余裕ということか。

 「ん……? なんだあれは……」

 ピエロの1人、ジェネラルが目を細めて悪魔達を見た。
 さっき名前を聞いたところ、アングリーピエロがジェネラル、スマイリーピエロがエナ、スケアリーピエロがシーザネル、ハッピーピエロがオルリ、ディスガストピエロがドップだそうだ。
 名前覚えるの面倒だから、どうせならマスクをつけたままにしておいて欲しかった。

 まあ、そんな事はさておき、俺もジェネラルにつられて目を細めてみた。
 
 あれは……水晶か?
 どうして水晶なんかが運ばれているんだ?
 それも大岩くらいの大きさだ。
 しかも何故か紫色に輝いている。

 そんな水晶の上に人影が見える。
 誰かが乗って移動しているようだ。

 「あの水晶なんだろうな」
 「……」
 「グラ?」
 「あの中には……フネアス、ライが探すハーシュという人間が閉じ込められている」
 「は……?」

 あの水晶の中に……ハーシュがいるのか……?
 
 その水晶は紫に光が渦を巻いている。
 ハーシュは一体何をされてるんだ!

 考えれば考えるほど冷静さを失ってしまっていき、自分でも気付かない内に足に力を入れて走り出そうとしていた。
 だがそれを読んでいたのか、グラは俺の肩に手を置いた。

 「ライが行ってもどうすることも出来ない。今は待て」
 「何か出来るか出来ないかじゃないだろ! 今は早くハーシュを助けに行かないと!」
 「確かにハーシュは助けなくてはいけない。だがあれを見ろ」

 こんな状況でも冷静さを欠かず、水晶に向かって指を指した。
 
 「あの水晶に誰かが乗っているのが見えるか?」
 「まぁ……なんとなくだけど……」
 「あいつがグラデラ・フィンガーだ」

 あいつが……。
 道理で雰囲気が他の悪魔達と違うわけだ。
 まだ遠くの方にいるのに、あいつの余裕さを感じることが出来る。
 つまりそれだけ強者ということか。

 「予想だが、今もハーシュの魂から魔力を吸い取っている。グラデラの魔力が、今も増幅されていってるからな」
 「俺はグラデラに勝てるか?」

 グラは少し迷うような仕草を見せたが、何かを決めたような表情をして俺の顔を見た。

 「反射の力を自由に使えれるようになれば、勝てる可能性が大きく上がる。だが今の状態だと……勝てない」
 「そうか……」

 勝てない、俺は今厳しい現実を突きつけられたのだ。
 あれだけルーレル達と特訓をしたが、それでもグラデラに力が及ぶことはない。
 俺はまだルーレルにも勝ったことがない。
 上級悪魔はルーレルと同等、又はそれ以上。
 俺が勝つなんて実に難しいことだ。

 こんな戦い諦めるか?
 勝てない相手に挑んで、命を捨てるような真似をするのか?
 下級悪魔だけを相手にするか?

 答えは否。

 諦めるなんてそんなもの、神達との特訓で捨ててきてやった。
 もう二度と拾ったりなんてしない。
 俺はハーシュを必ず助ける。
 
 この命に変えても、絶対に。


◇◆◇


 騎士達は乱れなく冒険者達の前に並んでいる。
 しかし、そんな騎士達よりも前に並ぶ者がいる。
 それが俺達勇者だ。
 
 もう悪魔達は目の前まで来ている。
 地獄の戦いはもうすぐ始まる。

 「悪魔なんてどうせ雑魚だろ」
 「所詮数だけよ」
 「僕たち勇者がいればどうって事ない」

 さっきの不安そうな顔はどこに行ったんだか。
 グラ達呆れてるぞ。

 「お前達は馬鹿か」
 「え……?」

 どうやらグラには強気で出れないらしい。
 あれだけの力の差を見せられたら、こうなるのも当然か。

 「とにかく浮かれるな。上級悪魔はまあまあ強いからな。余に比べれば雑魚だが」
 「わかった……」

 こいつらが大人しいってなんかいいな。
 いつも威張ってやがったからな。

 そんなことを考えていると、もうすでに悪魔達は一体一体の顔が見えるほどのところまで来ていた。
 
 「構え!」

 騎士団長の声と共に、騎士達は剣や盾を各自構えた。
 冒険者達もそれに合わせて剣を抜く。

 悪魔達はそれでも動じずに進んで来たが、グラデラが手を上げると悪魔達の足は止まった。
 
 「こんにちは、人間諸君。ついでに神もか」 

 国王は水晶に乗るグラデラを睨みつける。

 「俺達は悪魔を必ず滅ぼし、平和を手に入れる。貴様らに敗北などしない」
 「人間が平和だと? 面白い。なら平和とやらを手に入れて見せろ!」
 「やってやる。世界の平和を手に入れるために」

 国王の言葉に、騎士や冒険者、そして俺以外の勇者の目が変わる。

 「行くぞぉ!!!」

 騎士団長の合図と共に、皆声を上げながら悪魔達に向かって進んでいった。
 だが悪魔達は動こうとしない。
 
 「フッ。哀れな」

 グラデラは突撃していく騎士達を見て笑みを浮かべた。
 そしてゆっくりと立ち上がると拳を上げた。

 「起きろ。闇の神」

 やばい……何かが来る……!

 「皆んな伏せろ!!!」

 残念な事に俺の声は一切届かず、巨大な水晶が叩き割られると同時に赤い液体が地面を染めた。

 
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