上 下
64 / 90
第五章 龍二の百鬼夜行

新たな仲間

しおりを挟む
 ひとまず龍二は話を戻す。

「ちょっと待て。俺は百鬼夜行の話なんてしてないぞ」

「は? 百鬼夜行の主の息子だって言う、お前が仲間になれって言ったんだから、その意味は一つだろ」

「んなっ!?」

 龍二は衝撃を受けたようにのけ反る。
 どうやら盛大な勘違いをされてしまったようだ。
 修羅の頭の中では、『仲間=百鬼夜行』というように変換されてしまっている。
 龍二は頭を抱えた。

「……待ってください」

 だがそこで救世主が現れた。
 口を挟んだのは桃華だ。
 修羅は彼女へ目を向けると睨みつけた。

「嵐堂か、なんか文句あんのか?」

「大ありです! 龍二さんの手助けをするだけならまだしも、百鬼夜行だなんて、私は聞いてません!」

「そりゃお前には言ってないからな」

「とにかく、私はまだあなたを龍二さんの側に置くべきとは認めていませんから!」

 龍二はさらに頭を抱えていた。
 桃華の言っていることがよく分からない。
 龍二は百鬼夜行の話は勘違いだと言いたいのに、論点が微妙にズレている。
 しかし修羅も、売られた喧嘩は買う主義なので、眉をひくひくと怒りに震わせていた。

「武戎くん、もう一度勝負です! もしあなたが勝てば、龍二さんの百鬼夜行入りを認めます。私が勝てば、私が龍二さんの百鬼夜行に加わります!」

 龍二はずっこけそうになった。
 雪姫はのんきに「人間を龍の臣に入れるのはちょっと……」なんてことを言っている。
 しかし武戎は頬を吊り上げて床に置いていた刀をとった。

「上等だ」

「この間のようにはいきませんよ」

 桃華は不敵な笑みを浮かべ、形代を握る。
 銀狼を出す気だ。
 一触即発の雰囲気に、障子に現れた目々連も不安そうに見守っている。
 龍二が慌てて止めようと足を踏み出すが、鈴が先に声を上げた。

「二人とも、ダメだよ!」

 彼女は小さな体で桃華と修羅の間に割って入る。
 
「り、鈴ちゃん?」

「喧嘩しちゃダメ!」

 いつもと違い真剣な表情で言い放つ彼女に、桃華は「うっ」と怯む。
 すると、鈴は修羅のほうを振り向き、彼にも強く言った。

「修くんもダメ!」

 龍二は修羅の気性の荒さを知っているため、ハラハラするが、彼の反応は意外なものだった。

「すまねぇ、鈴先輩……」

 なんと、しょんぼりと肩を落とし謝ったのだ。
 雪姫のことを「姉さん」と呼んでいたことといい、いつの間にか百鬼夜行内の力関係ができていたようだ。
 雰囲気的に、龍二も百鬼夜行の話は修羅の勘違いだと言いずらくなっていた。
 雪姫が困ったように眉尻を下げ、龍二へ「どうしましょう?」と目で訴えてくる。目々連も潤んだ瞳を向けて来て「止められるのは龍二様しかいない」と言っているようだ。

「……はぁ、分かったよ」

 場を収束させるため、龍二はため息を吐いて告げる。

「……修羅、よろしく頼むよ」

「……おぅ」

 その瞬間、武戎修羅は龍二の百鬼夜行・龍の臣に加わったのだった。


「――百鬼夜行か……」

 龍二は広い居間に一人、ポツンとあぐらをかき唸っていた。
 修羅と鈴は掃除の後片付けを、桃華は雪姫の手伝いをしに厨房へ行っている。

 やることのない龍二は、先ほどのやりとりから、百鬼夜行について考えていた。
 今の龍二に父の築いた龍の臣を継ぐ資格があるのか、そもそも陰陽師を目指す者が百鬼夜行を従えるというのはアリなのだろうかなど。
 もし一歩間違えば、先日時雨が言っていたように陰陽庁から追放されかねない。
 だからといって、支えてくれる雪姫や鈴たちをないがしろにするわけにもいかない。

