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第五章 龍二の百鬼夜行
失踪
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桃華は時雨の話にはあまり興味ないようで、龍二の体を見回していた。
「龍二さんのほうは大丈夫なんですか? また妖刀を抜いたって聞きましたけど」
「ああ。仕方なかったんだ。またあの力に助けられた」
龍二は神妙な表情で壁に立てかけてある黒災牙を一瞥した。
どうしても牛鬼戦の最後に桃華を傷つけてしまったことを思い出してしまい、胸が苦しくなる。
しかし桃華は、そんな龍二の葛藤も知らず、ずいっと身を乗り出して来た。
「じゃ、じゃあ、あのときのような姿になったんですか!?」
「あ、ああ」
興味深々といった彼女の様子に、龍二は戸惑う。
妖の力を使ったことを咎めるのかと思いきや、なんだか目を輝かせている。
「どうした? 妖の姿で気になることがあるのか?」
「えっ? べ、別に、あのときの龍二さんがカッコ良かっただなんて思ってませんから! もう一回見たいだなんて、思ってないんですからね!?」
「は? いや聞いてないから」
少しツンツンした感じでそっぽを向く桃華。
頬はほんのりと赤く、アホ毛は元気に跳ねていた。
龍二は容姿のことを聞いたつもりではないので、眉をしかめて「なに言ってんだコイツは」という表情になっている。
「と、とにかく、危ないことに首を突っ込むのはやめてください」
「分かった分かった」
龍二は気のない返事をして手をひらひらと振るが、桃華は「絶対分かってないだろ」と言うような目でジトーっと見てくる。
「それより、修羅は塾に来てないのか?」
「はい……私との摸擬戦以降、一度も塾には姿を見せていません」
桃華がまつ毛を伏せ残念そうに言うと、龍二も眉尻を下げ「やっぱりか」と呟いて寂しそうにため息を吐く。
首なしたちとの戦いの後、修羅も紫電によるダメージが大きく、龍二と共に入院していたが、数日後には病院を抜け出し姿をくらましていた。
復讐を果たした今、彼がこれからどうするのかは分からない。
ただ、もう二度と会えないかもしれないという不安は、龍二の胸を締め付けた。
「大丈夫ですよ。きっとまた戻って来ますから」
桃華は無理やり笑みを作って龍二を励まそうとする。
その反応が少し意外だった。
「いいのか? あいつは……」
そこまで言いかけて桃華が遮る。
「摸擬戦のことは気にしてません……というのは嘘で、次こそは勝とうと銀狼に芸を、じゃなかった術を覚えさせているんですから」
そう言って拳を握る。
龍二の心配は杞憂で、まっすぐで負けず嫌いな彼女は、修羅へのリベンジに燃えていた。
背後にゆらめく炎が見えそうなくらいだ。
いつもと変わらない様子に龍二は小さく笑う。
それを見て、桃華も嬉しそうに微笑んだ。
「まずは龍二さんです。雪姫さんや鈴ちゃんたちも心配しているでしょうから、早く退院して元気な顔を見せてあげてください!」
龍二は屋敷で待つ妖たちを思い、強く頷いた。
本邸へは銀次のほうから連絡がいっているらしいが、屋敷から出られない彼女たちは歯がゆい思いをしているに違いない。
包み込むような優しく微笑む雪姫や、天真爛漫に笑う鈴の顔が脳裏に浮かび、龍二は「仲間たちの元へ帰りたい」という思いを強くするのだった。
それから数日後、龍二は無事に退院した。
その間、桃華だけでなく静谷や遠野たちも見舞いに来てくれて、照れくさく感じた。
夕方の田んぼ道。
退院した龍二は桃華と一緒に本邸へ歩いていた。
なぜ一緒に来るのかと問えば、雪姫たちと一緒に龍二の退院を祝いたいのだとかなんとか。
