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1話 裏の勇者達

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「おい、雑魚。これ持ってけよ」

 ニヤッと笑いながら、俺は道具が詰まった巨大な皮袋を突き付けられる。

 「はぁ……わかったよ」

 俺はため息を袋を受け取った。
 だが、俺の返答が気に入らなかったのか、その袋を地面に叩きつけた。
 大事な物が沢山入ってるのに、よくもそんなことが出来るな。

 「ため息なんかついてんじゃねぇぞ!」

 俺は至近距離で胸ぐらを掴まれて、グッと顔を近づけられる。

 「いいか。お前みたいな雑魚は、剣を一振りするだけで殺せるんだ。お前を殺そうとすればいつでも殺せる」
 「ドラウロ。それは言い過ぎだ」
 「うるせぇ! お前も毎回ライを庇うんじゃねぇ!」

 木にように太い腕で、俺を軽く持ち上げると、洞窟の壁に投げつけられた。
 俺は上手く受け身を取ることができずに、背中からぶつかってしまい、ジクジクと鋭い痛みが走った。

 痛みで視界が歪むが、早足で近づいてくる音に気付き顔を上げると、漆黒の長髪を揺らしている影が見えた。

 「ライ、大丈夫か……?」
 「ありがとうハーシュ……。でも、いつものことだから大丈夫だ……」

 心配そうに見てくるハーシュにぎこちない笑みを見せながら、壁に手をつきながらなんとか立ち上がる。

 いつものこと。
 そう。
 これは今だけの出来事じゃない。
 毎日繰り返される、地獄の習慣のようなものだ。

 俺達は現在6人でパーティーを組んでいて、俺を含めた全員が勇者に選ばれた者だ。
 それぞれが大きな功績を上げて、何千人といる冒険者の中から、勇者に選ばれた。
 今の俺達は、人類の脅威である魔王を倒すために、このパーティーを結成した。
 魔王を倒すことは、全ての冒険者の最終地点だ。
 共に過ごすことで、お互いの信頼関係が上がり、より魔王を倒す可能性が上がると考えられたからだ。
 
 だけど、それが俺にとっての地獄の始まりだった。
 俺以外の勇者の内、ハーシュを除いて、俺の胸ぐらを掴んだドラウロを含む4人が、とんでもなくやばい奴らだったのだ。

 俺以外の5人は、想像を絶する強さだった。
 初めてこの5人で魔物の討伐に向かった時は、どうして俺がこんなところにいるのだろうと思った。
 もしかしたら、今すぐ魔王の元に行っても倒すことが出来るのかもしれない程だ。
 この5人はそれほど強いのだ。

 それ故に、ハーシュ以外の者は何かを失ってしまったのだろうか。
 民衆には笑顔を振りまいて、子供に優しく接する。
 誰がどう見ても、善人でしかない。
 そのせいで、民衆からは尊敬され、国王からは褒め称えられる。
 ドラウロ達は、自分たちの立場を理解したのだろう。
 弱者は、絶対に逆らってこないと。

 俺はこのパーティーで1番弱い。
 そのせいで、まともに活躍出来たことがない。
 俺は一度、このパーティーを抜けたいと言ったことがあった。
 俺がいない方がいい。
 俺がいたら、足を引っ張る。
 そう思ったのだ。

 だが、ドラウロは笑った。
 優しい笑みではない。
 凶悪な笑みを、浮かべたのだ。

 『おいおい。抜けるってマジかよ。でも安心しろ。俺がそんなこと許さねぇからよ!』

 そう言って、俺は腹を思い切り蹴られた。
 他の3人は止めることなく、見て笑い続けた。
 俺も反抗したが、ドラウロには全く歯がたたなかった。
 あまりの酷さに、ハーシュが力尽くでドラウロを止めて、手当てをされる。
 一体何回これを続けただろうか。
 いや、何回じゃないな。
 何十回、何百回。
 なんて情けない。
 
 俺に力がもっとあれば、そう何回も思った。
 俺は何度も、自分を恨んだ。
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