「はぁ……どうしたもんか」

 肩を落としてため息を吐き、畳の上に大の字になって寝転がった。
 一番の問題は意志だ。
 なんとしても、父の百鬼夜行を継ぐのだという強い意志があれば、迷うことなく信じた道を突き進むというのに。自分に自信がないせいで迷いを断ち切れない。
 そうして答えが出せず寝転がっていると、外から声をかけられた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

京都かくりよあやかし書房

西門 檀
キャラ文芸
迷い込んだ世界は、かつて現世の世界にあったという。 時が止まった明治の世界。 そこには、あやかしたちの営みが栄えていた。 人間の世界からこちらへと来てしまった、春しおりはあやかし書房でお世話になる。 イケメン店主と双子のおきつね書店員、ふしぎな町で出会うあやかしたちとのハートフルなお話。 ※2025年1月1日より本編start! だいたい毎日更新の予定です。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

久遠の呪祓師―― 怪異探偵犬神零の大正帝都アヤカシ奇譚

山岸マロニィ
キャラ文芸
  ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼       第伍話 連載中    【持病悪化のため休載】   ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ モダンガールを目指して上京した椎葉桜子が勤めだした仕事先は、奇妙な探偵社。 浮世離れした美貌の探偵・犬神零と、式神を使う生意気な居候・ハルアキと共に、不可解な事件の解決に奔走する。 ◤ 大正 × 妖 × ミステリー ◢ 大正ロマン溢れる帝都・東京の裏通りを舞台に、冒険活劇が幕を開ける! 【シリーズ詳細】 第壱話――扉(書籍・レンタルに収録) 第弐話――鴉揚羽(書籍・レンタルに収録) 第参話――九十九ノ段(完結・公開中) 第肆話――壺(完結・公開中) 第伍話――箪笥(連載準備中) 番外編・百合御殿ノ三姉妹(完結・別ページにて公開中) ※各話とも、単独でお楽しみ頂ける内容となっております。 【第4回 キャラ文芸大賞】 旧タイトル『犬神心霊探偵社 第壱話【扉】』が、奨励賞に選ばれました。 【備考(第壱話――扉)】 初稿  2010年 ブログ及びHPにて別名義で掲載 改稿① 2015年 小説家になろうにて別名義で掲載 改稿② 2020年 ノベルデイズ、ノベルアップ+にて掲載  ※以上、現在は公開しておりません。 改稿③ 2021年 第4回 キャラ文芸大賞 奨励賞に選出 改稿④ 2021年 改稿⑤ 2022年 書籍化

片翅の火蝶 ▽半端者と蔑まれていた蝶が、蝋燭頭の旦那様に溺愛されるようです▽

偽月
キャラ文芸
  「――きっと、姉様の代わりにお役目を果たします」  大火々本帝国《だいかがほんていこく》。通称、火ノ本。  八千年の歴史を誇る、この国では火山を神として崇め、火を祀っている。国に伝わる火の神の伝承では、神の怒り……噴火を鎮めるため一人の女が火口に身を投じたと言う。  人々は蝶の痣を背負った一族の女を【火蝶《かちょう》】と呼び、火の神の巫女になった女の功績を讃え、祀る事にした。再び火山が噴火する日に備えて。  火縄八重《ひなわ やえ》は片翅分の痣しか持たない半端者。日々、お蚕様の世話に心血を注ぎ、絹糸を紡いできた十八歳の生娘。全ては自身に向けられる差別的な視線に耐える為に。  八重は火蝶の本家である火焚家の長男・火焚太蝋《ほたき たろう》に嫁ぐ日を迎えた。  火蝶の巫女となった姉・千重の代わりに。  蝶の翅の痣を背負う女と蝋燭頭の軍人が織りなす大正ロマンスファンタジー。

あやかし狐の京都裏町案内人

狭間夕
キャラ文芸
「今日からわたくし玉藻薫は、人間をやめて、キツネに戻らせていただくことになりました!」京都でOLとして働いていた玉藻薫は、恋人との別れをきっかけに人間世界に別れを告げ、アヤカシ世界に舞い戻ることに。実家に戻ったものの、仕事をせずにゴロゴロ出来るわけでもなく……。薫は『アヤカシらしい仕事』を探しに、祖母が住む裏京都を訪ねることに。早速、裏町への入り口「土御門屋」を訪れた薫だが、案内人である安倍晴彦から「祖母の家は封鎖されている」と告げられて――?

我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】 少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。 次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。 姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。 笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。 なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...