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41話 そんな願いも

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 空は不気味なほど暗く染まり、時々轟音を鳴らしながら鋭い光を空中に走らせた。
 普段吹いているような風が、今だけはまるで不気味なように感じる。

 そんな中、黒いフードを纏った者達が侵攻を続けている。

 「どうしてや・つ・は人間界にいるのでしょうね」
 「さあな。でも僕の考えだと――」
 「お前に聞いてない」
 「はぁ? やっぱりお前ムカつくな」
 「私より雑魚がほざいてんじゃねぇぞ」
 「はぁ……」
 「「ひっ!」」

 自分たちの周りにいる仲間の視線など気にせずに、2人の人物は言い合いはヒートアップしていく。
 だが髭を生やす男がため息をつくと、2人は背筋を伸ばして黙りついた。

 「お前達はとしての自覚はあるのか」

 ただそう静かに問われただけ。
 なのにも関わらず、言い合っていた2人を含め、周りにいる者達も額から雫を流した。

 「はい……」
 「勿論です……」
 
 ピシャッ!と空気を割くような音を立てながら、稲妻は近くの木に落ちた。
 運悪く当たってしまった木は、緑に葉が一瞬にして焼かれ赤く燃え始めていた。
 
 「お前達はグレデラ様に恥をかかせるつもりか」
 「いえ。そんなつもりは全くありません。レレファス様」
 「リックはこう言っているが……サフィリはどうなんだ」
 「えっと……何がですか……?」

 おいふざけるなよ、と、この場にいる悪魔達は全員思っただろう。
 なんせレレファスと呼ばれた老人は、神にも劣らない上級悪魔のトップに立つ悪魔なのだ。
 そんな最強の悪魔に最も近い悪魔の話をまともに聞かず、何がですかと聞き返す愚か者がいれば、誰しもそう思うに違いない。
 
 だが今回は悪魔達が思っていた反応と違った。
 
 「はぁ……」

 レレファスはさらに深いため息をついた。
 どうやら呆れて何も言えないらしい。

 本当にリックとサファリには手がかかる……。
 他の上級悪魔は下級悪魔を指揮しているのに、この2人だけは絶対にやろうとしない。
 しかしこの2人は私に次ぐ強さだ。
 悪魔の戦力を落とさないために、リックとサファリは残しておかなければいけない存在だ。
 
 どうにかして落ち着かせなければ……。

 レレファスは先のことを考え頭痛を覚えながら、下級悪魔達が運ぶ巨大な水晶に目をやった。
 その水晶の上には、悪魔達を統べる者、グレデラが目を瞑りながら座っている。

 だがレレファスは、水晶の上にいるグレデラを見ているわけではない。
 水晶の中にいる、ある人物を見つめた。
 
 「クフフフ……。闇の神フネアス……貴様はに来るべきだ」

 そう誰にも聞こえない声で呟きながら、薄く笑みを浮かべた。
 

◇◆◇


 ここはどこだ……?

 水晶の中に閉じ込められるハーシュは、今置かれている状況に頭の整理が追いついていなかった。
 
 体が全く動かない。
 目を開けようとしても開くことが出来ない。
 しかし外から何かの音が聞こえる。
 
 どうしてこんなことになった?
 すでに記憶が曖昧になってしまっている。
 
 思い出せ……思い出せ……。

 少しずつ何が起こったのか思い出そうとする。
 すると、ハーシュの背中に微かな痛みを感じた。

 そうだ、思い出したぞ。
 突然現れた黒フード達に襲われて、そのまま気を失ってしまったのだ。
 確か私のことを闇の神……的なことを言っていたはずだ。
 一体あいつらは何者なんだ。
 私の剣技も何一つとして通じなかった。
 
 そんな相手……今まで誰も存在しない……。

 だがそれは後で考えればいい。
 今はどうにかして体を動かせるように――。

 今この状況を打破するための方法を考えようとした直後、ハーシュの全身に貫くような痛みが走った。

 ぐぎぃ……! あぁ……! なん……だ……これはぁ……。

 体が捩れるほど痛い……。
 燃えるように痛い……。

 くそ……どうして私がこんな目に……!
 
 痛みが体中に走り続け、次第に意識が薄れ始めていく。

 助けて……。
 ライ……私を……助けてくれ……。
 
 しかしそんな願いもまた叶うことなく、ハーシュの意識は消えていった。


◇◆◇


 この場にいるどれだけの人数が今日死ぬのだろうか。
 悪魔との戦いで、死者が出ないなどあり得ない。
 ましてやグラ達だって危ないのだ。
 そんな戦いで俺たち人間は生き残れるのか……?

 「おい見ろ! 国王様がお見えになったぞ!」
 「ほんとだ!」
 「確か1人で敵国の兵士を100人殺したんだったよな?」
 「マジかよ! もうこんなの負ける気がしねぇぜ!」

 静かに整列する騎士達を除いて、その場にいる者は、白馬に乗って姿を現した国王に歓喜した。
 あ、俺たちも除かなくてはいけなかった。

 「あいつがライを殺せと命じたのだな」
 「そうです……」
 「だったら余が今ここで――」
 「やめろやめろ!」

 危ないやつだ。
 今俺が止めなかったら絶対殺しに行ってただろ。
 
 「苦しめて殺そうと思ったのだがな」とグラが言ったような気がしたが、聞こえないふりをしておこう。

 止めるために握ったグラの手を離しながら、皆に注目されている国王を見た。
 その顔は実に余裕そうな顔だった。
 
 
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