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第三章 もう一人の半妖
桃華の実力
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桃華は牽制とばかりに、早速数枚の呪符をポーチから取り出し放つ。
「悪しきを祓い、純粋なる如く清めたまえ、急急如律令!」
「界」
連続して放たれる水弾。
対して武戎は、眉一つ動かさず呪文すら唱えずに、数枚の呪符を宙に並べ障壁を張る。
だがそれでも強度は十分だ。
マシンガンのような勢いで水弾が打ち付けられるが、ビクともしない。
そして一枚余分に持っていた呪符を桃華へと投げる。
「火術」
「界!」
水弾の軌道を避けて飛来した炎球は桃華の張った障壁によって消滅。
たった一枚の呪符に詠唱もなしだったが、それでも目を見張る威力だった。
少なくとも、先日の摸擬戦で遠野が使った木生火と同等かそれ以上だ。
二人はしばらく、互いに結界を組み直しながら、火術と水術の応戦を繰り返す。
塾生同士の術比べとはいえ、比類なき速さで術をぶつけ合い、見学している塾生たちもレベルの違いを見せつけられていた。
いつになっても互いの顔に疲弊の色は見えない。
痺れを切らした桃華が次の一手に出る。
「やっぱり、一筋縄ではいかないようですね。なら全力でいきますよ! 式神招来『銀狼!』」
彼女が目の前に叩き付けたのは形代。
そしてそれは白銀の光を放ち、影が四足歩行の形を作っていく。
やがて生まれたのは、綺麗な銀色の毛皮に覆われた、黄金の瞳を持つ狼だった。
鋭い牙を光らせ獰猛な息遣いで武戎を睨む白銀の狼は、「ワオォーンッ!」と高い遠吠えを上げる。
「す、凄い! 嵐堂さんも式神が使えたんだ!」
龍二の横で静谷が興奮の声を上げる。
桃華の友達の女子塾生たちも「凄い凄い」と興奮して手を握り合っている。
遠野は悔しそうに拳を握っていた。
「銀狼、突撃!」
桃華の合図で、銀狼は武戎へと走り出す。
ジグザグの軌道をとり、とてつもないスピードで。
武戎も炎球を放って弾幕を張るが、銀狼は冷静にその軌道を見切って最小限の動きで避けながら進む。
一瞬の後に武戎へと肉薄した銀狼は、地を蹴って跳び上がり、武戎の左下から右肩にかけてその強靭な爪を振るう。
「くっ!?」
初めて武戎の表情が驚愕に変わった。
鋭利な爪は彼の張った障壁をまるで紙切れのように切り裂いていたのだ。
武戎は冷静に、左に握る鞘で宙の銀狼を叩こうと振り上げるが、銀狼は足で鞘の横側を蹴り跳び退く。
だが隙はできた。
武戎は再度障壁を張ろうとするも――
「――その隙は与えません! 土術! 水術!」
突如彼のすぐ下から、土でできた棒のようなものが一斉に襲い掛かる。
二人の動きをよく見ていた龍二には、すぐに気付けた。
桃華は銀狼の足に呪符を仕込んでいたのだ。
銀狼が跳び上がる際に床へ落とし、障壁を破った直後、土術で追撃するために。
武戎が鞘で受け流そうとするが、桃華は既に水術も放っている。
彼に逃げ場はない。
「凄い……」
龍二は思わず震えた。
彼が記憶している限り、桃華は牛鬼戦の際に木術も見せており、彼女は少なくとも五行のうち木、土、水の三種類は使えるということだ。
それに加えて式神まで契約している。
これでは疑いようもない。彼女の才能は本物だ。
「これで終わりです!」
勝ちを確信する桃華。
下からは土術、前方からは水術、障壁を張っても銀狼が切り裂くという絶対絶命の武戎は、それでも冷静に左手の鞘を振り上げた。
鞘を握る手の隙間には、形代が挟みこまれている。
「あれはっ!?」
「終わりはお前だ。式装顕現『焔刀・罪火』」
次の瞬間、武戎の鞘へと周囲の空気が吸い込まれ、凄まじい量の炎が生まれる。
