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第六章 妖の善悪
五行相剋
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最終的に、桃華の呪力が先に底をつき、修羅の勝利で摸擬戦は終了した。
しょんぼりと肩を落としながら戻ってきた桃華へ、友達の女子塾生たちが駆け寄り、「凄い凄い」とはしゃいでいたので龍二は問題ないだろうと安堵する。
修羅のほうは龍二と目が合うと、気まずそうに目をそらすのだった。
講師は何事もなかったかのように次の対戦者を発表する。
「では次……遠野と貴船」
貴船の名前が呼ばれた途端、塾生たちの視線が彼女へ集中する。
当の本人はポカンと首を傾げていた。
「……え? 私ですか?」
「あぁ、大まかな情報はもらっているが、実際に君の技量を見せてほしい。改めて確認するが、式神とは契約していないんだな?」
「……はい」
一瞬の間があった。
なにやら違和感のようなものを感じるが、対戦相手の遠野は表情を引き締め先に中央へ歩き出していた。
その背中に静谷が声をかける。
「遠野くん、貴船さんは元々陰陽塾に通ってたわけじゃないから、手加減しないとダメだよ?」
「なに言ってんだ? 手加減するかどうかは、術を比べてみないと分からないだろ」
「ちょっと遠野くん!?」
遠野は聞く耳持たず歩いて行く。
こういうところに気を使えるところが、静谷の美点だと思う。
だが今は、遠野の言う通りだ。
前情報だけで相手が弱いと決めつけるのは、実戦では致命的な窮地を招く。
お手並み拝見と言ったところだ。
龍二はただ、貴船麗羅の一挙手一投足に集中するのだった。
「二人とも、準備はいいか?」
「「はい」」
講師の確認に遠野と貴船は頷き、呪符を構える。
「それでは……摸擬戦開始!」
「浄化の焔よ、悪鬼をひとしく焼き祓え――」
「悪しきを祓い、純水なる如く清めたまえ――」
「「急々如律令」」
同時に火の玉と水弾が放たれ、宙で激突し霧散する。
互いに相手の実力を悟ると、二人は連続して呪符を放った。
瞬時に無数の弾幕が張られていく。
しかしすべてが衝突するわけではなく、流れ弾は術者へ。
「「界」」
貴船と遠野は呪符を前方へ展開し、障壁を張る。
予想だにしなかった展開に、静谷が唖然と呟く。
「貴船さん、凄い……遠野くんと互角だなんて」
「いや、遠野のほうが分が悪い」
横にいた修羅が神妙な表情で否定した。
「え? どういうこと?」
「忘れたか? 水剋火だ」
「そうか! 水術を使う貴船さんと火術を使う遠野くんでは、相性が悪いのか」
五行相剋。
五つの性質は互いに打ち消し合う。
その性質の中でも水は火に強い。
水術と火術がぶつかるのなら、水術の威力は低くとも火術を打ち消すことができる。
つまり、水術の呪力消費は抑えられ、持久戦では遠野の分が悪いのだ。
しかし遠野は不敵な笑みを浮かべていた。
「ふんっ、俺が水剋火への対策をしていないわけないだろうが!」
水弾の飛来する中、三方向へ放たれた呪符の梵字が緑色に輝く。
木術だ。
貴船は動じず水術をぶつけるが――
「――っ!?」
「水は木を生ずってな」
水生木。
水を受けた呪符からはツタのようなものが生え、水術を受けるたび大きくなっていく。
貴船は水術による迎撃を中断し、障壁の強化に呪力を注いだ。
「……そういうことか」
龍二には見えていた。急速に成長しながら貴船へ迫る植物の裏に、もう一枚の呪符が貼られていることに。
そしてここぞとばかりに、遠野はありったけの呪力を発現する。
「木は火を生ず――木生火ぁっ!」
三方向へ飛んでいた木術は、突然燃え出し巨大な炎球へと変貌。
水で強化された木を媒介に生み出した火術だ。
並の水術では打ち消せない。
まともに喰らえば、いくら硬い障壁でも大量の呪力を奪われることだろう。
「くっ……」
悔しげに顔を歪める貴船。
まだまだ肥大化する炎の勢いは衰えず、逃げ場はない。
彼女は深く息を吸い、表情を消すと二枚の呪符を取り出した。
「……金は水を生ず――金生水」
「なにっ!?」
呪符を握っていた貴船の手が黄金に輝き、短刀のような呪具が具現化される。
そしてその刃の表面には、水を纏っていた。
それもただの水ではなく、圧縮された鋭利な水の刃だ。
――ズバァァァンッ!
