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第四章 宿怨

謎の風

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「――式術開放『雷滅砲』!」

 般若は不意打ちにも関わらず、大きく跳んで緊急回避。
 彼が興味深そうに術者のほうを見ると、銀髪の青年が全身黒こげになった武戎へ駆け寄るところだった。

「武戎!」

 地面にもくっきりと黒い焦げ跡が残り、その上へ武戎は倒れる。
 龍二は駆け寄るも、あまりの熱気に頬を歪ませた。

「酷い……」

 武戎の体からは煙が立ち、肌も真黒に焦げて見るも無残な有様になっている。
 しかし奇妙なことに衣服は無事だ。
 通常の炎で焼かれたわけでないことは一目瞭然。
 龍二は武戎をかばうように前に立ち、般若を睨めつけた。

「お前がやったのか、妖!」

「ふむ、少々誤解されてはいるが、おおむね間違いない」

「よくもっ!」

 般若の淡々とした答えは、龍二の逆鱗に触れた。
 両手に呪符を握って、すぐにでも戦える体勢をとる。
 しかし般若は、右の掌を龍二へ向けて言った。

「まあ待て若者。一つ聞きたい」

「……」

「龍の血を知らないか?」

「っ! ……それを知ってどうする?」

「聞いているのはこちらなのだが……ふむ、微かな妖気を感じるな」

 般若は顎に手を当て、龍二を凝視する。
 龍二は目の前の男が時雨の言っていた、「龍の血を探している妖」なのだと悟り後ずさった。
 彼はおそらく、龍二の背中に背負っている黒災牙から漏れ出る妖気を感じとっているのだろう。
 
「そこらの妖などよりも、遥かに禍々しく強いな。おぬし、半妖か? たしか、龍の血の持ち主も半妖だとおに夜叉やしゃ殿が言っていたが……」

「……まさか、お前が母さんを殺したのか!?」

「ん? おぬしの母など知らんわ。しかしこれは行幸ぎょうこう。先刻、龍の血の持ち主を知ってどうするのかと問うたな? 答えは、我が主に捧げるのよ!」

 叫ぶと同時に、喜々として般若が地を蹴り、急接近する。
 想像を絶するスピードだ。

「くっ!」

 龍二は遅れて障壁を張ろうとするが、呪符の展開が間に合わない。
 直撃を覚悟した龍二だったが、そのとき――

「――っ!?」

 般若が突然、突進を止め後ろへ跳び退いた。
 次の瞬間、彼のいた場所をさかいに横一文字に空間が裂けた。
 遅れて吹き荒れる凄まじい強風。

「な、なんだ!?」

 龍二は暴威にさらされてひざまづき、なにが起こったのかまったく理解できなかった。
 風が止み、前を見てみると、地面が大きく裂け横一文字の亀裂が入っている。
 それはまるで、般若と龍二を遮る境界でも作ったかのようだ。
 般若も険しい表情で周囲をゆっくり見回している。

「なんだ、今の強大な妖気は……ちぃっ、邪魔が入ったか」

 般若は忌々しげに舌打ちすると、脳に焼き付けるように龍二を今一度凝視し、地を蹴った瞬間姿を消した。

「な、なんだったんだ、いったい……」

 慎重に周囲を見渡すが、一瞬だけ感じた強い妖気はもうどこにもない。
 混乱に顔をしかめ立ち尽くす龍二だったが、後ろで武戎のむせる声が聞こえ、我に返って慌てて駆け寄った。 
 彼は荒い呼吸を繰り返しているが、一命は取り留めたようだ。

「は、早く医者に――え?」

 龍二が携帯を取り出して電話をかけようとしていると、彼の袖を武戎が引っ張っていた。

「……やめろ。余計な、ことをするな……」

「な、なに言ってるんだ!? このままじゃ死ぬぞ!?」

「だい、じょうぶだ……邪魔を、されるわけには……いか、ない」

 ぎらつく目でそう言った後、武戎はガクンと倒れ意識を失った。
 慌てて心音を確認するが、気絶しているだけのようだ。

「いったいどうしろって言うんだよ……」

 龍二はしばし茫然とするが、このま放っておくわけにもいかず、彼を背負い公園を歩き去った。

 龍二は時雨から龍の血を探す妖が現れたと聞いた日から毎晩、町を歩き回っていた。
 それが母の仇と繋がっている可能性があったからだ。
 もちろん、雪姫たちが黙ってはいなかったので、塾終わりに本邸へ帰ることなく一通り回ってから帰るということを繰り返していた。
 それを続けていったことで、運良く武戎の危機に駆けつけることが出来たのだ。
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