燃え盛る紅蓮の炎は、鞘全体を包んで灼熱の刀と化した。
「ふんっ!」
熱気と共に炎の刀が振るわれ、一瞬にして土も水も消滅する。
「悪しきを祓い、純粋なる如く清めたまえ、急急如律令!」
「界」
連続して放たれる水弾。
対して武戎は、眉一つ動かさず呪文すら唱えずに、数枚の呪符を宙に並べ障壁を張る。
だがそれでも強度は十分だ。
マシンガンのような勢いで水弾が打ち付けられるが、ビクともしない。
そして一枚余分に持っていた呪符を桃華へと投げる。
「火術」
「界!」
水弾の軌道を避けて飛来した炎球は桃華の張った障壁によって消滅。
たった一枚の呪符に詠唱もなしだったが、それでも目を見張る威力だった。
少なくとも、先日の摸擬戦で遠野が使った木生火と同等かそれ以上だ。
二人はしばらく、互いに結界を組み直しながら、火術と水術の応戦を繰り返す。
塾生同士の術比べとはいえ、比類なき速さで術をぶつけ合い、見学している塾生たちもレベルの違いを見せつけられていた。
いつになっても互いの顔に疲弊の色は見えない。
痺れを切らした桃華が次の一手に出る。
「やっぱり、一筋縄ではいかないようですね。なら全力でいきますよ! 式神招来『銀狼!』」
彼女が目の前に叩き付けたのは形代。
そしてそれは白銀の光を放ち、影が四足歩行の形を作っていく。
やがて生まれたのは、綺麗な銀色の毛皮に覆われた、黄金の瞳を持つ狼だった。
鋭い牙を光らせ獰猛な息遣いで武戎を睨む白銀の狼は、「ワオォーンッ!」と高い遠吠えを上げる。
「す、凄い! 嵐堂さんも式神が使えたんだ!」
龍二の横で静谷が興奮の声を上げる。
桃華の友達の女子塾生たちも「凄い凄い」と興奮して手を握り合っている。
遠野は悔しそうに拳を握っていた。
「銀狼、突撃!」
桃華の合図で、銀狼は武戎へと走り出す。
ジグザグの軌道をとり、とてつもないスピードで。
武戎も炎球を放って弾幕を張るが、銀狼は冷静にその軌道を見切って最小限の動きで避けながら進む。
一瞬の後に武戎へと肉薄した銀狼は、地を蹴って跳び上がり、武戎の左下から右肩にかけてその強靭な爪を振るう。
「くっ!?」
初めて武戎の表情が驚愕に変わった。
鋭利な爪は彼の張った障壁をまるで紙切れのように切り裂いていたのだ。
武戎は冷静に、左に握る鞘で宙の銀狼を叩こうと振り上げるが、銀狼は足で鞘の横側を蹴り跳び退く。
だが隙はできた。
武戎は再度障壁を張ろうとするも――
「――その隙は与えません! 土術! 水術!」
突如彼のすぐ下から、土でできた棒のようなものが一斉に襲い掛かる。
二人の動きをよく見ていた龍二には、すぐに気付けた。
桃華は銀狼の足に呪符を仕込んでいたのだ。
銀狼が跳び上がる際に床へ落とし、障壁を破った直後、土術で追撃するために。
武戎が鞘で受け流そうとするが、桃華は既に水術も放っている。
彼に逃げ場はない。
「凄い……」
龍二は思わず震えた。
彼が記憶している限り、桃華は牛鬼戦の際に木術も見せており、彼女は少なくとも五行のうち木、土、水の三種類は使えるということだ。
それに加えて式神まで契約している。
これでは疑いようもない。彼女の才能は本物だ。
「これで終わりです!」
勝ちを確信する桃華。
下からは土術、前方からは水術、障壁を張っても銀狼が切り裂くという絶対絶命の武戎は、それでも冷静に左手の鞘を振り上げた。
鞘を握る手の隙間には、形代が挟みこまれている。
「あれはっ!?」
「終わりはお前だ。式装顕現『焔刀・罪火』」
次の瞬間、武戎の鞘へと周囲の空気が吸い込まれ、凄まじい量の炎が生まれる。
燃え盛る紅蓮の炎は、鞘全体を包んで灼熱の刀と化した。
「ふんっ!」
熱気と共に炎の刀が振るわれ、一瞬にして土も水も消滅する。
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