水の刃は振るわれると同時に、広範囲に伸びる斬撃と化し、迫りくる炎球を斬り裂いて爆散させた。
さらに衝撃波は飛距離を伸ばし、術者である遠野まで届く。
「ぐぅっ!」
慌てて障壁が展開されるが、あまりの威力に透明な壁には亀裂が走り、一瞬で斬り裂かれた。
「――そこまで!」
慌てて講師がパンッ!と手を合わせ、結界内の術をすべて消滅させる。
「そんな……」
すんでのところで直撃を避けられた遠野は顔を引きつらせ後ずさる。
講師は告げた。
「貴船麗羅、君の勝利だ」
「……え?」
それまで表情を消し冷徹な眼差しをしていた貴船は、ようやく雰囲気を元に戻し、キョロキョロと周囲を見回した。
そして頬をほんのりと赤く染め、嬉しそうにはにかんだ。
「や、やったっ」
塾生たちが興奮に沸いて騒ぎだし、龍二は目を瞑ってしみじみと呟いた。
「また凄い人が塾に入って来たな……」
しょんぼりと肩を落としながら戻ってきた桃華へ、友達の女子塾生たちが駆け寄り、「凄い凄い」とはしゃいでいたので龍二は問題ないだろうと安堵する。
修羅のほうは龍二と目が合うと、気まずそうに目をそらすのだった。
講師は何事もなかったかのように次の対戦者を発表する。
「では次……遠野と貴船」
貴船の名前が呼ばれた途端、塾生たちの視線が彼女へ集中する。
当の本人はポカンと首を傾げていた。
「……え? 私ですか?」
「あぁ、大まかな情報はもらっているが、実際に君の技量を見せてほしい。改めて確認するが、式神とは契約していないんだな?」
「……はい」
一瞬の間があった。
なにやら違和感のようなものを感じるが、対戦相手の遠野は表情を引き締め先に中央へ歩き出していた。
その背中に静谷が声をかける。
「遠野くん、貴船さんは元々陰陽塾に通ってたわけじゃないから、手加減しないとダメだよ?」
「なに言ってんだ? 手加減するかどうかは、術を比べてみないと分からないだろ」
「ちょっと遠野くん!?」
遠野は聞く耳持たず歩いて行く。
こういうところに気を使えるところが、静谷の美点だと思う。
だが今は、遠野の言う通りだ。
前情報だけで相手が弱いと決めつけるのは、実戦では致命的な窮地を招く。
お手並み拝見と言ったところだ。
龍二はただ、貴船麗羅の一挙手一投足に集中するのだった。
「二人とも、準備はいいか?」
「「はい」」
講師の確認に遠野と貴船は頷き、呪符を構える。
「それでは……摸擬戦開始!」
「浄化の焔よ、悪鬼をひとしく焼き祓え――」
「悪しきを祓い、純水なる如く清めたまえ――」
「「急々如律令」」
同時に火の玉と水弾が放たれ、宙で激突し霧散する。
互いに相手の実力を悟ると、二人は連続して呪符を放った。
瞬時に無数の弾幕が張られていく。
しかしすべてが衝突するわけではなく、流れ弾は術者へ。
「「界」」
貴船と遠野は呪符を前方へ展開し、障壁を張る。
予想だにしなかった展開に、静谷が唖然と呟く。
「貴船さん、凄い……遠野くんと互角だなんて」
「いや、遠野のほうが分が悪い」
横にいた修羅が神妙な表情で否定した。
「え? どういうこと?」
「忘れたか? 水剋火だ」
「そうか! 水術を使う貴船さんと火術を使う遠野くんでは、相性が悪いのか」
五行相剋。
五つの性質は互いに打ち消し合う。
その性質の中でも水は火に強い。
水術と火術がぶつかるのなら、水術の威力は低くとも火術を打ち消すことができる。
つまり、水術の呪力消費は抑えられ、持久戦では遠野の分が悪いのだ。
しかし遠野は不敵な笑みを浮かべていた。
「ふんっ、俺が水剋火への対策をしていないわけないだろうが!」
水弾の飛来する中、三方向へ放たれた呪符の梵字が緑色に輝く。
木術だ。
貴船は動じず水術をぶつけるが――
「――っ!?」
「水は木を生ずってな」
水生木。
水を受けた呪符からはツタのようなものが生え、水術を受けるたび大きくなっていく。
貴船は水術による迎撃を中断し、障壁の強化に呪力を注いだ。
「……そういうことか」
龍二には見えていた。急速に成長しながら貴船へ迫る植物の裏に、もう一枚の呪符が貼られていることに。
そしてここぞとばかりに、遠野はありったけの呪力を発現する。
「木は火を生ず――木生火ぁっ!」
三方向へ飛んでいた木術は、突然燃え出し巨大な炎球へと変貌。
水で強化された木を媒介に生み出した火術だ。
並の水術では打ち消せない。
まともに喰らえば、いくら硬い障壁でも大量の呪力を奪われることだろう。
「くっ……」
悔しげに顔を歪める貴船。
まだまだ肥大化する炎の勢いは衰えず、逃げ場はない。
彼女は深く息を吸い、表情を消すと二枚の呪符を取り出した。
「……金は水を生ず――金生水」
「なにっ!?」
呪符を握っていた貴船の手が黄金に輝き、短刀のような呪具が具現化される。
そしてその刃の表面には、水を纏っていた。
それもただの水ではなく、圧縮された鋭利な水の刃だ。
――ズバァァァンッ!
水の刃は振るわれると同時に、広範囲に伸びる斬撃と化し、迫りくる炎球を斬り裂いて爆散させた。
さらに衝撃波は飛距離を伸ばし、術者である遠野まで届く。
「ぐぅっ!」
慌てて障壁が展開されるが、あまりの威力に透明な壁には亀裂が走り、一瞬で斬り裂かれた。
「――そこまで!」
慌てて講師がパンッ!と手を合わせ、結界内の術をすべて消滅させる。
「そんな……」
すんでのところで直撃を避けられた遠野は顔を引きつらせ後ずさる。
講師は告げた。
「貴船麗羅、君の勝利だ」
「……え?」
それまで表情を消し冷徹な眼差しをしていた貴船は、ようやく雰囲気を元に戻し、キョロキョロと周囲を見回した。
そして頬をほんのりと赤く染め、嬉しそうにはにかんだ。
「や、やったっ」
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