雪姫から今日は鍋だと聞いたらしく、律儀に食材を買って来ている。
実際に持っているのは龍二だが……
「龍二さんのほうは大丈夫なんですか? また妖刀を抜いたって聞きましたけど」
「ああ。仕方なかったんだ。またあの力に助けられた」
龍二は神妙な表情で壁に立てかけてある黒災牙を一瞥した。
どうしても牛鬼戦の最後に桃華を傷つけてしまったことを思い出してしまい、胸が苦しくなる。
しかし桃華は、そんな龍二の葛藤も知らず、ずいっと身を乗り出して来た。
「じゃ、じゃあ、あのときのような姿になったんですか!?」
「あ、ああ」
興味深々といった彼女の様子に、龍二は戸惑う。
妖の力を使ったことを咎めるのかと思いきや、なんだか目を輝かせている。
「どうした? 妖の姿で気になることがあるのか?」
「えっ? べ、別に、あのときの龍二さんがカッコ良かっただなんて思ってませんから! もう一回見たいだなんて、思ってないんですからね!?」
「は? いや聞いてないから」
少しツンツンした感じでそっぽを向く桃華。
頬はほんのりと赤く、アホ毛は元気に跳ねていた。
龍二は容姿のことを聞いたつもりではないので、眉をしかめて「なに言ってんだコイツは」という表情になっている。
「と、とにかく、危ないことに首を突っ込むのはやめてください」
「分かった分かった」
龍二は気のない返事をして手をひらひらと振るが、桃華は「絶対分かってないだろ」と言うような目でジトーっと見てくる。
「それより、修羅は塾に来てないのか?」
「はい……私との摸擬戦以降、一度も塾には姿を見せていません」
桃華がまつ毛を伏せ残念そうに言うと、龍二も眉尻を下げ「やっぱりか」と呟いて寂しそうにため息を吐く。
首なしたちとの戦いの後、修羅も紫電によるダメージが大きく、龍二と共に入院していたが、数日後には病院を抜け出し姿をくらましていた。
復讐を果たした今、彼がこれからどうするのかは分からない。
ただ、もう二度と会えないかもしれないという不安は、龍二の胸を締め付けた。
「大丈夫ですよ。きっとまた戻って来ますから」
桃華は無理やり笑みを作って龍二を励まそうとする。
その反応が少し意外だった。
「いいのか? あいつは……」
そこまで言いかけて桃華が遮る。
「摸擬戦のことは気にしてません……というのは嘘で、次こそは勝とうと銀狼に芸を、じゃなかった術を覚えさせているんですから」
そう言って拳を握る。
龍二の心配は杞憂で、まっすぐで負けず嫌いな彼女は、修羅へのリベンジに燃えていた。
背後にゆらめく炎が見えそうなくらいだ。
いつもと変わらない様子に龍二は小さく笑う。
それを見て、桃華も嬉しそうに微笑んだ。
「まずは龍二さんです。雪姫さんや鈴ちゃんたちも心配しているでしょうから、早く退院して元気な顔を見せてあげてください!」
龍二は屋敷で待つ妖たちを思い、強く頷いた。
本邸へは銀次のほうから連絡がいっているらしいが、屋敷から出られない彼女たちは歯がゆい思いをしているに違いない。
包み込むような優しく微笑む雪姫や、天真爛漫に笑う鈴の顔が脳裏に浮かび、龍二は「仲間たちの元へ帰りたい」という思いを強くするのだった。
それから数日後、龍二は無事に退院した。
その間、桃華だけでなく静谷や遠野たちも見舞いに来てくれて、照れくさく感じた。
夕方の田んぼ道。
退院した龍二は桃華と一緒に本邸へ歩いていた。
なぜ一緒に来るのかと問えば、雪姫たちと一緒に龍二の退院を祝いたいのだとかなんとか。
雪姫から今日は鍋だと聞いたらしく、律儀に食材を買って来ている。
実際に持っているのは龍二だが……
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